異世界転生したのはボクじゃなくて…オレ!?
モラトリア無職エンペラー
第1章
転生したら無頼漢だった件
001
踏んだり蹴ったりなんて
「立て続けに酷い目に
不幸の度合いなら、ソイツに比べりゃオレの方がよっぽどだ。
オレ? そうだな、言っても信じて貰えないだろうけどさ。
泣きっ面に蜂……いや、
◆
スマホの画面に映るのはマッシュショートの
しかし髪を整え終えても、なんとなくいつもとは違う気がする。
「
隣を歩く、制服に身を包んだ細マッチョがオレに尋ねた。
「ホントだ。なんか変だと思ってたんだよな」
寝坊したので朝メシを捨て身支度を取ったが、起き抜けのアタマは十分に回っていなかったらしい。
「なぁ。もしなんでも願いが叶うならどうする?」
「フリが急だし雑すぎんだろ……まぁ、可愛い彼女かな」
嘘をついた。
オレが望むのは大金でも
だがこの会話が求めてるのはマジな
だから言わない。
ただ自分の学力で行ける一番上の学校に挑戦し、それが成功しただけだ。
市立中学に通っていたこともあり地元の友人達は勉強に熱心ではなく、オレと同じ学校に合格した人間は一人もいなかった。数メートル前方をとぼとぼ歩く、アイツを除けば。
根暗で、オタク仲間とだけ会話し、学校行事を嫌う。オレとは正反対な奴だ。暇さえあれば
中学を卒業するまで、アイツとはお
何故かって?
……友情を破壊するような一言をオレが言っちまったからだ。
*
都内の高校に進学したオレとアイツは別々のクラスに割り振られ、お互いに自分のクラス内で新たな交友関係を構築した。帰りの電車で会った時くらいは話したが、わざわざ別クラスに訪ねて喋りに行くほどじゃなかった。
高2の春、進級の結果アイツと同じクラスになった。アイツは相変わらず、休み時間の
しかし何かが気に食わなかったのだろう、オレの隣で昼飯を食っていた細マッチョこと谷口が言った。
「な、
最初は谷口含めたクラスメイト数人と昼食ついでに雑談していただけだった。しかし
だが指名されたのなら話は別だ。その状態で無視を貫けるほどオレは強い人間じゃない。
答えは分かってる。この場で求められてるのは「同意」の
「ハハ……それな」
声は震え、目が泳ぐ。どうかアイツの耳に届かないでくれ。
祈るオレを戒めるかのように、授業のチャイムが鳴り響いた。
その日を境に友和との交流は消え去った。
オレの同意が聞こえていたのだろう。向こうはオレを避けるようになったし、バツが悪くて自分から謝罪することも出来なかった。
あの時求められていたのは、確かに一択。だがそれを言うか言わないか、オレは選択肢を
*
それが起きたのは、8月の終わりだった。
夕方、帰宅ラッシュ真っ最中の駅のホーム。特急列車が通過するというアナウンスの直後、耳を突き刺すような女性の悲鳴が
「誰か、誰かタクマを助けて!」
緊急停止ボタンを押しに行こうと乗車列から離れると直後ブザーが鳴り響いた。誰かが線路に飛び降りる。それは見知った制服を着た、見知った顔の男。
「友和!?」
思わず口をついてアイツの名前が出る。周りの人間がオレへ視線を注ぐが、そんな事は目の前で起こる救出劇から目を離す理由にはならない。
男の子は落下時に頭を打ったのか、ぐったりとして目を覚ます気配はない。モタモタと男の子からランドセルを外した友和は、ホームへそれを放り投げると、男の子の腕を掴みリュックを背負うように
だが、動きが鈍い。焦り、緊張、それに普段から運動していないせいもあるのだろう。
友和がライトに照らされる。ブレーキ音がどんどん大きくなる。
頭が真っ白になったオレは、荷物を捨てて線路に飛び込んでいた。友和の肩からぶら下がる男の子の胴体を担ぎ上げ、声を張り上げる。
「友和、ホームへ上げるのは無理だ! 向こうにある避難スペースに突っ込むぞ!」
「お……おう!」
友和の表情は背中越しで見えないが、多分驚いているのだろう。
足元はライトで真っ白に照らされ、聞こえるのは母親の絶叫と近づいてくるブレーキ音。
まだか
避難スペースは前を走る友和でも手の届かない先にある。
はやく
迫るブレーキ音 足元から振動すら感じる
友和の手の届く距離に避難スペース──
背後に巨大な鉄の気配
まにあわない
オレは唸りを上げて友和にタックル 抱えていた男の子をぶん投げる
1秒が1時間にも感じる。まるでスローモーションだ。刹那、避難スペースに背中を打ち付けた友和と目が合う。何か言おうと口を開け──
ゴ という音と共に、オレの意識は途切れた。
◆
体がガタッと揺れたのを感じ、急速に覚醒が近づく。授業中に居眠りした奴がたまになるアレだ。大概はその後1日はイジられる。
あぁ嫌だ……いま何限目だっけ?
そう思いながら
「は?」
ただの森ならまだ良かったのかもしれない。いや良くはない。
気になるのは、自分が立っている周囲一帯が明らかに火災が起きた後だということ。
家だったであろうモノは基礎だけを残しボロボロに焼け落ち、炭臭さと共に嗅いだことのない生臭さを感じた。
頭の中が疑問で埋まり、思考を停止しそうになる。が、一瞬で我に返った。
「オレ……裸じゃん」
全裸のまま知らない森に佇んでいる。一体何の冗談だ?
「聞いたことのない言語だな」
背後からグルルルと、獣が喉を鳴らしたような低音が聞こえた。耳に入っているのはそれだけのはずだが、頭の中では意味ある言葉として理解されている。
恐る恐る振り返ると、そこには竜が仁王立ちしており、こちらを見下ろし睨んでいた。
「あ……あぁ……」
その場にへたり込む。修学旅行のお土産にデザインされているような胴長の龍ではなく、ファンタジー映画に登場するタイプの、竜。
真っ青の鱗に身を包んだそれは、大きい生物なんて表現じゃ到底足らない。言うならば、手足が生えた5階建てのマンションだ。
「貴様、なぜ焼き殺され続けようとも反撃しない」
竜が
オレの右腕が、根本から無くなっていた。
竜が尻尾を一振りしたのだと遅れて気付いた。
あまりの異常事態に脳が痛みを認識せず、
「空から来たる
竜が
竜はオレから目線を外し天を
「確かにここは
再び竜に見下される。
「ひとまずは、去る。しかし覚えておけ。吾輩はお前を見ているぞ」
そう唸ると、竜は地を
「夢であってくれ」
目を閉じる。
「これは夢だ」
自分に言い聞かせるように繰り返す。
しばらくそのまま寝転んでいると、張り詰められていた緊張の糸がぷっつり途切れた。
押し寄せてきた疲労感に身を任せ、遠くから聞こえた規則正しい足音を子守唄にしてオレは意識を放り投げた。
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