第4話 迷惑だよね。
「ど、どうして柊夜くんがここに……」
最初は信じられなかった。
まだ夢の中にいるのかなとさえ思った。
でも何度目を擦っても目の前には、喧嘩で自然消滅してしまった元彼がいた。
***
入学式を終えてから一週間。
隣人なのにあの日以来会うことはなく、学校で柊夜くんを見つけるとつい目で追ってしまう。そんな日々を送っていた。
そんな私には一つの疑問があった。
それは……
柊夜くんは、なにサークルに入るのかな?
柊夜くんにバレないように、いつも柊夜君の近くの席に座って盗み聞きしようとした、けどこの疑問は解消されなかった。
なので私は柊夜くんの尾行をすることにした。
尾行する理由は単純で。
あわよくば、一緒のサークルに……
なんて迷惑なのは分かってる。
でもまた、柊夜くんの隣にいたくてそんなことを考えてしまう。
きっと、柊夜くんは私のことなんて嫌いなんだろうなぁ……
分かっていても、自然に胸が締め付けられて涙が出てきそうになる。
泣く資格なんて、私にはないのになぁ……
私は涙をなんとか堪えて柊夜くんを見つめる。
見つめてからすぐに、柊夜くんは私より背の小さいかわいらしい女の子に話しかけられていた。
な、何話してるのかな?
もしかして……
ナンパとかかな?
なんて考えたけど、女の子は柊夜くんに一枚の紙を渡すところを見て察する。
もしかして、サークル勧誘かな!?
私はそうであることを願って二人を隠れて見つめていると、柊夜くんと女の子二人歩き出してしまった。
えっ……?どういうことなの?
もしかして今から部室に行くとかかな?
私はそんなことを考えながら二人の後をついていく。
目的地はすぐ近くにあったようで、二人はそのまま教室のドアを開けて中に入っていった。
こっ、ここに柊夜くんが女の子と……
中が気になって私はドア窓から覗く。
覗いていると、女の子がふとドアの方を見てきたので私は急いでしゃがむ。
覗き見してるのバレちゃったかな?
心配したが杞憂だったらしく誰もドアを開けにこなかった。
安心して息を吐くと、目の前に一枚の張り紙の存在に気がついた。
そこには『天文サークル!部員募集中!』と部室の場所が書いてあった。
私はすぐに部室名と教室名を確認する。
「えっと……部室がA113でここの教室がA113!」
「やっ」
喜びのああまり危うく大声で叫んじゃいそうになって慌てて自分の口を手で覆う。
高ぶる気持ちを抑えて私は心の中でガッツポーズをする。
やったー!!
柊夜くん天文サークルに入るのかな!?
まだ柊夜くんも私も天文サークルに入ることが決まったわけじゃないのに、私は妄想する。
「星を見上げて隣には柊夜くんが……」
私は恥ずかしくなって俯いて手で顔を隠す。
サークルに入ったら柊夜くんとまた二人で……
なんて、妄想してしまう。
本当に、柊夜くんにとってはいい迷惑だと思う。
未だに初恋を拗らせて、未練たらたらで……
柊夜くんにはもうきっと、私以外の可愛い彼女がいると思うのに。
私はそれでも、妄想してしまう。
隣にいる柊夜くんを。
笑顔で私に話しかけてくれる。そんな柊夜くんを……
本当に、なんで喧嘩しちゃったのかな……私。
昔を思い出す。
その瞬間、胸が締め付けられるように痛くなった。
後悔したって遅いのに……
何度も願った。時間が戻ってほしいって。
でも、そんな願い叶うはずもなくて、私はあっという間に高校を卒業していた。
時間は勝手に進んでいくけれど、私は今もあの、柊夜くんとの楽しかった頃の時間で止まっている。
私だけ、ずっと止まっている。
きっと、柊夜くんは私が元カノだと知ったら引いちゃうと思う。
自分でも分かってる。
4年間もずっと失恋を引きずってることが、気持ち悪いことくらい私も分かっている。
分かっているけど……
私はどうしても、また柊夜くんの隣にいたい。
柊夜くんの……彼女に、またなりたい……
だから私は決めた。
私が柊夜くんの元カノだったことは秘密にしよう。
また、一から関係を作っていこう。
幸いにも、片親生まれの私には他らしくお父さんができて名字が変わった。
この機会を逃したくない。絶対に。
柊夜くん、ごめんね。
実は私さ、まだキミのこと好きなんだよね……
だからさ、最後にもう一度だけ。
一度だけでいいからさ……
私を、キミの彼女にしてくれないかな……?
なんてね。
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