第98話 たぶん、順調!!!


「ロゼッタちゃん! いいところに! ちょっとこっちに来られる?」


 炊事場の近くでキャロル先輩から声を掛けられた。

 キャロル先輩は辺りを伺いつつ、おいでおいでと私を手招きをする。


「はい、何でしょうか」


 いつも以上に明るい笑顔のキャロル先輩に会えて自然とこちらも笑顔になってしまう。

 私に尻尾があったらパタパタと振っていただろう勢いで駆け寄った。


 ここのところ、私たち一年生組は2年生からちょくちょく声を掛けられてはいろんなお手伝いをしている。ダンスの練習とか、祭り衣装の採寸とかシルヴィ君はゴーレムの貸し出しなんかまで。なのでこうして声を掛けられることは珍しくない。


「今一人?」

「はい、一人ですわ」


 電気網設置のため、物置から予備の工具を持って来ようと思ったところだったけれど、キャロル先輩に呼ばれたのであればもちろんそっちが最優先だ。


「よかった、じゃあちょうどいいね」

「?」


 笑顔で私をいざなうキャロル先輩は見るからに楽しそう。

 何か良い事でもあったのかな…?


 招かれた先はもちろん炊事場の端の作業スペース。遅い昼食を済ませた人たちも立ち去って、今は無人となっているみたいだけれど…。


「なんだか、甘い香りがしますね?」

「あ、分かった?」


 キャロル先輩が笑顔で指を差す。

 見れば炊事チームのメンバーが全員、奥のテーブルを囲んで立ち話をしていた。

 あれ? 今は常に忙しい炊事チームにとっての貴重な休憩時間のはずではなかったかしら?


「あ!ロゼッタちゃん!」

「ほんとだ妹ちゃん」

「ロゼッタ?」

「まあ、ちょうどいいタイミングですわね」


 私とキャロル先輩に気づいたメンバーの人が声を上げ、皆さん勢ぞろいで私を迎えてくれた。


「お兄様!」


 当然お兄様の姿もそこにある。

 目的の人物を見つけた私はぴょんと飛び跳ねてお兄様にダイブした。毎日会っているけれども嬉しいものは嬉しいのだ。もはや条件反射と言ってもいい。


「おっと」


 上手に私を受け止めたお兄様はその場でくるりとターンをして私をストン地面におろす。この流れるような一連の動作は中身が『私』になっていても自然と身についていて変わらない。


「相変わらず仲がよろしいですね」

「ごきげんよう、お姉さま方」


 私は先輩方に優雅にご挨拶をする。

 有り難いことにロゼッタの『愛され妹キャラ』の効果はここでも抜群で、キャロル先輩以外からも『ロゼッタちゃん』とか『妹ちゃん』などと呼ばれて可愛がってもらっている。ありがたや、ありがたや。


「ちょうど今ね、星祭りのデザートの試作品を作っていたの」

「デザート!?」


 デザートと聞いては俄然前のめりになる私。

 さっきまで人壁で見えなかったけれど、テーブルを埋め尽くす勢いでケーキやクッキー、ゼリーなどのスイーツが並んでいた。


(うわあ~! きれい! かわいい!)


 できたばかりなのか、それぞれのデザートは型にはまったままだとか冷ましている途中の状態で置かれていたけれど、それでも十分に見応えがある。どれもこれも星形にアレンジされていてとても可愛い。


「素敵! お星さまの形をしているんですのね!」

「そうなの、星祭りだからね」

「みんなにはまだ内緒よ?」

「はい! 分かりましたわ!」


 大きなバット一面に満たされた薄いブルーのゼリーには星の形に型抜きされたピンクや黄色のゼリーが閉じこめてあり、クッキーもプレーンやココアなど様々な味があるけれどみんな星の形をしていた。


 なるほど! 星祭り当日のメニュー!!!


 そういえばすっかり忘れていたけれど、星祭り当日はお料理も少し特別なものを用意すると言っていた。まさにこれは炊事メンバーだけに与えられた独自の課題だ。


 THE 特別メニュー!!

 どんな料理が並ぶのか今からワクワクしちゃうね!


 ここでの暮らしは自給自足が基本だけれども、お祭りの為ならば材料を学院の厨房から取り寄せてもOKという特別仕様となっている。


 星祭りだけ特別なのには実は理由があって、星祭りの夜は精霊も私たちと一緒に同じ皿のご飯を食べるからなのです。


 なのでせっかくならご馳走が良いよねっていう。

 それはここ『精霊の森』だけの話ではなく、この国のどの地域でもどの階級でも魔力のあるなし関係なく同じ認識。


 星祭りにはご馳走を食べる。

 日本で言うお正月にはおせちを食べるのと同じ認識。


 他国からは『精霊の国』だなんて呼ばれているほど我が国は精霊をは身近な存在で、日常的にも食卓から料理がフッと無くなることがあり、それは『精霊のいたずら』と呼ばれている。『さっきまでそこにあったよね?』って物が無くなったりするのも同じ。

 

 中でもそれは夏祭りの時にはよく起こる。

 一般家庭でもそうなのだから、ここ、精霊の森ではそれが一段と顕著に表れるのだって。

 なにしろたくさんの精霊がいるんだし、それに…星祭りに自分のお皿から食料が減っていたらそれは自分のパートナーとなる精霊が食べていった可能性があるよね! 同じ釜の飯を食った仲とか言うし?


 なので美味しいものを並べて置くことは大事なのです。

 とにかくお菓子やケーキ、デザートは特に重要!!(力説)

 いずれパートナーになるであろう精霊とは趣味思考が似ているから好物も似ていたりするのかもしれないからね。


「よかったら試食していかない?」

「いいのですか!?」


 素晴らしいご提案に食い気味で返事をしてしまう私。

 え、これ当日用のお菓子じゃないの? 今食べていいの???


「これはまだ試作品だからいいよ」

「まあ!」


 なんっって役得!!!!!!!

 キラッキラに目を輝かせて笑顔で着席する私に、キャロル先輩はくすくすと笑いながらゼリーを取り分けてくれた。


「よかった、喜んでくれて。ちょうど皆で食べようと思ってたところにロゼッタちゃんが通りかかるのが見えたたんだよね」

「そうだったのですか!?」


 それは偶然!! タイミング良くここを通りかかってよかった! 

 お兄様ほどでは無いけれど、私の幸運値もなかなかに働いてくれるみたいですね。

 毎日頑張って数値を上げているからね!


「みんなには内緒ね?」

「はい! ありがとうございます! いただきます!」


 やったー! ラッキー! 味見万歳!!

 スプーンを手にしてさっそく口へと運ぶわたくし。


「とってもおいしいですわ!」

「よかった!」


 フルーツ以外の甘味が無かった生活にデザートが染み渡る~。

 おいしい~~~!! 至福!!!


 お兄様がお料理上手だったおかげで美味しいものにありつく能力だけは私、ずば抜けているかもしれない!





 ****




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