女神の暇つぶしに突き合わされた~異世界でセーブポイントから何度も繰り返すことに~
谷翔
第1章:アムド村編(村娘を救う)
第1章 1.女神の暇つぶし
――西村卓也は死んだ。
「タクヤさーん、起きてください。」
目の前の女の子が俺の顔を覗き込んで、声をかけてくる。目覚めたばかりで思考がはっきりしていない。
周りを見ても何もない空間で自分自身が浮いているようにも思える。
これは夢だろうか?
「夢じゃないですよー。」
夢ではないと訂正された。そもそもこの美しい女の子は、誰だろう。髪は美しい金髪で蒼い綺麗な目は、明らかに日本人ではない。
「美しいなんて、ほめ上手ですね……。簡単に状況を説明するとですね。」
「――タクヤさんは先ほどお亡くなりになりました。」
え?死んだ?俺が?
「はい、もう見事にお亡くなりになりました。」
これはやっぱり夢なのかもしれない。
「もー、夢じゃないですってば!」
「信号無視のトラックにひかれて亡くなったんですけど、覚えてません?」
まだ、目覚める直前のことを思い出そうとするも、記憶がはっきりしない。
「じゃあ、少し死ぬ直前の記憶を掘り起こしますか。」
その子がそういうと、死ぬ直前の記憶が鮮明になってくる。
いつものように仕事を終えて、帰りに買い物をして、家に帰宅する途中だった。仕事の疲れのせいか、横断歩道で信号を待っている間、少しぼーっとしていた。信号が青に変わって歩き出したところで、何かが光って強い衝撃が身体に走って――。
「思い出せましたか?」
思い出せた。
俺は本当に死んでしまったらしい。
思い出してみると、なんともドラマも何もない死に方だった。
「人の死なんてそんなものですよー。」
じゃあ、ここは死後の世界なのか?
「死後の世界というか、死後の通り道というか、そんなところです。」
「ここを通って天界に送られた魂を我々女神が浄化して世界に返して言ってるんです。輪廻転生ってやつですねー。」
女神、浄化、輪廻転生……。女の子のいった単語を理解しようと、頭の中で反芻する。
つまりは、この目の前の子が女神様ということか。
「はい、私は運命の女神。カルアといいます。よろしくお願いしますね。」
女神様は自己紹介をしてくれる。それに返そうとして、俺は自分が一度も声を発していなかったことに気づく。
もしかして、考えてることが直接読まれてるのか?
「女神ですからー。それくらいはできますよ!」
女神様は、胸を張ってどこか誇らしげだ。
「あ、その女神様っていうの禁止です。」
え、禁止?
「はい、自己紹介したんですから、カルアって名前で呼んでください!」
そもそも頭の中で思考していただけで呼んではいない。
「わかりました。カルア様。」
「んー、様もいらないです!」
「え、でも女神様なんですよね?」
「いいんです!他人行儀嫌いです!」
他人行儀というか、他人だと思うのだが。
「わかりーー」
「敬語もいらないです!」
返事をしようとしたところで、食い気味に刺しこまれる。なぜか、頬を膨らませて怒ってますよとアピールしたしぐさをしてくる。
そのあざとい仕草に、少しあきれてしまう。
「……、分かったよカルア」
「はい、それでいきましょう!」
第一印象はとても神秘的に見えたのだが、こんなに軽いノリでよいのだろうか。そもそも、カルアのほうは敬語のままだし。
「私はいいんです。これが素なので。」
わりと自分勝手な女神であるようだ。
「それじゃあ、本題に入りましょうか。」
本題?
「はい、本題です。」
先ほどの輪廻転生の説明から、このまま魂が浄化されるのだと思っていたのだが、違うのだろうか?それとも、浄化することが本題なのか?
「浄化は私の役割ではないですから、別ですよー。輪廻転生するだけなら、わざわざ目覚めさせる必要はありませんから。」
つまり、今意識がはっきりしている俺はイレギュラーってことか?
「実はですね……」
カルアは、数瞬の溜めを作る。俺は、自分がどうなっているのか不安になり、息を呑んでその続きを待つ。
「私が暇だったので適当な魂を捕まえて起こしました!」
「…………」
「は?」
思わず思考が止まってしまった。
今なんといった?暇だった……?つまり、どういう意味だ?
「え?暇は暇ですよ。」
「わかりません?退屈だったんです。」
違う、単語の意味は分かる。暇だったから適当な魂を起こした?
「それって、よくあることなのか?」
「いえ、初めてやってみました。」
「そうか、初めてか……。えっと、なんで?」
当然の疑問だろう。なんで浄化されるはずだった魂をわざわざ起こしたのか?
「ですから、暇だったんですよー。」
カルアは何もない空間で、透明な何かに腰かけて足をプラプラと振っている。
「自己紹介の通り、私は運命を司る女神なんですけどね? 何年も人の運命を見るだけの時間に飽きてしまったんです。」
何年も、とはいったいどれくらいの時間なのだろうか。
「ざっと数百億年は過ぎてると思います。」
え、この子おば――っ。
脳天にげんこつが飛んできて思考を遮られた。
「怒りますよ?」
すでに怒っていらっしゃるように見受けられる。深堀しないのが身のためだろう。
しかし、数百億年なんて時間のスケールが違いすぎて想像もできない。それだけの時間があれば、確かに女神であっても飽きてしまうのかもしれない。
「そうなんですよねー。 運命を見るのは、物語を読む感覚に似ているんです。」
小説や漫画、ゲームなんかで物語を読むイメージだろうか。それだけ聞けば結構楽しそうなものに思える。
「最初はとても楽しかったですよー。でもですね、読み尽くしてしまったというか――」
俺が生きていたころは、物語の数が多すぎて時間が足りなかった。しかし、カルアの場合は時間がありすぎて物語の数が足りなくなっているのか。
「そんな感じです。まったく同じではなかったとしても、この展開は見たことあるなーって思うようになってしまって。」
登場人物の名前だけ違う物語を読んでいるようなものだろうか。
「そうです。そんなのって面白みが無いでしょう?」
確かに、似たような流れの物語をたくさん読まされても飽きてしまうかもしれない。ただ、それが単なる物語ではなく人の運命であるというスケールの違いに畏怖を覚える。
「だから、見るだけでなく触れてみたくなって――」
カルアが宙に手のひらを伸ばすようなしぐさをする。
「――手の届いた、手頃な魂に触れてみたんです。」
そして、捕まえた。というように手のひらを握りしめる。
「それで起こされたのが俺?」
「はい!理解していただけましたか?」
言葉としては理解ができたが、カルアの心理を理解することはできなかった。
つまり、イレギュラーなことをやったのは俺ではなく。
――目の前にいる運命の女神であるということだ。
「しかし、俺の魂を起こして何をするんだ?」
無理やり起こしたからには、何かやらせたいことがあるのだろう。少し頭が狂っているように思えるカルアに、俺は何をされるのか不安になる。
「狂ってるって本人を前によく言いますね……」
思考を勝手に読んでるのはそっちだ。
「まぁ、いいですけどー」
カルアは拗ねたようにつぶやく。
「それで、本題ですけど。」
「タクヤさん、転生してみませんか?」
「え?」
カルアは、俺に転生しないかと提案してきた。
****あとがき****
読んでいただいてありがとうございます。
少しでも続きが気になると思っていただけたら、作品の応援♡や評価☆をいただけると、作者がとても喜びます。
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