第97話 目的のためにまずは物理で対処!!


 農地に電気網を張ろう!!


 突然何を言うかと思ったかもしれないけれど私は正気です。

 全ては『星祭り』の当日にお兄様のセリフをぶった切るあの大猪の対策ですよ!


 そもそも猪なんか登場させなければいいのだ!!

 安全なキャンプ地のはずのこの宿舎になんであんな山みたいなサイズの猪が『偶然』現れたのか、猪はどこから進入してきたのか。


 そんなことゲームの中には一言も説明されてなかったけれど、おそらく農園で作っている野菜を目的にやってきたのだと私は推測します!

 お兄様を弾き飛ばして湖へと落とす猪の進入角度から考えてもほぼほぼ間違いないはず。現地調査(?)もしたので間違いない!

 

 で、猪対策として農園に電気網を設置してみるのはどうかと思いました。


 ガチです。

 チート的すばらしいアイデアなんてないです。

 日本社会の農家の皆さんもずっと困って対策を練っているのに、ポッと思いついただけの私が完璧に解決! なんてできるわけもないよね。


 はい、なのでひとまず先人に習って進入経路を固めに塞ごうと思いました。

 こちらの農園にはノーマルの柵と網はあるものの、ちょいちょい野生動物は進入するし、農作物も被害に遭っているみたいなので今後のためにも園内の整備としても悪くないと思うんだよね、電気網。



「…と、いう対策を試してみたいのですが協力していただけないでしょうか」

「なぜ俺にそんな問題を持ちかけるんだ!!」


 ちょうど午前中の農作業を終えたユージン先輩を捕まえて直談判をした。

 二日目の夜ミーティングでも話題に出た火の攻略者でありナターリア先輩といい感じの(はずの)ユージン先輩です。


「いや、ユージン先輩はちょうど農園担当ですし、実際に困ってるんじゃないかな~と思った次第です」


 然り。

 農作業も三日目、毎朝収穫時にかじられた野菜を発見しては悔しい思いをしている面々である。実際ユージン先輩の目の前には選別された野菜が並んでおり、野生動物にかじられて見るも無惨になったナスやトウモロコシが並んでいる。どうやら昨日「明日になったら収穫しよう」と思っていたヤツがやられてしまって悔しがっている声もさっき聞こえたし。


「…むう、それは確かにそうだが…。そもそも、なぜ君が…?」

「ちなみにこちらがその模型です」


 ユージン先輩の言葉を遮って私は模型をずいと目の前に差し出した。


 さあ!面倒な説明は省いて、まず私の作品を見てくれ!!


 私は木枠の中で作ったミニュチュアの畑と電気網の模型をユージン先輩に見せた。薄い木箱の中に木片と針金を使って作った逸品である。


「これは…?」


 いぶかしげに模型を眺めるユージン先輩。


 よし!

 思った通りの反応に心の中でにっこりする。

 ええ、初対面でちょこっとバチバチしたけれどユージン先輩のコツは生徒会の業務をする上で掴んでおりますよ。論より証拠、言葉より成果、面倒事より効率性!!


「はい、この農園の模型です。畑を囲うように作られている柵に張られた網を全てワイヤーに変更して電流を流すのです」


 私は電気網の仕組みについてうきうきと説明する。


 実はこれちょっと自信作。

 研究所の物置からちょちょいっと素材を拝借して作り上げました。

 平たい木箱の中に薄く土を敷きしめて畑(仮)を作り、きれいに削った小枝の柵で畑をぐるっと1週囲ってあります。ワイヤーは針金を使用。触るとビリッと静電気みたいに電気がバチっと来る仕組み。


 うふふ、我ながら上出来。

 あんまりにも出来が良かったので中真ん中に野の花を植えました。


 …オタクのこだわりをこんなところで発揮してしまったぜ。ミニチュア家具とかって可愛いよね。集め始めると際限なく集めちゃうので危険だけれど…。


 脱線、閑話休題。


 ちなみに電流を留めておくとかの魔石を使った難しい部分はシルヴィ君に丸投げしました。事前にこの仕組みを説明したところ、とんでもなくあきれた顔をされたけれど協力してくれたんだよね、優しいね! なので難しい装置の問題はクリアしています。


 費用は生徒会費から捻出…できなければ出世払いでお願いします。



「………これはロゼッタ嬢が考えたのか…?」


 ワイヤーを触ってバチっとした指を眺めながら何とも言い難いといった表情でユージン先輩がコメントした。

 やったぞ、対象の関心を掴んだ。


「ええと…」


 うーん、電気柵自体は私が考えた訳ではなく現代知識を持ってきただけなのだけれど…どうしようかな。ちょっと答えに窮してしまうな。っていうか、そもそも魔法の世界にはもっといい方法があるかもしれないね?? それに、もしかして伯爵令嬢が提案するには泥臭過ぎたかしら? 


