第94話 三日目の課題


 午後は自由時間と言ったが、あれは嘘だ。

 そんな心の声が聞こえそうなほど室内はざわついている。

 

 二日目の『特別授業』を乗り越えた皆々様お待たせいたしました!

 本日、三日目。

 残すは衣・食・住の『衣』と相成りました。


 『さすがに昨日以上のことは起こらないだろう』と油断していた皆様が午後一番で渡された衣装を手に見事途方に暮れている。


 ここは宿舎の1階にある多目的ホール。

 簡易的な机と椅子が並び、ミシンが2台と様々な生地やリボン、ボタン、レース等の手芸用品が並ぶ。


 各人が手に持っている衣装はスバリ、≪5日目≫に行われる星祭りの衣装である。

 紺地のインナーに白のはおるタイプの上衣、男性はズボン、女性は長めのスカート、上衣は腰にサッシュを捲いてサイズを調節するフリーサイズ。足は編みサンダルとなっている。ちなみに全員同じデザインだ。


 この合宿の最大のイベントである『星祭り』は、我が国で毎年夏に行うお祭りだ。ここでは生徒と精霊たちが一緒に歌って踊って楽しむものと決まっている。


「装飾やアレンジは自由。もちろん魔法を使用してもいいですよ。材料はこちらにある刺繍糸やリボン、スパンコールなどを使ってもいいですし、ミシンもあるので、自前で何かを用意してそれを使ってもいいです。ちなみに昨年と一昨年の衣装はショーケースに展示されているので参考にしてください」


 アレク先生が指し示す先には見事な刺繍とアレンジが効いた衣装が飾られている。最初の布とは別物だ。農民Aと舞台女優くらい違う。


「え、これ(布)があちら(衣装)になりますの?」

「どうやって?」

「あの刺繍って手縫い??」

「俺、針とか持ったことも無いんだけど…」


 ざわつく室内。

 制服は別として日頃豪奢なドレスをお召しになっているご令嬢からするとこのような布一枚みたいな質素なワンピースは衝撃的なのではないかしら。もちろん着飾ることに興味が無かったご令息に至っては寝耳に水のような話だろう。


 そう、つまり次はお裁縫なんですね。

 この世界のご令嬢も刺繍?とかはするんでしたっけ。レース編みとか? 人による?

 まあでもいいとこの御子息は既製品なんて着ないものね。普通は気に入ったデザインを選ぶだけで、丈をつめたりサイズの調整はお店の人がやってくれるし。


 ちなみに私は並縫いしかできませんけれど?

 …んーと、ちぇーんすてっち? だったっけ、あれもギリギリできるかな??? 遥か昔の学生時代にやったきりなので、今もできるか分からないけれど。


 …残念ながらお裁縫チートはできそうもありません。

 こういうときコスプレやってる友人がいれば心強いのになあ~なんて思ってしまうオタクです。

 オタクはみんなレア技能を持った超人集団だもんね。

 この課題、布と型紙を渡されたんじゃなくてよかったねーとか思ってしまうのは私がオタクだからなのかしら。


 でもどうやらこの課題は男子生徒よりも女子生徒の方が深刻度が高いみたい。男子生徒からは『別にこのままでもよくない?』みたいな声がちらほらと聞こえる。うんまあ私もそう思わないでもない。


 ざわつく室内をそのままに、アレク先生が合図をすると研究所の職員の方々がぞろぞろと多目的ホールへと入ってきた。


「そして星祭りといえば音楽とダンスですね」


 壇上の小さな簡易ステージに用意されていた楽器、バイオリンにリュート、シンバル、トランペットなどを研究所職員の方々がそれぞれ手にしてスタンバイ完了。


「当日はこの曲を演奏して、男女ペアになってダンスをします。難しい踊りではないのですぐに覚えられますよ」


 そうなのです。音楽とダンス!

 こちらも苦手な人にとったらとにかく苦手な分野だよね。


 アレク先生に手招きされて、私たち一年生三人組がみなさんの前に立った。


 実は私たちはこのダンスを事前に覚えさせられていたのです。

 星祭りでペアで組んで踊る踊りなので練習の相手として協力することになる、とも『旅のしおり』で事前に告知されていたし。


 私たち…救護者を運ぶだけがお仕事ではないのですよ。


「祭りの会場は農園の先にある円形の第二広場の方で行います。中央にキャンプファイヤーが設置され、円を描くように踊ります」


 カリカリと黒板に図を書いて流れを説明すると、アレク先生はアメリアさんと、私はシルヴィ君とペアを組んだ。


「では見本を見せますので覚えてくださいね」


 アレク先生が合図をすると研究所の楽団は軽やかに演奏をはじめた。

 

 右にステップ、ターンして手拍子、左にステップ、ターンして手拍子。単純でシンプルなメロディに規則正しく分かりやすい踊り。

 手を併せてくるりと回転したり、一歩離れたり近寄ったりとそんなに難しくはない。貴族がホールで踊るワルツのようなダンスではなくて誰でも参加できる村祭りのダンス。


 いくつかの小さな光が窓から入ってきては私たちの周りをふわふわと漂う。


「音楽に誘われてやってきた『精霊』ですね」


 アレク先生が踊りながらにっこりと笑う。


 やっぱりこれ精霊だった!!


 まだしっかりとは見えないけれど、ここに来てからだんだんとこんな風に精霊の存在を直に感じることがある。

 精霊側が私たちに慣れてきたっていうこともあるのかもしれないけれどね!


 ちなみに、アレク先生やシルヴィ君には精霊の姿が見えているらしいのだけれど、あんまり詳しいことは教えてくれない。精霊が見えない人に精霊のことを話すのはタブーなんだって。


 今の状況は向こう側から一方的に品定めされている感じかな。まあ選ぶのは精霊さんの方であって私たちではないしね。


 ワンフレーズを踊りきるとお互いに礼をしてパートナー交代。今度は私がアレク先生と踊る。こう、ええ感じに曲と曲の合間に入れ替わる感じ。私とアレク先生の身長差も凄いけど、スラットした長身のアメリアさんとシルヴィ君のペアも身長差がすごくて可愛い。


 アレク先生ともワンフレーズ踊りきり、最後に礼をして終わる。…先生、ちょっと息が切れているけれど大丈夫ですか。


「…はい、こんな感じです。本番は明後日なのでみなさんしっかり覚えてくださいね…」


 明後日! 知ってはいたけどめっちゃ時間無いですね!!





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