第101話 特訓!!!①
四日目、どうも星祭り前日です。いろいろギリギリです。
いやホント毎日が濃密なのでうっかりしちゃうけど、夏季の課外授業って実は1週間しかないんですよね!
ゲーム内でももろもろのステータスが圧倒的に上がるスーパーウイークなので、ヒロインのステータスが圧倒的に上がるならば脇役だって同じように上がるよね? ということで、
本日のメニューはズバリ! 私の魔法特訓です!
2学年の皆さんが労働にいそしんでいる午前の時間を使ってちょっとだけ自分の為に使わせていただきます!
私のような脇役でも脇役なりにちゃんと伸びしろはあるのです!(たぶん)
「よし、シルヴィ君! いつでもいいですよ!」
目の前にはシルヴィくんが錬成した家一件分くらいはあるかという大きなゴーレムが大きく腕を振りかぶっている。
うん、超でっかい。
対する私は両手を大きく広げて防御用の魔力障壁を張り、準備万端待ちかまえます。
「ねえロゼッタ、本当にやるの?」
「大丈夫です! ごいんとやっちゃってくださいませ!」
渋るシルヴィ君に手首を返してちょいちょいと煽る仕草で挑発する。
お嬢様の仕草っぽくはないけれど、ボクシングの試合とかで見たからこういうのちょっとだけやってみたかったのよね。
私の挑発に少しムッとした様子のシルヴィ君を確認し不敵に笑うわたくし。
「分かったよ、ロゼッタはとことんまでやらないと納得しないんだから…」
ため息を一つ吐き、シルヴィ君がようやく本気になってくれたみたい。
しめしめ。
スキル『煽り』の効果はてきめんだ。
ぶうん、とまるでスローモーションのように、工事現場の鉄球サイズのゴーレムの拳が天高く振り上げられる。
(ああ、あれって実はとんでもないパワーなんだろうな…。今まさに位置エネルギーが加わっている…)
なんてことをぼんやりと思っていたところ、ゴーレムの拳が勢いよく振り下ろされた。
(!!)
ごいん!とお寺の鐘のような音が林に響きわたり、地面が揺れる。
…けれど、私の魔力障壁はびくともしない。
よし! これもクリア!!
私は心の中でガッツポーズをした。
ゴーレムの拳の速さにちょっとだけビビったけれど結果オーライ。
「シルヴィ君、こちらのゴーレムは何段階くらいでしたっけ?」
「うーん7…くらい?かな」
シルヴィ君が使役するゴーレムには10パターンくらいのサイズがあって、これは7番目の大きさ。もちろんパワーもサイズに比例している。
ふむこれで7か…。
シルヴィ君の潜在能力に感心しつつも私は自分の能力を測る。
これならモン○ンのブル○ァンゴの突進も止められたりするんじゃないかしら?? どうかしら!
「これ以上の大きさのやつは…」
「ごめん、これ以上はちょっと無理」
シルヴィ君が私の言葉をすぱっと遮った。
「これ以上のゴーレムを起動しちゃうと操作がにぶっちゃうから…」
「そうですわよね! ごめんなさい」
私と違ってシルヴィ君は現時点でもたくさんのおつかいゴーレムを点在させて同時に運用しているし、さすがの天才少年も一度に起動できるゴーレムの容量が決まっているらしいのでこれ以上無駄にでっかいゴーレムはね。
「ごめんね、ロゼッタ」
「いえいえとんでもない! わたくしの方こそシルヴィ君の貴重な休憩時間なのに特訓に付き合っていただいて助かっていますわ!」
ほんとよく協力してくれたなって思っている!
毎日のゴーレムの起動数がほんととんでもない。シルヴィ君の桁違いの魔力量にあらためて感心しちゃうよね。
「いやあ、凄いじゃないか二人とも。なかなかどうして見応えがある特訓だね」
外野からぱちぱちと軽い拍手と声の主、アルフレート先輩が私たちに声を掛けた。
今日もきらきらロイヤル笑顔のアルフレート先輩に私はどうもありがとうございます、と愛想笑いを浮かべる。
ええとその…この件に関しては…びっくりはしていません。
実はね、特訓の最初からずっといらっしゃったんですよ、あの方。
私のこの魔法の特訓はですね『猪対策』の一環として最初から組んでいた予定だったのだけれど、シルヴィ君以外には特に知らせてはいなかったのに何故かするっとまるで示し合わせたかのようにやって来たのです。
エスパーかな?
これもアルフレート先輩の諜報能力なの? それとも偶然?
昨日はダンスのパートナーも申し込まれましたし、いままでろくに交流してこなかったので妙にこそばゆいです。
アルフレート先輩は本日、何故かご自分の担当の湖には行かずに農園へといらっしゃいました。
そう、ここは農園の脇にあるこじんまりとした空き地。
みんながあくせくと忙しくする中、我らが王子様は昼からずっとああやって出来たばかりの柵(未通電)に体を預けてにこにこと私たちの特訓を見学している。
「でも、急に魔法の特訓だなんてどうしたの?」
「急に始めた訳ではではありませんわ。以前に大鍋が爆発した現場に居合わせたことがあったので、いざという時の為に練習しているのです」
「大鍋? ああ、あのマーケットの時!」
アルフレート先輩が得心いったというように手の平を打つ。
そう、この魔法はあの大鍋事件の時にユージン先輩やシルヴィ君が使ったものと同じ、魔力に振れた物質を跳ね返すというもの。防御魔法の中でも一番シンプルで素早く発動できるものだ。
実はこっそりユージン先輩から習っていた。
そしてこれも猪対策の一つ。
電気網で進入対策はしたけれども、そこをかいくぐって入ってきてしまったら、もう後は身を盾にして守るしかなくない? さすがに生身では無理じゃない? ということで覚えた防御術。猪対策は二段構えの作戦なのだ。
「本気で王宮に勤めたい時はいつでも言ってくれていいよ、喜んで紹介状を書こう」
「またそんなことをおっしゃって…」
アルフレート先輩ののんきな声色になんとなく肩の力が抜ける。
てか、どういう意味なんだろうそれ。
この先の就職先は心配しなくても大丈夫ってこと? マジ?
(それが本気ならとっても魅力的なお話なんだけれども!)
アルフレート先輩の言葉って本当に本気なのか冗談なのか分かりづらい。
常に絶やさないあのロイヤスルスマイルが厄介。
あれのお陰で全然顔色が読めないんだもの。
てか、そもそもシルヴィ君は既に王宮魔道具師として働いているじゃない?
「いやすでにスカウト済みだったな」
「王子…お戯れを」
アルフレート先輩の言葉をシルヴィ君が軽くいさめる。
あ、そうだったこの情報は生徒にはあまり公にされていない情報だったっけ…私は知ってるけど。
「やあやあ、すまなかった。でも学校では『先輩』か『会長』って呼んでおくれよ。でないと私も君の事を爵位で呼ぶよ?」
ほほ笑むアルフレート先輩にシルヴィ君がたじろぐ。
「分かりました。…会長」
「うんうん、こちらこそよろしくね。『シルヴィ君』」
思い通りに黙らせて、アルフレート先輩はご満悦の様子。
シルヴィ君でもあの笑顔には勝てないことが分かった。…強い。
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