第66話 モブAと散歩
キャロル先輩達と別れてリングベイル家の厩舎へと向かう。
かっぽかっぽと響くナギサの足音が耳に心地良い。
しかし今日はホントによく森の中を歩くなあ。
小道もきれいに整地されているので歩きやすいし本当に森林浴って感じ。
でも私はこうして森の中を歩くぐらいしかしていないので全然元気だけれど、ロイド先輩はずっと馬に乗っていたし、キャロル先輩も長時間魔法を使い続けて消耗しているはずだ。
ガチでお疲れだと思うし明日から普通に授業だけれど大丈夫かな。
「少し広場の様子でも見ていくか?」
「え?」
モブAが木々の向こう側、屋台などが並ぶエリアを指差した。ちょうど目の前の分かれ道を辿れば着くらしい。案内板が立っている。
そういえば今までなんやかんやあり過ぎてお祭り気分は全く堪能していないけれど、露店や屋台の様子なんかももちょっと見たい。
「見たいです!」
「そうか、じゃあシロホシはナギサを連れて先に行ってくれ。俺たちは少し寄り道していく」
「わかりやした! 坊ちゃん」
ナギサを引いていたシロホシさんはそう言って先に厩舎へと戻って行った。
リングベイル家の使用人の方って基本的にこのテンションなんだね。
二人を見送って私たちはより広場へと向かう道を歩く。何となくだけれど、今までに比べて道が整っている…ようやく人間用って感じ。
「そういえば、お前ミラージュ様に随分と気に入られていたみたいだけど何かあったのか」
「へ?」
会場へと向かう道すがら、モブAが二手に分かれていた時のことを訪ねてきた。
そういえばいろいろと慌ただしくてその辺の情報共有とかって全くしてなかったね。
「そう見えました?」
「見えた」
うーんと…そうかなぁ。
あの方自身がだいぶ誰にでも人懐っこい感じしない?
「そういえば、男兄弟しかいないので妹が羨ましいみたいなことはおっしゃっていましたけれど、でもそれを言うならばモ…ロバート様の方が気に入られていません?」
馬好き同士、話も弾んでいたではないか。ニコニコしていたし、次は冬のレースでとか言っていたし、たぶん今度ナギサに乗せてほしいとかって言ってくるよあの人。
「う…それは…そうか」
「ミラージュ様って気さくな方ですね」
気さくというかなんというか、ほら天然素材だから。
普通の貴族は初対面の伯爵令嬢の頭とか撫でたりしないと思う。
その辺のことはあえて言葉にはしないけれど、モブAも頷いているので伝わっているなこれ。
「それと治療している時の話とか詳しく聞いていなかったがどうやって切り抜けたんだ?」
あー、その辺も聞いてきちゃうか~。
たしかにディーノさんの説明ではあれ以上打つ手なし、みたいな膠着状態だったもんな。
「ええと…治療に専念して動けない二人に代わって、わたくしがお屋敷内で見つけた魔力増強アイテムを使ってキャロル先輩の魔力を増強したのです」
「お前が?」
「はい」
「いつもの通りドタバタやったのか?」
「うっ…、そうです」
「…そうか、大変だったな」
「ええ、まあはい」
うん、間違ってないよね。
私がステータスを見えるってこと、キャロル先輩やミラージュ様はうっすら気づいたかもしれないけれど、その辺はなんとかごまかせると思う。
つーかドタバタやったって何で分かるんだろう。
「そちらはどうだったんですか?」
ロイド先輩の特訓の方も私は完全にノータッチだったから何していたのかは全く知らない。猛特訓、とは聞いていたけれどまさかタイヤを引いたりとかするわけないし(私の特訓のイメージがやばい)。
「…ああ、そうだな。ロイドは基本的に技術はほぼ問題なかったから、簡単な騎乗姿勢の修正と、競り合い、追い込みの経験とかをやっていた」
「へえ…、それって一朝一夕でできるものなんです?」
「普通はできないだろ。ロイドの身体能力がずば抜けていたから何とかなったようなものだ」
運転免許は持っているけれど、路上を走ったことない人が突然都内で首都高走るみたいなものかなあ、超怖い。
「さすがのロイドもレース本番はしんどかったみたいだがな」
「それはそうでしょうね…」
あのロイド先輩をして『二度とご免』と言わしめるほどだし…。
くそ度胸が必要そうだ。私には絶対にできない。
「ううう、イーズデイル家って手強い…」
やっぱりお兄様のライバルは恐ろしく強い。
今回の件でキャロル先輩の仲でロイド先輩(+ミラージュ様)の存在がだいぶ大きくなってしまってる気がする。
てかお兄様ピンチ!
私がここにいることでギリギリ(イオリス家の)不戦敗は免れているって感じだけどもそもそもに印象値が天と地ほども差がある。なんならモブAに方が好感度上がってるんじゃない?
ちらりとモブAを見ると『なんだ』と返された。
「いえ、何でも…」
モブA、言葉と態度はぶっきらぼうだけどけっこうちゃんとエスコートもしてくれるんだよね。説明も上手いし。素人質問にもちゃんと答えてくれるし。
(これは、だいぶ差を付けられてしまった気がする…)
お兄様、モブに負けてますよ。
これは明日以降の作戦もまた練り直さないといけないかもしれない。
(でも、)
私とキャロル先輩の親密度はめっちゃ上がってるよね。
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