第2話 夢見てしまう。


お隣さんが元カノに似てる事件が起きてからあっという間に1週間が経ち、今日はクラス分けテストとサークル勧誘最終日。

一週間も経つと、流石に大学に登校することには慣れてきたが俺には今、一つの悩みがあった。


それは、ズバリどこのサークルに入るのか。


どこのサークルにしようか迷っていたらいつの間にか時が過ぎていて友達も未だにできず、サークルに入る勇気がなく気付いたら今日まで来てしまった。


「はぁ、どうしようかな……」


自然に溜息が漏れるくらいには真剣に悩む。

ここで友達の一人でもいればきっとノリと勢いで入れるのだろうけど、友達のいない俺にはそのノリも勢いもないのだ。


テストが終わり帰宅する前に最後に大学構内を見渡すと、色々なサークルが新入生を勧誘していたが、一人ぼっちの俺の所には誰も来なかった。


まぁ、こんな一人ぼっちの奴に話しかけるのは効率が悪いですもんね……


寂しい気持ちもあるが、誘われないのなら仕方ない。

アルバイトに明け暮れる日々もまた青春。

なんて自分に言い聞かせて帰ろうとする。


するとその時、不意に後ろから肩をとんとんと叩かれた気がしたので振り向く。

後ろを振り向くとそこには、背丈は小さめの女の子がいた。


女の子は下を向いたかと思えば、深呼吸をした後顔を上げて言う。


「あ、あの!ぜ、ぜひわが天文サークルに入りませんか!」


……ん?お、俺?

でも、肩を叩かれたってことは間違いなく俺だよな?


な、なんて返事をすればいいんだ……


「ぼ、僕ですか?」


油断していたところに突然話しかけられたことで、俺は緊張のあまり思考が停止して言葉が詰まってしまい結果よく分からない返答をしてしまった。


「は、はいそうです!もしよかったらなんですけど……」


女の子はそういうと、恥ずかしそうにまた下を向いた。


天文サークルか……

まぁ、どこにも誘われてない中で唯一誘って来てくれたし……

それに、今にも泣きだしそうな表情をしているのに断ったら可哀想だ。


「いいですよ、天文サークル楽しそうですし」


きっと、俺が了承すると思っていなかったのだろう。

女の子は上を向いて驚いた顔をしていた。


「ほ、本当ですか!?入ってくれるんですか?」


聞き間違いだと思ったのだろうか、女の子は再度聞いてきた。


「はい、バイトだけだと暇になっちゃうと思うので」


「やったー!ありがとうございます!」


女の子は右手で小さくガッツポーズをして笑顔になった。


「サークルに入るという事で軽く自己紹介させてください。私は理工学部三年の美島優香っていいます!三年生なので引退までの短い間ですが、これからよろしくお願いしますね!」


大学三年生!?

いや、めちゃくちゃ大人じゃん……

ある程度察してはいたけど、それでも容姿はかなり年下に見えた。


って、そんなことより俺も自己紹介しないとだよな。


「えっと、自分は経済学部一年の古橋柊夜です。これからよろしくお願いします」


俺の自己紹介を聞くと、美島先輩は嬉しそうに一歩俺に近づいて目を合わせて言った。


「はい!これからサークル活動頑張りましょうね!古橋さん!」


その笑顔に俺はキュンと来た。

きっと、これが恋をする瞬間なのだろう。

でも、俺はそうはならない。

なぜなら、この瞬間だって、すぐに違う女の子の顔が頭の中に出てくるのだから。


いつも、思い出してしまう。


隣で笑ってくれていた。俺にはもったいないくらい可愛い彼女のことを。


分かっている。


本当は今でも彼女のことが……

葉月のことが好きなのだ。


いつまで俺は葉月のことを……


そう考えると自分のことが嫌になる。


もう、失恋したのに……


女の子の笑顔を見るたびに、葉月の笑顔を思い出してしまう。


思い出したって、今更で。

何の意味もないのに。

後悔の気持ちだけがいつまでも俺の心の中にいた。


恋なんて、しなければよかったな……


俺がそんなことを考えていると、美島さんは手に持っていたファイルから一枚の紙を取り出した。


「これが一応サークル説明の紙です!あと、部活の説明とかしたいので今から一緒に部室に行きませんか?」


紙を見ると、活動内容は週一・二回星を見るらしい。


そういえば、葉月も星見るの好きだって言ってたな……

もし今でも付き合っていたのなら、隣で一緒に星を見上げていたのかな。


なんて、夢見てしまうのだ。

隣で微笑む葉月を。

いつも笑顔で話しかけてくる葉月を。


でも、いい加減夢見るのはやめよう。


何度願ったって、もう俺の隣には……


葉月はいないのだから。


俺がそんな決意をしていると、美島先輩はそんな俺を心配そうな目で見てきた。


「あの、大丈夫ですか?」


美島先輩に心配させてしまったので、俺はすぐに謝る。


「ごめんなさい大丈夫ですよ、それより部室ってここから遠いんですか?」


「部室ですか?部室は階段を少し昇ったらすぐですよ!」


そう言って美島先輩は歩き出す。

俺はそれについていく。


その時俺は、過去の失恋ばかり考えていたせいで気が付かなかった。


美島先輩との話を盗み聞きしていた、見知った彼女の姿を。

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