第60話 ~第43回 王国杯~
芝 2400メートル 左回り 良馬場
~第43回 王国杯~
いろいろトラブルはあったけれど、本日のメインイベントはこれだった。
目の前に広がる芝生の直線。
左500メートルほど先からスタートして目の前を通過、左回りに大きくコースを一周して目の前がちょうどゴール。
こんなにハラハラドキドキしながらレースを見ることになるなんて思いもよらなかったよ、今朝の私。
ていうか、会場の熱気が凄い。
さっきまでの不安な気持ちが吹き飛ばされるくらいの活気。
あちこちの席で一位予想、馬券のオッズ、着順などが行われていて絵に描いたようなお祭り騒ぎとなっている。
一年に一度の権威あるレース。
こちらの世界の競馬場が現代日本の競馬場のコースと完璧に同じかどうかは分からないけれど、たぶんこれは日本ダービー的な大会なんだと思う。いや分からんけど。
「じゃあちょうど私たちの目の前で勝負がつくんですね」
「そうだ。ここはけっこう良い席なんだぞ」
私の問いにモブAが答える。
ここは2等級のチケットで入る階段型のスタンド席。ちょうど目の前がゴール地点でしかもコースを見下ろせる階段状席の一番前! これは背の低い私でもとてもコースが見やすいです。
良い席をありがとうモブA!
私たちはモブA、私、キャロル先輩の順に並んで席に座っている。
馬主さんや、王侯貴族、来賓の方はさらに高台の貴賓席があり、一般の観客はスタンドではなくスタンドの左右に広がる広場にて観戦しているのだとか。
さすが貴族はリッチだわ…って思ったけどそういえば私も貴族の一員でしたね。
練習馬場から本馬場の観覧席へと移動した私たちは、現在モブAからレースの説明を受けている。
スタートとゴール、どこを走り抜けたら決着がつくのか、応援するにしてもルールが分かってないと勝敗も分からないものね。
“さあ、今年もやって参りました王国杯! まずは各馬について簡単にご説明していきます。ゼッケン1番…”
天井をつたう伝声管からアナウンスの声が響き渡り、芝生の先のスペースでは音楽隊の生演奏が始まった。
大人しく優雅に観戦だなんてとんでもない。会場のボルテージがみるみるうちに上がって行く。
というか、会場内では魔法はまったく使えないと聞いていたのだけれど、実際来てみてビックリ。会場内では驚きの最新設備ばかりではないですか!?
先ほど昭和な冷蔵庫に運命の出会いを果たしたばかりの私は目を丸くして驚きました。
だってスピーカーやこちらの世界では見たことが無いオーロラビジョンらしきものもある。どうやら魔法が使えなくても、道具を工夫したりすることで魔法に代わる仕組みを生み出しているのだ。
やっぱり努力と工夫!!!
先人の知恵はすごいと感心した。
「魔法を使っていないのに魔法みたい!」
「風魔法で声を届けていないのに、どうして声が聞こえるの!?」
なんで!?
「あー…それは青泡貝、だな」
「青泡貝?? 聞いたことが無いです」
「普通に生活してたらお目にかかることはねえよ」
私はまだ習っていない部分なのかもしれないけれど、1学年上のキャロル先輩も知らないんじゃ、本当に一般出来ではないのだと思う。
「青泡貝の出す泡の中でなら魔法が使える」
「ええ!? そうなんですか?」
ここにきて不思議生物登場!
(いやこの世界には不思議な生き物いっぱいいるけれど)
青泡貝という名前のこの貝が作り出す泡には魔封石と同じように外界からの魔力を完全に断つ効果があるのだとか。
「つまりその青泡貝の泡やいろんな技術を組み合わせて魔法じゃないのに魔法みたいなことを起こしているってこと?」
「そうだ」
なにそれ。それってもう科学じゃん。
最低限の魔法と機器を活用しているとか、実は競馬場って知恵と技術がうずまく凄い場所なのでは???
さっきから流れているこのアナウンス実況も唯一回復魔法が使えるという回復士の杖もこの青泡貝の泡が活用されている。
この競馬場から出たら1ミリだって必要ないのにここではこんなにも重宝されている不思議な貝とか面白すぎるでしょ。
今度シルヴィくんにも教えてあげよう。
天才魔道具師の彼だものきっと喜ぶと思う。
そしてあわよくば凄い発明してください。私買いますので!!
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