「………はい、アイデアだけ」


 いろいろ周巡したけれど、素直に『はい』にしました。

 出所を突っ込まれたら困るけれど、アイデアを出したのはまあ私なので。

 (ほぼ)シルヴィ君の追加投入知識のお陰ではあるけれど、最初に電流を流して留めておけば、害獣が何度か触れて放電されるまでは効果が持続するし、定期的に電力を補充すればずっと使えるし、たとえ壊れてもメインの材料はワイヤーなので農地の広さを考えれば安いと思うよ。


「そうか…そうだな、まあ…費用対効果は悪くないと思う」

「ほんとですか!?」


 おお、ユージン先輩に褒められた! やった! ユージン先輩はダメなものはダメってはっきり言うもんね!


「…だが、電力はどうするつもりだ?」

「ええと…」


 そこ、気づいちゃいました?

 当てはあるんですよ~当てはね。協力してくれるかどうかはまた別だけれども。


 ユージン先輩(農園協力者兼アドバイザー)とシルヴィ君(装置&ゴーレム)とアルフレート先輩(電力)に協力してもらって電気柵に変えられないかな…という私の作戦。


 THE! 他力本願!!



「まさか、そんな目的で私が呼ばれるとは予想もしていなかったかな…」

「大変申し訳ございません!!!」


 ひれ伏す勢いで90度のお辞儀をする。

 目の前には湖での釣果を持ち帰ったところを捕まえられた少々困り顔のアルフレート先輩。


 我が国の第二王子を恐れ多くも雑用のパートナーに指名したふとどき者はわたくしです!!


「電気網ねえ、本当にまた君は変わったことを思いつくねぇ…」


 んん!? そうだったかしら!?

 この方を前にして、今までそれほどおかしなことはしていなかったと思うけれど、ひとまずここは全てYESだ。

 

「はい! すみません!! でもお願いします、アルフレート先輩の協力が必要なのです!」


 なにとぞ、なにとぞお願い申しあげる。

 電力が、電力が無いとただの網になっちゃう。


 空魔法の攻略者であるこの国の第二王子アルフレート先輩がこの電気網の要と言っても過言ではない。


 電の力=空属性の魔法。

 実は空属性の魔法使いは火や水の使い手よりうんと少ないのだ。

 属性の希少さで言うと聖>空>魔>火>水>風>土って感じ。天候を左右する力を持つ者が王族に、人を癒す奇跡を有する者が神殿に、みたいな国の力の分布も頷ける。


 もちろん魔石で代用はできるけれど初期費用がバカでかくなってしまう。しかも農地を一周するぐらいの電力量と装置を壊さないレベルの微調整が必要な為人力で行うのがベストなのだ!(全てシルヴィ君の受け売り)


「必要ね…電力の源として?」

「ぐ…」


 そのとおりです。

 言葉に詰まった私を見てアルフレート先輩がくつくつと笑う。


「しかもユージンを味方につけたんだ、やるじゃないか」


 私の後ろに保護者の様についてきたユージン先輩を指して感心している模様。


「………ふん、仕組みが興味深かっただけだ」


 さすがのユージン先輩も少し気にしているっぽい。照れ隠しなのか目があった途端にさっと顔を背けられました。

 でも実は一番『不敬罪である!!』って叱られるのでは、と思っていたユージン先輩を先に攻略できたのはなかなかファインプレーだったと私も思うのです。

 もちろん電力をアルフレート先輩に頼る、と言った時には『こいつ正気か?』みたいな顔はされたけれども…。


 ギリ忠誠心に好奇心が勝ったみたい。

 やっぱり知識として興味あるよね! 電気網!

 インテリ眼鏡君、そういうとこあるって知ってたよ! あと無残にかじられたお野菜諸君の犠牲のお陰だと思う! ありがとうお野菜君、君たちの犠牲と貢献は忘れないよ!


「いいよ、協力してあげる。面白そうだから」


 そう言って我が国の第二王子は、釣り竿とバケツを持ったまま気さくに笑った。

 

 王子様は時と場所を選ばなくてもちゃんと王子様なんだなあ、とあたらめて納得してしまう。ジャージにバケツと釣り竿でもちゃんとロイヤルスマイルって感じがするもの。


 でも、ここは王宮でもなく学園でもなく妖精の森っていう一風変わった空間だもの、あり得ないことが起こっても不思議じゃあないなって。



「ありがとうございます!!!」


 やったー!! 電力ゲット!! 

 私以外が全員天才の為、これは『電気網』完成したも同然です!!






 ****



 これって乙女ゲームだよね…?

 と我ながら首を傾げる日々


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 よろしくお願いします╰(*´︶`*)╯

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