第65話 りんご譲渡
それはそうと、モブAとロイドさんの後ろにはそれぞれ白い馬と黒い馬を連れた人がいた。薄い馬着をまとっていかにもレース後です、といった様子。
「あ! もしかして」
「ナギサとイワシーミス?」
「そうだ」
2頭は馬装を解かれ、それぞれ
おおお、さっきまであの檜舞台に立っていたスターが目の前に!!
「お疲れ! 私のイワシーミス!」
ミラージュ様が愛馬の首に抱き着いた。イワシーミスも本来の主人に会えて嬉しそうに鼻を鳴らしている。
「あの、私もさわってもいいですか?」
私はそわそわとモブAに尋ねた。
もちろん目当ては目の前のまつ毛ばっさばさできれいな目をしたナギサだ。
「ああ、かまわない」
額から首に掛けてぺたぺたと触ってみる。レースが終わった直後なので想像していたよりもずっとずっと熱い。
(最後の追い上げ、すっごく恰好良かったね)
ナギサのレースを見たのは初めてだったけれど、走り方もすっごくカッコ良くて本当にいっぺんにファンになった。
「惜しかったですね」
「ああ、ラストでスカイシップがあそこまで粘るとはな」
モブAも悔しそう。
「最後併せ馬の形になったことで向こうのやる気に火をつけてしまった」
「そうなんですか? たしかに抜き返してきましたよね」
「ああ、並ばずに離れた場所から差せばよかった」
レースが終わってから間もないのにもう分析をしている。…さすがプロ。
「だが、競馬にたらればは厳禁」
そう言ってモブAは大きく深呼吸する。
「今回は向こうが強かった」
スパッと気持ちを切り替えて前を向く。こういう所、モブAは潔い。
ふと、イーズデイル兄弟が揃ってモブAの方を見ていた。
「なんだ?」
「うちは?」
「は?」
「うちのレースの感想も聞きたい」
「は!?」
どうやらロイド先輩もミラージュ様もモブAの評価が聞きたいみたいだ。
「そっちは始終、一人別次元で戦ってただろうが! レース展開も何もねえよ!」
呆れるモブAにそうだったと苦笑いするロイド先輩。確かにイワシーミスとロイド先輩は他の馬とどうこうというより正に自分との闘いみたいなトコあった。
「坊ちゃん、そろそろ…」
「ああ、そうだな」
シロホシさん(たぶん)がモブAに声を掛けた。
ぼちぼち厩舎に戻って手入れをしないといけない時間だそう。汗で冷えてしまう前に丸洗いをしなくてはいけない。
「そうだ、りんご!」
と思ったけれど、ここであげたらまたリンゴジュースを地面に吸わせることになっちゃう。
「バケツが無い…」
「厩舎に戻ればあるけれど、戻るか?」
モブAが提案する。
そうなると戻る先はリングベイル家の厩舎となる。荷物は全部持って移動しているのですぐ向かっても大丈夫だけれど…。
「俺も着替えたいので一度戻ろうと思っている」
ロイド先輩はまだ真っ白な勝負服を着ている。レースが終わったばかりだし、そりゃそうか。
それに頑張ったばかりのお馬さんたちも早くお家に帰りたいよね。
「じゃあまた一度分かれるか」
「そうだな、では夕方の17時の鐘に合わせて、朝別れた場所で待ち合わせよう」
「二人もそれでいいか?」
「えっ、はい!」
「大丈夫です」
もちろん異論はない。
そもそも土地勘も無いし、スケジュールも把握していないのでね。
ところで朝も思ったけれど、こういう所二人は気が合っている感じするなあ。言葉少なめでお互いだらだらと時間をつぶすのが好きじゃない感じ。私はプランを決めたりするのが下手なのでとても助かりますね。
「じゃあキャロル先輩、わたくしのりんごをお分けいたしますね」
「まて、今出すな」
私が背負っていたリュックを下ろすとモブAに留められた。
「え?」
「馬が欲しがる。あっちの端っこで馬に見えないように渡せ」
あ、そうか。
ここで見せたらお馬さんには見せびらかしたみたいになっちゃうもんね。
「はーい、じゃあキャロル先輩向こうで」
「うん! ありがとう!」
私たちはお馬さん達に背を向けて、リュックからりんごを取り出してキャロル先輩に一つ渡す。
「りんごは丸ごとあげるとほとんどジュースになって地面にこぼれちゃうんでバケツとかに入れてあげたらいいですよ!」
「そうなの?」
「はい! 実験済みです」
「分かった! 私も向こうにいったらバケツを借りるね」
本日手に入れたばかりの知恵を先輩風吹かしながらさっそくキャロル先輩に伝授する。
キャロル先輩はうれしそうにりんごを一つ小さなポシェットにしまっている。うん、ギリギリでぱんぱんになってしまった。…普通そうなる。
りんご譲渡完了。
振り返ると2頭のお馬さんは静かにこちらを注視していた。
「バレてる?」
「バレたかも」
二頭とも騒ぎはしていないけれど、ここにりんごがあることはうっすらバレたかもしれない。…香りとかで。
「それはそうと二着同着だったな」
「ああ」
「夕飯の件どうする?」
そういえばモブAとロイド先輩、そんな勝負をしていたね。
いろいろあって完全に忘れていたよ。
「完全にうちのゴタゴタに巻き込んでしまったんだ。全部こちらが持つよ。…なんなら全部兄に付けておく」
「そりゃあいい」
そう言って笑うモブAとロイド先輩。
さっきからずっとナギサを撫でまわしていたミラージュ様に視線が集中すると、彼は『いいよ』と笑っていた。
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