第95話 特技は人それぞれ
「音楽は蓄音機もありますのでこちらは自由に使ってください。演奏するなら楽譜はそこに」
アレク先生が呼吸を整えながら説明をする。
ダンスの指導は以上。
基本見て覚えてやってみて、分からなかったらサポート(1年生)が教えますスタイル。
つまりダンスは全て自主練となる。
午前は生きるための作業で午後はイベント準備、本番は明後日。自由になる時間はあまりにも少ない。
「あと楽器を貸し出すので、演奏する人も絶賛募集中です。こちらは強制ではなく立候補式ですが演奏できる方はぜひ参加してください。もちろん職員が演奏もできますけれど、ずっと演奏しているのは大変なのでね」
まだ息が整わないアレク先生は本当にしんどそうです。
そう、人には向き不向きがあるからね。
むしろ運動が得意でない(失礼)なアレク先生がダンスを実演してくれたことの方が意外な気もする。
棚には音楽室ばりにずらりと楽器が並んでいる。
使う楽器は本当になんでもいいらしい。
「あ、星祭りは基本的に全員参加です。ダンスが苦手な方は演奏側に回ってくれてもいいですし、その逆もしかりです。さぼっても怠けてもかまいませんが、お祭り当日には必ず何かしらの参加をすること」
アレク先生がことさら強く念押した。
衣装の作成に、ダンスに演奏、どちらにしても覚えるのも作るのも時間が足りない。
「君たちが頑張る姿をね、精霊は見ているんですよ」
皆の視線に応え、アレク先生がにこりと笑う。
「音楽が好きな精霊もいれば、ダンスが好きな精霊もいる。衣装に興味がある精霊もいれば、そもそも祭り自体興味がない精霊もいる。そういうことです」
アレク先生の言葉に込められた意味に生徒たちの目が急に真剣味を帯びた。
今の発言に含まれている意図はもちろんこれから決定するパートナー精霊の事だ。
精霊の森での私たちの行動によって、似た(?)パートナー精霊が決まるということ。さぼっても怠けてもまじめにやってもどちらでもいい。焦っても困っても、喜んでも何をしてもその心の在り方が指標になる。
私たちは精霊に【選んでもらう】立場なのだから。
「能力は出し惜しみしない方がいいですよ。精霊には嘘は通用しないので…まあ、少しひねくれた精霊がお好みであればそれはそれでいいかと思いますが…痛っ」
アレク先生の頭が見えない何かによってこづかれた。
「!!」
あはは、と笑う先生はどうやら精霊にいたずらされた模様。
なんていうか…いよいよ精霊の存在感が増してきた。見えないけれど、なんかだんだん分かってきた感覚があるもの。
「どうしよう衣装…」
「ダンス…」
「苦手」
「演奏した方がいいかしら…」
ひととおり説明が終わり、アレク先生と研究所の職員の方たちは元の仕事へと戻って行ったが、部屋には残された生徒たちが困惑した空気が漂っている。
自由時間という名の自習および作業スタートだ。
…みんな何から手を付ければいいのか分からない様子。
うむ、気持ちは分かる。
衣装もゆっくり考えたいけどダンスも演奏も覚えないといけない。
精霊が見ているのだと思うとなまじ適当なことはできないというプレッシャー。
「ナターリア先輩、大丈夫ですか?」
気むずかしい顔で衣装を眺めていたので声をかけてみた。
「ロゼッタさん…、なんでもないわ…いえ、そうね、」
珍しくナターリア先輩が口ごもっている。
いつもハキハキとしゃべるナターリア先輩にしては珍しい。
「わたくし、お裁縫とかあまりしたことがなくて…その、実は刺繍も苦手なの…」
あーそういうこと!
スーパーパーフェクトで天才のナターリア先輩にも苦手なものがあったのか! ていうかなんだそれ可愛い。
「そうだったんですね、知りませんでした」
「なのでどうしたらいいのか…」
「大丈夫ですよ、こういう時はお裁縫得意な方に手伝ってもらえばいいのです。仲間内で助け合ってもいいってアレク先生も言っていましたし」
そうなのだ。この無茶な納期はお互い助け合ってなんらかの成果を成し遂げるという意味もあるとか。つまり、先輩みたいになんでも全部一人でやってしまう天才肌の人も人に頼ることを知ってほしい、みたいな感じ?
誰だよこんなスケジュール組み立てたの。エグイほど合理的じゃん。
「そうね、どうしましょう…」
可憐な美女が困っているならば助けねばなるまい。
昨日のミーティングの件もあり、ちらっとユージン先輩の様子を伺うが…。
いや、衣装の事に関しては男子はいいや。
どっちにしても出来そうもないし(偏見)こういうのは女子同士でキャッキャしてる方がいい気がする(独断と偏見)。
「あの、キャロル先輩今いいですか?」
クラスの女子生徒と一緒にずらりと並んだ箱の中から手芸のパーツを漁っていたキャロル先輩に声を掛けた。
「ロゼッタちゃん! さっきのダンス可愛かったよ~!」
「あっ、いえ…はい。ありがとうございます」
相変わらずのにこにこ笑顔でなんでも褒めてくれるのうれしい。好きです。
「あの、キャロル先輩ってお裁縫得意ですか?」
「ん? うーん、そんなに得意でもないけれど苦手ってほどでもない…かな? あ!でもこの子はお裁縫得意だよ!」
とずいっと腕を引かれて連れてこられたのはキャロル先輩のクラスメイトの方。
「あの、そしたらナターリア先輩と一緒に…」
と言いながら私もナターリア先輩の腕をつかんでぐいっと引き寄せた。
「一緒に…やりませんか?」
「えっ、ナターリア様?」
「あの…ごめんなさい、突然」
わたわたとしているナターリア先輩を強引にキャロル先輩に引き合わせてみました。クラスが違うので直接接点はなかった二人だけれど、きっかけがあれば問題なく仲良くできると思うんだ。
「あの…わたくし…、お裁縫とかが苦手で…その、いろいろ相談してもいいかしら」
顔を真っ赤にしてもじもじと話すナターリア先輩の様子に目を丸くするキャロル先輩。
いつも毅然として美しいナターリア先輩のこのギャップ。
面倒見のいいキャロル先輩にも効果は抜群だ。
う~ん眼福!!
双方話し合いの結果、お互い協力して事にあたることにしいたみたい。
私は先輩方どちらも大好きなので一緒にいてくれると構いに行きやすくて大変うれしいです(完全に私の都合)!
その後、衣装づくりのアドバイスなども行ったけれど、私たち一年生組はダンス練習のお相手をした。中には演奏の練習をする人もいて、終わりの頃には生演奏になっていたりした。…贅沢~!
う~ん、このドタバタ感。
学生時代の文化祭を思い出すなあ~、あ、これある意味文化祭みたいなものなのか。
お祭りは参加した方が楽しいもんね。
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