第68話 オタクの習性


「あっちのお店も見ましょう!」


 イチゴ飴で動揺の極致に至った私は、飲食店ではない区画の露店へと向かった。


 あーびっくりした、びっくりした。

 お店を見ながら平常心を取り戻そうね! 

 この熱くて(おそらく赤くなった)顔ももとに戻そうね!


 気を取り直して露店を眺めてみれば、馬具や馬装・馬着の他、人間用のアクセサリーや雑貨の店などもちらほらと出店していた。特徴的なのは馬関係…馬具・蹄鉄などの柄がモチーフに使われていてどことなく馬好きさんのお店って感じがする。


「あ、かわいい」


 リボンにバレッタ、ペンダントにチョーカー、馬をモチーフにしたアイテムを扱うアクセサリーのお店だ。ちょいとお値段は張るけれど、どれもこれも一点ものって感じ。

 かわいい、正直ちょっと欲しい。


「どれが欲しい? 買ってやる」

「ええっ! いやもう充分です!」


 お昼だってイチゴだってご馳走になったのに、これ以上お土産まで買ってもらっちゃ悪い! てか、心臓にも悪い。私だってお財布持ってきているんだから。


「じ、自分で買えます!」

「そうか? でも渋ってただろ?」

「ぐっ…」


 それは確かにそうですけれど。なんで分かっちゃうかな。

 実は学園のフリマで魔法アイテムを買った余波で私のお所持金は非常に寂しくなっている。この間はお菓子も作ったし。お菓子の材料費ってわりとばかにならないのよね…。


「トレードマークが無くなってるしな」

「はい?」


 そう言ってモブAが指さしたのは私の頭…。

 あーーー、そうだリボン!!


 そういえば、キャロル先輩の髪をしばった時に外したままだった。忘れてた。

 縛ったゴムはそのままなので自慢の縦ロールは健在なのだけれども。


「すっかり忘れてました…」

「無いとなんだか物足りないし、いつもより小さく見えるだろ?」

「最後のコメントは余計じゃありません?」


 リボンの分だけ丈が足らんという現実を突きつけないでほしい。

 そういやキャロル先輩の髪型も変わってたっけ、誰からも指摘されなかったから忘れていたけれどそりゃあ気づくか。


「りんごのお返しだ」

「りんご…?」


 そういや、パティにあげたりんご、半分以上モブAが食べちゃったんだっけ…。


「いえ、でもさっきイチゴでお返ししましたし…」

「あれは先に俺がやったんだか?」

「はっ!」


 そうでした!!

 イチゴもご馳走されたんでした! あわわ、いろいろあってもはや認識がぐっちゃぐちゃになっている。


「素直におごられておけ。俺とここに来てみすぼらしくなって帰したとか俺のメンツが無いだろうが」

「ううう…そ、そうなりますか?」

「なる」


 うーん…メンツ、メンツか。そう言われるとこっちの常識に疎い私は何とも言えなくなっちゃうな。貴族には貴族の事情もありそうだし。

 りんごのお返しというのならパティにあげるべきだとは思ったりしたけれども、そういうことなら今回はその理由で納得しますか…。

 ホント奢られ慣れてないので申し訳なさが先に立っちゃうのよね。


「では、ありがたく」

「よし」


 どれにしようかな…。

 あらためてお店のラインナップを見るとリボンもいいけど、バレッタも可愛い。模様が馬の柄だったり、ポイントに馬具の飾りが付いたりしている。

 お馬さん柄…せっかくだから今日の記念になるようなものがいいかな。


「じゃあ、これ!」


 ブラウン生地にセンターに太い白のラインが入ったリボン型のバレッタを手に取った。リボンの結び目の所に金色の…なんだっけこれ、ハミ? の飾りが付いたシンプルなデザイン。


「それでいいのか?」

「はい!」

「いつものやつと色が違うがいいのか?」

「いいのです! 今日はこれがいいんです!」


 笑顔できっぱりと断言する私にモブAは怪訝な顔をしつつ、お店の人に声を掛けて購入する。すぐに付けるので包装は遠慮してそのまま受け取り、店に備え付けてあった鏡を見ながらいつもの場所にリボン型のバレッタを装着した。


 ふふふ、いつもリボンは瞳の色に合わせて紫を選ぶことが多いわたくしですが、うん、ブラウンもけっこう似合うじゃない。


「どうです?」

「ん、いいんじゃないか?」

「何か気づきません?」

「うん?」


 首を傾げるモブA。

 さっきは髪型のことに気づいたと思うけれど、今度はどうでしょう。


「ずばり! ナギサとお揃いです!」


 私はドヤ顔で答えた。

 なぜなら、わたくしナギサチームなので!


「お揃い?」

「はい! 勝負服とお揃いですよ!」


 えっへん! 小豆色の生地に白のライン!

 わたくしちゃんと覚えておりますので!


 モブAのビックリ顔に満足する私。

 ふふん、その様子だと気付かなかったな!

 推しのカラーを身に着けるのはオタクの習性だからね。


「でも残念、このリボンを付けてレースを観戦すればよかったかしら」


 それだけはちょっと残念。推しのグッズと共に舞台を観戦したりするのは推しの意気込みでもあったのに。

 でももし次回応援に来ることがあったらこのバレッタを身に着けてこようかな。冬にも大きなレースがあるというし…。


「…お前、そういうとこ天然だよな…」

「はい?? どういう意味です??」


 天然という言葉にはちょっと引っかかりを感じてしまう私なのですが…。


「プレゼントを贈り甲斐がある、って話」

「うん?…それなら良かったです??」


 私がたくさん喜んでぶから嬉しいってこと?

 確かにロゼッタは喜怒哀楽がはっきりしたタイプなので、中身の私も引きずられてしまうからだいぶ感情は表に出ている気はしている。


「そろそろ戻るか、ナギサの手入れも済んでいるだろう」

「あっ、はい!」


 モブAも今日は予定外の事がたくさんあっただろうから、何かあげたほうがいいかな~とも思ったけど食べ物しか思いつかなかったのでやめた。


 ちょっと分かりにくいけど、モブAも喜んでいるってことでいい、よね?




 ****






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