第8話 天体観測 【1】
「今日、天文サークルで天体観測しようか!」
四月の下旬になり、そろそろサークルや講義にも慣れ始めてきた今日。
突拍子もなく佐々木先輩が言ってきた。
俺が突然の発言に驚いていると、慣れた感じで美島先輩が反応した。
「いつも言ってるけど、そういうのは準備がいるんだよ!?」
それに対して「うんうん」の意味を込めて一ノ瀬さんが頷く。
天体観測賛成派が一人しかいない事実に気づいたのか佐々木先輩は慌てて弁明する。
「そ、そんなことは分かってるさ。だから僕の家でしようじゃないか」
佐々木先輩の話を聞いて安心したようで、美島先輩と一ノ瀬さんが深い安堵のため息を吐いた。
たしかに、家で天体観測するなら事前準備とかそんなにいらなさそうではある。
でも、望遠鏡とか双眼鏡は人数分あるのだろうか。
「僕、双眼鏡とか持ってないんですけど、大丈夫ですか?」
「あ、私も持ってないです」
俺の言葉に合わせて一ノ瀬も言った。
最悪ひとつ余っていればそれを一ノ瀬さんに譲って俺は肉眼で星座を見ようなんて考えていると、佐々木先輩が胸を張って答えた。
「安心してくれ、その用意はちゃんとしてある」
俺がその言葉を聞いて安心していると、何かを思い出したのか美島先輩が話し始めた。
「あぁ~、そういえばここら辺に古い双眼鏡あったね!」
「そうだぞ、だからそれを貸すから今日家に全員来い」
この三人のうち誰かが予定入っている可能性もあるのではないかと思ったが、そういえば昨日の集まりで明日の予定を聞かれたのを思い出した。
なぜ昨日の段階で今日の話をしなかったんだ?まぁ、空いてるんだけど……
疑問に思っていると、佐々木先輩は「ちなみに…」と俺たち三人を指さしてきた。
「三人が今日暇なことは知っているから、もちろん断らないよな?」
威圧と共にそう言う佐々木先輩に対して何か言いたいことがあるのか一ノ瀬さんがゆっくりと手を挙げた。
「どうしたんだい一ノ瀬さん、まさか行かないつもり……」
佐々木先輩の言葉を遮るように一ノ瀬さんが言う。
「ち、違いますただ、それがお泊りなのかどうか知りたくて……」
たしかに、今日の活動は泊りでするのだろうか?
もしそうなら、特に女子メンバーである二人は準備が必要なわけで、今日の天体観測はなくなるのかな?なんて考えていると、佐々木先輩が何かを思い出したような顔をした。
「そう、それについて三人に聞きたかったんだ。家には今日僕一人しかいないから泊りでも終わったら帰宅でもいいが、三人はどうしたい?」
泊りか……
それはそれで楽しそうだし俺はいいけど、問題は女子メンバーの二人。
まぁ、俺は女子メンバー二人の意見に合わせる感じでいいかな。
そう考えていると、先に美島先輩が話し始めた。
「私は今日見たいドラマがあるから帰りたいかな!」
「わ、私も今日お泊りはちょっと……」
女性陣が無理なら、俺もそっちに加わろう。
「俺もちょっと今日泊りは難しいですね」
三人全員に断られることは想定外だったのか佐々木先輩は驚いた顔をした。
「なるほど、では終わったら各自帰宅でいいが天体観測には来るのだな?」
佐々木先輩の言葉に美島先輩は「うん!」と言い、俺と一ノ瀬さんは黙って頷いた。
その反応を見て嬉しかったのか、佐々木先輩は笑顔になった。
「よしっ、では今から向かうぞ!」
帰り支度をしながらそう言う佐々木先輩に美島先輩が「いつも急に言わないでよね!」と怒りつつもしっかりと帰る準備を始めた。それに合わせて俺と一ノ瀬さんも帰り支度を始める。
初めての天体観測。
隣にいるのは決して葉月ではないけど。
この俺の葉月に対する後悔と未練がましい気持ちも、この人たちと星を見ていれば忘れられそうな気がした。
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