元カノにそっくりなお隣さんは、どうやら俺のことが好きらしい。

シノー

第1話 再会した元カップル。


俺には中学の頃彼女がいた。

彼女の名は、桐島 葉月。


映画鑑賞とゲームという共通の趣味のある俺と彼女はすぐに打ち解けそして、恋人同士になった。


「ねぇ、明日は一緒に遊園地に行こう?」


「今週の日曜日って空いてるかな?もしよかったらその、私と一緒にデートに…」


こんな感じで二週に一度はデートをし、お互い笑い合える最高の日々を過ごしていた。


しかしそんな俺の中学時代の青春は、すぐに終わってしまった。


きっかけは些細なすれ違いの重なりだった。


でも、お互いまだ子供だったという事もあり意地を張って謝らず次第に気まずくなっていき、自然消滅してしまった。


そしてあれ以降一言も言葉を交わさずに仲直りすることなく、俺と葉月は別々の高校に進学した。


高校生になってクラスに可愛い子がいても、頭の中にはいつも葉月がいた。


今更遅いことは分かっているけど。

どうしても、忘れられなかった。


何度後悔しても、過去に戻れないのに……


結局、俺は高校生の間も葉月に未練たらたらなままだった。


いつまでも未練を抱えたまま生きても辛くなる一方なので、大学生になったのを機に俺は決意した。


葉月の事は忘れて、新しい恋を探そう。と。


きっと、もう葉月には俺なんかよりイケメンで頭も良くて、喧嘩になることもない優しい彼氏がいるだろう。


それなのに、俺だけがいつまでも停滞してちゃいけない。


そう思った。


まずは行動から、ということで俺は今年から一人暮らしを始める事にした。


ベッドやテレビ、冷蔵庫に電子レンジ。


買い揃えるのに結構な値段はしたが購入し、アパート側との契約も纏まり無事昨日から、一人暮らし大学生ライフが始まった。


今日が大学の初日という事もあり、念入りに顔を洗って歯を磨き堅苦しいスーツを着る。


そしてどっかのファッション雑誌でオススメしていた腕時計をつけ、靴を履いた俺は頬を軽めに叩く。


「よし、今年こそ彼女をつくるぞ!」


その決意を胸に俺は、玄関のドアを開ける。


すると、どうやらタイミングが偶然重なったらしくお隣さんもドアを開けた。


前に引っ越しの挨拶に行った時は、いなかったので一体どんな人が住んでいるのだろう。


御近所付き合いは大事ってよく聞くし挨拶しに行こうかな。


ドアから顔が見えそうになるタイミングで俺は、挨拶をする。


「あ、あの、おはようございま……っす……って、えっ………」


「あ、おはようござい……ま………す……」


あっ、あれ……

中学の時の容姿とは少し変わってるけど、どことなく雰囲気が元カノに似ているような…


えっと……き、気のせいだよな!?


「えっと……………」


え、なにこれ、どうすればいいの?目の前に元カノに似た人がいるんだけど……


とりあえず、初めましてなわけだし、軽い自己紹介から入るべきか?


「昨日から、隣の部屋に住むことになった古橋です。よろしくお願いします」


「えっ…………!?」


緊張しながらも、何とか言い切ったので相手の顔を見てみると、お隣さんは俺の挨拶に変なところでもあったのか、何故か驚いているようだった。


そして何故か俺のことをジーーーーーっと見てくる。


俺が恥ずかしくなり顔を逸らすと彼女も顔を赤くして顔を逸らし、遅れて自己紹介をする。


「あ、初めまして、き……一之瀬……です。こちらこそよろしくお願いします…」


一之瀬さんということは、つまり葉月ではないのか……


まぁ、『きり……』の続きは気になるけど、これから大学だという事もあって初日だけは時間に余裕をもって登校したいので、そろそろ行かなければならない。


「そ、それじゃあ、俺、大学行かなくちゃいけないんで……」


「あっ、私も行かなくちゃ……えっと、大学頑張ってくださいね!」


そう言いながら彼女は、笑顔で俺のことを見送ってくれた。


ヤバい……朝から幸せすぎる………


でも、あれだけ可愛かったらあの子には既に彼氏とかいるんだろうなぁ……


そんなことを考えながら俺は、大学に向かった。


***


私は、燃えるゴミの日に捨てる予定だったゴミを持って、お隣さんのドアをジッと見る。


「あの人って本当に……さっき古橋って自分のこと言ってたし……」


名前を今度聞いてみないと分からないから、まだ確証はないけど……


私の憶えている柊夜くんにお隣の古橋さんはそっくりだった。


あれ、絶対に柊夜くんだよね……!?


柊くんとの久しぶりの再会に、思わず顔を赤くしてしまう。

それと同時に胸が締め付けられる。そんな痛みを感じた。


柊夜くん、カッコよくなってたなぁ……


彼女さんとかいるのかな?


なんて、何言ってるんだろ、私……


もう今更なのになぁ……


だって高校三年間であのカッコよさなら、女の子からモテるだろうし……


なんて勝手に落ち込んでいた私だけど、柊夜くんについて考えているとふと私は嬉しすぎる事実に気付いた。


あれ、もしかして同じ大学に通う可能性あるよね!?


し、しかも、お隣さんだから、ご飯のお裾分けとか朝の「いってらっしゃい」とか…!?


柊夜くんは、私の事まだ好きでいてくれてるのかな……


そ、そんな訳ないよね……


も、もう、忘れてるよね……


柊夜くんとまた、仲良くなって前みたいに趣味について語り合いたいなぁ。


そしてまた、あの時はお互いすれ違っちゃったけど……


今度こそ柊夜くんと………


柊夜くん、私はまだ……

君のことが忘れられないよ。


友達っていう意味でも、違う意味でも。

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