第7話 手作りのカレー。


夕暮れ時、家に帰って私はすぐにベランダに出てお隣さんの部屋の明かりを確認する。


「柊夜くん、帰ってきたんだ……!」


スーパーに食材を買いに行っていたので、帰りが遅くなってしまったがどうやら柊夜くんは先に帰ってきていたらしい。


「よしっ!じゃあ始めようかな!」


久しぶりの料理で緊張している心を落ち着かせて、私は袋から食材を取り出す。

今回、私はカレーを作る予定なので、そんな失敗することなんてないと思うけどそれでも緊張してしまう。


それでも頑張って料理を作って、それで……

柊夜くんに食べてもらうんだ!


私の手作り料理大作戦が今、始まった!


***


実家での料理経験のおかげなのか、意外にも美味しくできたような気がする。

まぁ、まだ味見してないんだけど……


「……いただきます」


私はスプーンで少しだけ掬って食べる。


「んっ!おいしい!」


一人でカレーを作れたことに感動しそうになったが、私はすぐに本題を思い出す。


「この美味しさなら、柊夜くんに……」


今更だけど、迷惑じゃないかな?

実はもう夕食食べ終わっちゃってたりして……!?


いろいろな想像をして不安になるが、カレーは完成しているのでもう手遅れ。

柊夜くんにカレーを渡そうか今更悩んでいると、一つの解決策にたどり着いた。


そうだ!開き直って、もし今がダメなら「明日の朝に食べて」って言ってカレーを渡せばいいんだ!

タッパーもサランラップもないけど、まぁどうにかなるよ!うん!


開き直れ!と自分に言い聞かせ私はポジティブ思考で考える。

あれから、柊夜くんの部屋のドアが開いた音がしなかったので、まだ柊夜くんは家にいるはず。ということは……


今がチャンスだよね……


私は勇気を出して、柊夜くんの家の前に立ちインターホンを鳴らす。

少ししてから柊夜くんが出てきて、私が夕食に誘うと了承してくれた。


柊夜くんを私の部屋に入れて、カレーの準備をしていると昔のことを思い出した。


そういえば、柊夜くんと別れて以来誰も以来誰も私の家に入れてないなぁ……

でも、私の初恋であり元カレが今私の部屋に……!


なんて少し嬉しくなって私は柊夜くんの表情を確認する。

柊夜くんは、ローテーブルを凝視していた。


何見てるんだろう?なんて不思議に思っていると、柊夜くんが突然大声を出した。


「そうだ、ツラゴンだ!」


ツラゴン?と思って私はローテーブルを見る。

そこには綺麗に立っている私の推しキャラのツラゴンのぬいぐるみが置かれていた。


そっ、それは……


私は慌ててツラゴンを抱えて隠す。

私が元カノだってバレちゃったかな……?

不安になって柊夜くんを見ると、申し訳なさそうな表情をしていた。


「いっ、いや、その……これは……」


必死に言い訳を考えていると、柊夜くんが頭を下げて謝ってきた。


「ごめん、ちょっとそのキャラが懐かしくてさ」


き、気付いたわけじゃないのかな?私がキミの元カノだってこと……

……って、そんなこと考える前に私も謝らないと。


「いいえ、古橋さんは何も悪くないんです。本当にごめんなさい」


私はこの気まずい空気をどうにかしたくて、ツラゴンを布団に隠したのち、すぐに温めておいたカレーをテーブルに置く。


「私が作ったカレーです……よかったら食べてください」


「あ、ありがとうございます。いただきます」


「はい、どうぞ」


本当は柊夜くんの顔が見たいけど、料理の味が柊夜くんのお口に合うか不安でちらちら見るしかできない。


そんな私の不安をよそに柊夜くんはスプーンを持って、カレーを一口食べた。


どっ、どうかな……?美味しくできてるといいんだけどなぁ……


私が柊夜くんの表情を見ていると、良い意味で驚いたような表情をしていた。


「うんまっ、なにこれ……」


私はその言葉を聞くと、一気に安堵のため息を吐く。


よかったぁ……

それじゃあ、私も食べようかな!


私もスプーンでご飯とカレーを掬って食べる。


安心はしたけど、それでもちらちら柊夜くんの顔を見てしまう。

少しずつアプローチしていけばいいのは分かってるけど、心のどこかでは焦っている私もいて……


これで少しだけでもいいから、心の距離が縮まるといいなぁ……

なんて、私は願うのだった。

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