第67話 イチゴ飴



 迷路のように並ぶ立木が途切れると、そこには普通のお祭り会場があった。

 立ち並ぶ屋台に露店、のぼり旗にバルーン。どこかで演奏をしているのか音楽も流れている。


 あ、予想外!! 普通!!!


 最初からこっちにくれば、そこそこデートっぽかったんじゃないか?ってくらい普通にお祭り会場です。


「そうだ、ふれあい広場!」

「……閉まっているな」


 う…がっかり。

 可愛らしい動物たちが書かれたアーチ形の手作り看板の下には『受付終了』の札が掲げられていた。

 そうだよね、最終レースも終わってるし、もう後はお土産買って帰るだけだもんね。


「残念だったな」

「ううう、はい。小さい生き物とのふれあいもしたかったな…」


 大きなお馬さんとのふれあいはあったけれど、その…お馬さんはふわふわじゃないので…ふわふわを堪能したかった。ゲーム内でのスチルイベントに軽くスルーされるロゼッタ乙! あれはヒロイン用のイベントだったんですかね! 


「美味しそうな匂いしているけれど、これからお夕飯をいただくのであんまり食べない方がいいですよねぇ」

「それはまあ、そうだな」


 お祭りの目玉となる屋台スペースを見まわしてちょっとだけがっかりする。

 馬の形をしたクッキーやパンなんかも可愛いけれど、今はいらないかなあ…お兄様が作った方が美味しいし。

 あ、今日ここに来ていることはお兄様には内緒にしているのでお土産も無しです。


「飴ぐらいならいいんじゃないか?」

「飴? どれですか?」


 モブAが指を差す方向をを見ると、フルーツ飴の屋台があった。


「りんご、みかん、イチゴ…イチゴなんてありますの!?」

「そういえば最近見かけるようになったな」

「まあまあ!」


 実はわたくし、りんご飴が大好きなのです! 日本のお祭りに行った際にはお土産にいっつも買って帰っておりました! 社会人になってお祭り自体には参加できなくてもちょちょいっと会社帰りに屋台でりんご飴を買ってお祭りの雰囲気を味わっていたというか。


「イチゴ! イチゴ飴食べたこと無いです!」

「じゃあそれにするか」


 言うが早いかモブAは店主に言ってイチゴ飴を1本買っていた。私がお財布を出す暇もない、素早い!


「ほら」

「…ありがとうございます」


 串に刺されたイチゴが透明な飴でコーティングされている。甘いお砂糖の香りとイチゴの甘酸っぱい香りがした。


 モブAがあんまりにも自然に渡すからついつい受け取ってしまった。

 こういう時、素直に受け取っていいのかな。

 日本では最近『デート代は折半』が普通だけど、こちらの世界でしかも貴族階級の常識としてはあんまりお金のことは口に出さないのがマナーっていえばマナー。


「ん! おいしい!!」


 一口イチゴ飴を口に入れたらそんな小さな問題は吹き飛ぶほどのおいしさ!

 えっ、イチゴ飴ってこんなにおいしいの!?


「甘っ!! それにジューシー!! イチゴ飴ってこんなにおいしいものでしたの!?!?」


 衝撃のインプレッション。

 一口で君に恋をした。

 薄い飴をかみ砕いたあとに溢れる果汁。

 とっても甘いのに、甘酸っぱい果汁がそれを押し流して後味はさっぱりしていて甘すぎない。


「気に入ったか」

「はい!」


 美味しさに後押しされてもう一つぱくり。


「ん~~~!!」


 二口目も安定のおいしさ。ひと串にイチゴが5個も刺さっているなんて、なんてハッピー×5なのでしょう。…と思って気が付いた。


(モブA食べてなくない!?)


「モ…っ、ロバート様は食べないのですか?」

「甘そうだから俺はいい」

「えっ! でも、これそんなに甘すぎなくておいしいですよ!」


 本当に本当にイチゴの果汁のおかげで後味さっぱりだから。

 おいしいから! こんなにおいしいのに食べないのはもったいない。


「ひと口! 一口だけ食べますか? ほら、こっちの端はまだ口付けてませんし!」

「いいって」


 このイチゴ飴のおいしさをどうしても理解してほしくて私はつながったイチゴ飴をずるりと串から抜き出し、端っこのイチゴを根性でねじ切った。


「はい!」


 モブAの目の前に差し出したイチゴ一粒。目を丸くするモブA。

 相手がきれいに固まっているのを見て気が付いた。


(やっちまった…)


 さっきまで『貴族の子息と淑女のなんたるか』なんぞを脳内でごねごねしてたくせに秒でひっくり返してしまったのは私だよ。

 貴族の淑女はこんな風に食べ物シェアとかしないし、素手で食べ物つまんだりとかしない。

 どうしよう、これこのまま引っ込めた方がいいかしら。でもあげるって差し出してあげないのも意地悪しているみたいだし…。


 ぱくり。


 一瞬だけ手を掴まれて、私のイチゴはそのままモブAの口に消えていった。


「うん、たしかにうまい」


 あ、わわわわ。

 一度差し出した手は引っ込められないとか、これっていわゆる『アーン』じゃない? とか、今ちょっと唇触れたよね、とか!!!


「一個でいいや。ごちそうさま」


 イチゴ飴を完食してさっそく感想をつぶやいているモブA。

 全然動揺もしていない。


「!!」


 なにそれ!!

 スマートでときめくじゃん! モブAのバカぁ!!

 

 私は完全なる八つ当たりをして、残りのイチゴ飴を頬張った。


「どういたしまして」


 ああもう、甘いったら! 甘いったら!

 手だってお砂糖の欠片が付いてべとべとするし、でもここで手を洗ったりするのは失礼かもしれないし、ひとまずハンカチを握りしめてみる。


 …イチゴ飴ってこんなに甘かったっけ?






 ****






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