第1章 2.クエストやれば転生できるらしい

――転生してみませんか?


カルアは確かにそういった。


転生ということは、人生のやり直しをさせてくれるということか?


「はい、生まれ直すわけではなく、別の世界で続きを生きてもらう感じですね。」


カルアは、宙に指を動かしながら告げる。


「どんな世界がいいですか?元の世界だと面白みがないですし、魔法とかがある世界がいいですか?それとも機械文明の発展したSFとか――」


カルアが、指で何かに触れるようなしぐさをすると、次々に世界の情景が移る。


――俺がもともといた石のビルが立ち並ぶ世界。


――モンスターが徘徊し、人々が剣と魔法で冒険をしている世界。


――ロボットが町中を動き回っている、機械の世界。


――宇宙空間を自由に飛び回り惑星間を移動している、SFの世界。


いろいろな世界を見せられて、思わず息を呑む。


カルアは、どこがいいかなーと呟いて思案している。


本当に転生できる流れになっている。しかし、本当にこのまま転生してしまって大丈夫なのだろうか?


「え?何がですか?」


カルアが俺の思考を読み、何を心配しているのか聞いてくる。


「人の魂って、必要だから浄化して輪廻転生させてるんだろう?」


「まぁ、それはそうですね。浄化して綺麗にしてあげないと濁ってしまって世界にも悪影響があるんです。」


「じゃあ、そんな思い付きで転生とかしちゃだめなんじゃないのか?」


「あー、そういうことですかー。」


カルアはやっと言いたいことがわかったというように頷く。


「タクヤさんの心配するようなことはないですよ。魂が濁るといっても何度も繰り返したらって話です。世界への影響も数千億以上ある魂をそのままにしたらって意味です。1人の1回の転生くらいは誤差ですよ。」


そういうものなのだろうか。確かに、俺がいた世界だけでも数十億の人がいた。


人間以外の魂や、先ほど見た別の世界の魂の数まで考えると、俺一人の魂がどうなろうと確かに誤差なのかもしれない。


「それで、どうしますか?」


カルアは、転生するのかどうかを聞いてくる。


「させてもらえるなら、転生したいかな。」


死んでこのまま終わるだけだったのだ。人生をもう一度やり直せるのであれば、断る理由はないだろう。


「本当ですか!」


カルアは嬉しそうに、俺のほうに近づいて手を握る。急に距離を詰められて、顔が近くて恥ずかしくなる。


「あ、でも1つだけ条件があるんです。」


カルアは忘れていたといういうように言う。


「条件?」


「はい。といっても大したことではないです。」


「私の暇つぶしに付き合ってください!」


カルアは、大まじめですという表情でそう告げた。暇だったとは言っていたが、まさか暇つぶしに付き合えと言われるとは思わなかった。


「暇つぶしに付き合うって、今ここでか?」


「いえ、転生した後のことです。」


「定期的に私の話し相手になってほしいのと、私のお願いを聞いてほしいんです。」


転生後に付き合ってほしいということらしい。話し相手はわかるが、お願いとは何だろうか。


「そうですねー。ゲーム例えると、クエストみたいなものです。村娘を助けてほしいとか、アイテムを入手してほしいとか、国を救ってほしいとか」


ゲームに例えてもらったおかげで分かりやすかった。つまり、カルアが出したクエストをこなし欲しいということか。


「達成できなかったときはどうなるんだ?」


「そうですねー……」


カルアは少し悩んだようなしぐさをする。


「達成するまでセーブポイントからやり直しできる、というのはどうですか?」


とんでもない提案をされてしまった。セーブポイントからやり直しというのは、ゲームで言う「セーブ」と「ロード」ということだろうか?


「はい、その理解であっています。」


さすがにその力は、チート過ぎるのではないだろうか。


「確かに、自由にやり直しできてしまうと少し面白くないですね。」


面白いか、面白くないかの問題なのだろうか……。女神というのは、そんなことも簡単にできてしまうのか。


「私の力では無理なので、時空の女神にお願いして何とかしてもらいます。」


時空の女神様が何とかしてくれるらしい……。もう、何でもありな気がしてきた。


まぁ、神様なんだしそれくらいは……やっていいのか?


