第70話 三者三様 帰り道



「あれっ! ロゼッタちゃん、そのバレッタどうしたの?」


 17時の集合にきっちりと現れたキャロル先輩が目敏くバレッタのことを指摘した。


「えーとこれは、モブ…ロバート様にいただいたんです」

「そうなんだ! ブラウンも大人っぽくていいねぇ」

「ありがとうございます」


 思いのほかリボンへの指摘が多くてびっくり。

 私のリボンってばけっこうしっかりとしたトレードマークだったのね。某キャラの眼鏡みたいな感じなのかしら? 

 ロゼッタの私服にはブラウン系の物は無かったのだけれど、こうして実際身に着けてみると我ながら悪くないと思う。


「あ、そうか私がロゼッタちゃんのリボンを借りちゃったから…!」

「いえいえ、それはそのままで!!」


 はっと気づいたようにキャロル先輩が自分の頭に手をやるのを慌てて押しとどめる。


「たぶん一度解いたらバラバラになっちゃうと思うので、今日はもうそのままの方がいいと思います!」

「そう?」

「はい。リボンは後日返していただければいいので…!」


 私が作った即席の髪飾りは一度ほどいたら絶対に復活できないと思う。すでにもうお花がヘタレてきているし、現時点でちゃんと形を保っているのが奇跡に近い。ここでえいやっと解いてしまって万が一ふわふわで軽い髪質のキャロル先輩の髪型に変な癖がついてしまっていたら大変申し訳ない。


 だってこれ(一応)デートだしね!

 もはや今日が何の日だったか忘れかけていたけれど、これ一応ダブルデートっていう体だったから。

 なんか私のチームですら、そこはかとなくデートっぽい展開もあったし!

 このデートはやっぱりデートなんだと思う。


「伝え忘れていたが、その髪型も似合っている」


 はい、ここで遅ればせながら発言したのはロイド先輩。

 遅いですよ先輩。

 でも遅くても発言したのできちんとときめきポイント入ると思います。


「ありがとうございます…」


 嬉しそうに頬を染めるキャロル先輩。

 うーん、初々しい。

 お兄様陣営から見ると大変悔しい光景ですが、そもそも今日はこういう流れのはずだったんだものねえ、めちゃめちゃ波乱万丈な一日でした。どうしてこうなった。



 乗り合い馬車を待つ人達の列を横目に、私たちは個人所有の馬車のスペースへと向かう。

 ずらりと何台も馬車が並ぶ中、一際武骨で立派な馬車がイーズデイル家の馬車だ。朝と同じ御者さんが私達の姿を見つけて、乗り降りしやすい場所までゆっくりと馬車を移動してくれた。


「では、どうぞ」


 ロイド先輩のエスコートで馬車に乗り込むキャロル先輩とそれに続く私とモブA。ロイド先輩はともかく、さっきさんざん騒いでいたモブAまで嘘みたいにすまし顔をでエスコートしてくれる。

 モブAってこういうところ本当に器用よね。


 行きとは打って変わって軽くなったリュックを座席にひょいと置く。

 さてと、ではまた行きと同じように馬車に揺られて帰りますか。


「キャロル先輩達は私達と別れた後、何をしていたんですか?」


 馬車に揺られながら離れていた間の事を聞いてみる。

 当初の目的であるデートで上がったであろう好感度のリサーチだ。

 王都への道のりはまだまだたっぷりあるので積極的に情報収集したい。私だって私の目的を忘れて無いからね。


「私はあの後イワシ―ミスに乗せてもらったの」

「ええっ!?」

「馬に乗ったことが無かったから、とっても高くて見晴らしが良くて楽しかった」


 あの本日の功労馬にさっそく乗っちゃうとかなんというか型破り過ぎて驚いた。


「あっ! 走ったりとかはしなくてゆっくり歩くだけだけど」

「クールダウンも兼ねて俺が引き綱を引いて歩いた」

「なるほど…」


 ロイド先輩が補足する。

 なるほど、そっちはそっちでほっこりお散歩タイム。

 悪くないデート展開です…けど本当に一日馬尽くしだね…。


「それからね、イワシーミスの手入れを一緒にしたよ」


 イワシ―ミスをスポンジで洗ったり、蹄に油を塗ったのだと楽しそうに話すキャロル先輩。


(思ったより普通)


 知ってはいたけれど、さすが実直を絵に描いたようなロイド先輩。『レース応援』以上のイベントは無かった。そんな重要な美味しいトコを私がぶんどってしまったのは大変申し訳ないな。


 てか流石の体力お化けロイド先輩といえどいろいろ限界だったのか、馬車の揺れが眠気を誘ったのか馬車が出発すると同時に寝落ちている。


「そういえば、ロゼッタちゃんのアドバイスの通りにりんごもあげたよ」

「あ! どうでした? 上手にあげられました?」

「うん、ちょうどご飯を入れる飼い葉桶に入れてあげたからきれいに全部食べてくれた」


 すばらしい。

 最初からリンゴマスター。

 私のアドバイスの賜物ですね!


「ロゼッタちゃんもナギサちゃんにあげられた?」

「はい、それはもう、ばっちりです」


 私は元気よくVサインをする。


 というより、ぶっちゃけりんごどころの騒ぎではなかった。

 リングベイル陣営での騒ぎもダブルデートという名目で本日付き合ってもらっている以上、あまり強く訂正できないのがつらいところ。

 あの騒動は説明したら必要以上に誤解が生じそうなので黙っておこう。


「その後は、お家の方々にたくさんもてなしてもらってお土産までもらっちゃった」

「…ああ」


 行きは持っていなかった大きなトートバックを持ったキャロル先輩。

 たしかに本日のトラブルを鑑みればキャロル先輩は謝礼をたんまりもらってもいいレベル。

 

 私たちがおしゃべりに花を咲かせていると、馬車の窓をコツンとついばむ光る小鳥。あれって『手紙の小鳥』じゃない?

 モブAが馬車の小窓を空けて小鳥を招き入れると手元でシュンと1通の手紙に姿を変えた。


「ふん」

「お手紙ですか?」

「ああ『英雄サマ』から直々のラブレターだ」


 手紙に押された封蝋を見てにやりと笑うモブA。


『承知しました。詳しい日程などはまた後日連絡させてもらいます』


 届いた手紙にさっと目を通し、モブAは簡潔に『声の鳥』で返事を返す。


「大口顧客の予感」


 モブAの言葉は少なかったけれど、どことなくご機嫌の様子にだいたいの予想が出来た。

 ミラージュ様、モブAのお家のお馬さんに興味が湧いたんだね。


 結果、いろいろあったけれどどこもかしこも丸く収まって良かった!

 モブAだけ貧乏くじを引いたんじゃないかってちょっと申し訳なく思っていたのよね。


 ちなみにミラージュ様の奢りで頂いた夕食は本格中華のお店でした!


 エビチリにフカヒレに小籠包!

 しめに杏仁豆腐とゴマ団子! 

 控えめに言っても最高では!? 大変おいしく頂きました!


 イーズデイル家がよく利用するレストランとしか前情報が無かったからお店に着いた時に感動したよね。(ゲーム的)多国籍文化万歳!


 中華を初めて食べたというキャロル先輩も大変喜んでいました。

 私は食には強欲なので、遠慮せずにお土産に月餅をいただきましたよ。

 だって大好きなんだもん! ミラージュ様ゴチになります!


 ほんと色々あったなあ今日。

 でもトータルしたらけっこう楽しかった、かな?





 ****





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