第1章 3.女神がつけたサポート

俺は目を覚ますと、街道のような道の真ん中にいた。


「本当に転生したのか……」


カルアとのやり取りが夢だったのではないかと、心のどこかで思っていた。しかし、あの出来事は本当にあったことで、本当に異世界に転生してしまったようだ。


「そういえば、転生したらサポートがどうこうって言ってたよな?」


「説明してもらえっていってたし、人だよな。……仲良くできるかなー?」


別にコミュ障というわけでもないのだが、異世界で長い付き合いになると確定しているだろう相手だ。変に緊張してしまうのも仕方がないだろう。


「誰もいない……」


近くに誰かいないかと、周りを見渡してみたが誰も見当たらない。


「ここに立ち止まっているわけにもいかないし、とりあえず移動したいんだけど……どっちに行けばいいんだ?」


街道は一本道であったが、どちらに行けばよいのか迷う。


適当に歩くしかないかと、諦めかけたところで――。


『右に2時間ほど歩いた先がアムド村です。』


頭の中で直接声が響いた。


あたりをもう一度見渡したが、誰の姿もない。しかし、先ほど確かに頭の中で声がした。


「もしかして、君がカルアの言っていたサポート?」


声がした自分の頭の中に話しかけてみる。


『はい。カルア様に遣わされたアリアと申します。』


「おー!」


『……』


思わず変なリアクションをしてしまった。


「姿がないけど、アリアはどこにいるの?」


アリアの姿が見えないことを聞いてみる。


『あなたの中です。カルア様から肉体は与えられていません。』


アリアは淡々と答えてくれる。


どうやら俺の中にいるらしい。つまり、常にアリアと一緒ということか……。


あまり深く考えるのはやめて、アリアが教えてくれた方向へ歩き始めることにした。


「アリア、いくつか質問させてもらってもいい?」


『かまいません。私に答えられることであれば。』


アリアの話し方からは、少し堅い印象を受ける。


「カルアからは、転生したらサポートから説明を聞けって言われたんだけど、アリアがそのサポートってことでいいんだよね?」


『はい。私で合っています。この世界での常識や言語のやり取り、戦闘面などの冒険のサポートも行うよう仰せつかっています。』


常識や戦闘面はいいのだが、言語だって?


「もしかしてさ、アリアがいないと言葉も伝わらない?」


『はい。私のほうで翻訳を行わないと会話や読み書きはできません。』


『もちろん、1からこの世界の言葉を学べば別ですが。』


「マジか……」


よく考えると、日本語が異世界で通じるわけがない。正直転生するときにそこまで考えていなかった。


もし、アリアがいなかったらと思うと、ゾッとする。


「アリアがいてくれてよかったよ……」


『……それは何よりです。』


心の底からの感謝の思いを伝える。アリアは少し間を置いてたんぱくに答えるだけだった。


「この世界についてのことも教えてほしいんだけど、やっぱりモンスターっているの?」


まずは、一番気になっていたことを聞く。


カルアが転生させてくれる前に魅せられた剣と魔法の世界のイメージでは、ファンタジー物のモンスターと冒険者の戦う姿が映っていた。


『はい。ゴブリンやオーク、ドラゴンといったモンスターが存在します。』


やはり、世界にはモンスターが存在しているようだ。


「戦闘面のサポートもって言っていたけど、もしかしてアリアがいれば俺も戦える?」


戦いの経験などまったくないが、剣と魔法の世界に転生したからには、やはり冒険に憧れがある。


『直接戦いを支援することはできませんが、私が持っている知識でをお手伝いすることはできます。』


アリアの返答は少し曖昧なものであった。それはつまり、覚えるのは自力でということだろうか?


『私の持つ知識と経験を直接流し込むことで一定レベルの体術、剣術、魔法は容易に習得することが出来ます。身体がある程度出来上がってくれば、十分モンスター渡り合うことは可能になります。』


技術や魔法は簡単に習得できると、アリアはあっさりと言い切った。知識と経験を流し込むというのは、本来習得にかかる時間が0になるということだろうか。もし、その理解であっていれば、かなりのチートであるように思える。


「ちなみに、魔法ですぐに使えるものもあったりするの?」


『ありますが、魔力量の少ないままでは魔力切れで気絶します。』


『それでも良いですか?』


「うん、良くないね……。アムド村についてからにするよ。」


魔法に憧れがあり、使ってみたかったのだが、危うく道のど真ん中でぶっ倒れるところだった。


それからもアリアと会話を続け、少しずつ慣れてきた。最初は堅い印象があったものの、基本的には優しい子であるように感じる。


「そういえば、アリアって何歳なの?」


『……。女性に年齢を聞くと嫌われますよ?』


「ごめんなさい……」


いい子だなと思ったせいで、とっさにアリアの年齢を聞いてしまった。抑揚のない声だったが、たしかに軽蔑の感情が込められているように感じた。


そうだよな。姿は見えないけど、声や名前からして女性だよな……。


『私は、あなたの契約の瞬間に生まれた存在なので、0歳です。』


それでも律義に答えてくれたアリアだったが、衝撃の回答が返ってきた。


「え、俺の契約の瞬間に生まれた?」


『はい。契約した瞬間に、カルア様が私を作ってくださいました。』


どうやら、俺とカルアの契約で生まれた子だったようだ。


――つまりは、俺とカルアの子ということか?


と、余計なことを言いそうになったが、言う前に止める。これ以上アリアに軽蔑されるわけにはいかない。


しかし、アリアがあの瞬間に生まれたということは、人間と同じように思考し、人間よりも知識を持つ存在をカルアは一瞬で作ったということだ。


その事実に、女神という存在が別次元のものであることを改めて実感する。


「そうだったのか。じゃあ、今日がアリアの誕生日ってことだね。」


『……そうなりますね。』


それからもアムド村へ向かう道中で、この世界の様々なことを教えてもらう。


「そういえば、今向かってるアムド村ってどういうところなの?」


『アイド王国に所属する村です。貴族であるタンデル家の領地となっています。』


「なるほどー」


なるほどと言いつつ、基本情報だけではどういう村なのかはまるでわからない。村についてから確認するしかなさそうだ。


「リサって子のことは、何かわかる?」


カルアから与えられたクエストは「リサを救う」である。リサがどういう子なのかを事前に知っておいて損はないはずだ。


『リサという人物についての情報はありません。』


当然アリアが情報を持っていると思っていたのだが、予想外の答えが返ってきた。


「そ、そうなのか。」


『すみません……』


アリアが少し落ち込んだように謝る。


「アリアが謝ることじゃないよ。」


「情報がないなら、アムド村に行って探してみるしかないね。」


クエストは「救う」という曖昧な表現だ。いつ、どこで、何から救うのかという指定はない。


「リサ」という救うべき対象の情報しか今のところは情報がないということだ。


それであれば早く着いたほうがいいだろうと、アムド村への足取りを早めようとしたところで――。


「きゃ――――!!!!」

「ギギャ――――!!!!」


森の中から悲鳴が鳴り響いたのだった。


****あとがき****


読んでいただいてありがとうございます。


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