「誤差ですよ、誤差。やり直しで多少周りの人の運命は変わりますが、ゲームもそんなものでしょう。」


カルアの感覚では、人の人生も、ゲームの登場人物の人生も、大して差はないのかもしれない。そう考えると、目の前の女神の感覚に少し寒気を覚える。


「酷いこと考えてますね。言い方は悪かったかもしれませんが、さすがにそこまで思っていませんよ。」


「やはり、自由にやり直しは面白くないので、オートセーブでクエスト失敗の時だけやり直しにしましょう。」


「クエスト失敗の基準はそうですねー、達成不可になったと私が判断したらにしましょうか。」


カルアはどんどん話を進めていく。


オートセーブで失敗の判断がカルアであれば、自由にやり直しというのはできないだろう。しかし、やり直しができるというだけで十分にチートだ。


「わかった。それなら条件のほうも大丈夫だと思う。」


能力がもらえるのであれば、もらっておいたほうが良いだろう。そう思い、俺はカルアの条件に了承を返す。


「ありがとうございます!では、これにて契約は成立です。」


カルアがそう口にすると、俺の体が淡く発光する。


少しして光は消え去った。


突然のことに、身体に触れて確認してみる。特に何も変わったところはないように思える。


「神々が契約するときに起こるエフェクトのようなものです。身体や魂に害はないので大丈夫ですよ。」


「そ、そうなのか……」


「女神の恩恵を授けるために必要なだけなので。」


「それでは、そろそろ転生のほうも進めましょうか。クエストの件もありますし、転生する世界はやはり剣と魔法の世界にしましょう。」


いつの間にか、転生先が剣と魔法の世界に決まっていた。異世界転生なら、剣と魔法にはあこがれがあるので特に異存はない。


「転生後はサポートをつけますから、仲良くやってくださいね。」


「え、サポート?」


「まぁ、行けばわかりますよ。説明はその子から聞いてください。」


いつの間にか鮮明だった体の色が薄くなってきている。


「最初のクエストをお伝えしておきますね。」


「アムド村にいるリサを救ってください。」


――メインクエスト:「リサを救う」を受領しました。


頭の中に声が響く。


「これがクエストか。」


本当にゲームみたいだ。


「それでは、第2の人生楽しんでくださいね。」


「――そしてどうか、私を退屈から解放してください。」


そのカルアの声を最後に、卓也の意識は途切れた。


◆◆◆◆◆◆◆◆


「ふぅ、行きましたか。」


「冒険のサポートはアリアに任せるとして――」


「タクヤさんをどんな運命に導きましょうか。」


カルアは卓也がいなくなった後、フォルダを整理するよう宙で指を動かす。


「あの世界の人たちの人生は――」


「なるほど、この人とこの国と、これは必須イベントですねー。」


独り言をつぶやきながら、人や国の運命を見て整理していく。


それはまるでゲームのシナリオを組み立てているようであった。


「すごくワクワクします……!」


カルアは感情が抑えられないというように、満面の笑みを浮かべている。


「まっさらな運命を自分で書いていく。ずっとやってみたかったんです!どんな人生がいいでしょうか?」


「幸福な人生、絶望な人生、孤独な人生、平凡な人生……やはりイベントは多いほうがおもしろいですよね!」


「時空の女神に借りまで作ったんですから、どれだけ細い運命でも通して見せます!《最強》とぶつけてみるのも面白いかもしれません!」


「ああ!ああ!!!――自分の好きにできるって、とても楽しいです!」


「契約を受け入れてくれて感謝しますよ、タクヤさん――」


神々の契約は簡単に解くことはできない。


神と神の間の約束事に強制力を持たせるための代物だ。


本来、運命の女神は運命を見るだけで干渉することはできない。


しかし、転生という蘇りの代償として本人が了承した。


すべての運命を見通すことができる運命の女神が出すクエスト。


行動の目的を強制されるということは、運命を操られるのと同義だ。


運命の女神が導く先は、幸福なのか、絶望なのか。


タクヤの第2の人生は、何もかもがカルアの気まぐれで決められるだろう。


****あとがき****


読んでいただいてありがとうございます。


少しでも続きが気になると思っていただけたら、作品の応援♡や評価☆をいただけると、作者がとても喜びます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る