第45話 イーズデイル家の馬車
そんなこんなで馬車です。
イーズデイル家の2頭立ての馬車。決して華美ではないけれど重厚な感じ。ブラックウッド?っていうのかな?木製の箱型のやつ。
ロイド先輩は、御者の人にひと声かけてから馬車の扉を開け、キャロル先輩に手を差し出した。
「さあ、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
ぴんぽーん!
トキメキポイント入りました!
ロイド先輩、馬車に乗るのにちゃんとエスコートしてくれるんだ!
わお、こういうところ! スマートにやってくれるのグッとくるね! 見た目脳筋ぽいのにね!(超失礼)さすが紳士。
貴族の中では普通なのかもしれないけれど、ほら私(中身)もキャロル先輩も庶民だから。
こういうさり気ない仕草がくすぐったくてときめいちゃうんだよな。
「…ほら」
ちらりとモブAを見るとちゃんと手を差し伸べてくれた。
おお! 私にもちゃんとあったこのサービス! 口悪いけどモブAも貴族の子息だし、基本の所作は身に着けているという。
一応ダブルデートだし、私のこともちゃんとレディとして扱ってくれるのありがたい。
…二番煎じだなんて思ってないよ! ちゃんと感動したよ。
折りたたみのステップは幅も小さく、上がる時ちょっとふらつく。扉の脇に付いている手摺りというかポール?みたいなやつ。あれを握って乗り込んでいる女性ってそういえば見たことない。
今日は普通のローファーだけど、…なるほど、これはハイヒールの貴婦人はちょっと怖いね、支えてもらうのは至極当然だったか。
ロゼッタでは経験済みだけれど『私』は初体験なんだもの。
全てが新鮮で物珍しいのです。
ずっと学園内でストーカーしてたから日常生活の経験値が低いのだとかそういう本当のこと言わないで。刺さる。
ロイド先輩とキャロル先輩が横に並び、向かい合う形で私と隣にモブAが座ると馬車はゆっくりと走り出した。
かっぽかっぽと馬の足音がリズムよく響く。
舗装された石畳のせいか、思ったより揺れも少なく悪くない。
レンガの凹凸を考えるともっと揺れるかと思ったけど、おそらく衝撃を吸収するサスペンション?とかその辺に魔道具が仕込まれていると見た。
長距離を移動するっぽいし、これなら快適で助かるね、ありがとうイーズデイル家の財力。
背負っていたリュックを膝の上に置いていたのだけれど、モブAが手を伸ばして荷物を後ろのスペースに引き上げてくれた。あれ、本当にサービスがいい。
「なんだこの荷物重いな…、何入ってるんだ?」
「えっとですね、リンゴとニンジンとキャベツを持ってきました。たしかにちょっと重かったですね」
「は?」
「えっ?」
あれ、だめだった?
今日のイベントは競馬場内にある、子供向けに用意されたテーマパーク『ふれあい広場』だし。ウサギやモルモットに餌あげ体験をするはずだ。
ロイド先輩の建国祭デートイベントってそんな感じだったもの。ちゃんとゲームでプレイしたし、スチルもあったから覚えているよ。
「競馬場に?」
「えっと、はい。あげようかと思って…」
「ロゼッタちゃんさすが! 準備いいね!」
「…たしか、会場にはポニーがいたはずだ」
感心するキャロル先輩とそれに相槌を打つロイド先輩。
だよね! よかった間違ってなかった。
ゲームはプレイしたけどたまに記憶の中で公式と二次創作がごっちゃになってしまって正解が分からなくなることが多々あるけれど大丈夫! 今回のは合ってた!
ふわふわに癒されたい。
お馬さんにニンジンあげたい。
モルモットとPUIPUIしたい!
ロイド先輩とキャロル先輩を見守りつつも、私も動物たちとの触れ合いはしてもいいかなって。お野菜はいくらあっても足りないということはないかなと思って準備をした。
「まあいいや…、お前はそれで」
なにやら不満げなモブA。不満っていうかあきれられている??
「お野菜の持ち込み駄目でしたっけ」
「…出走馬にやらなければ大丈夫だ」
のんきな私達を前にしてモブAは若干頭を抱えている…ぽい。
そうだった、遊びに行く私達とは違ってモブAはお家の都合…というか、ガチのレースなのだから当然か。
****
かっぽかっぽとリズム良く馬車に揺られている私達4人。
自動車とかそういう騒音を発生するものが無いので道中はとても静か。馬の足音と車輪が回る音、鳥のさえずりなんかが主なBGM。
郊外の競馬場ってどのくらいで着くのだろう…遠いのかな?
完全にあてずっぽうの勘だけど、馬車で移動する距離って『自転車を装備した男子高校生の移動範囲くらい』って勝手に思っているので1時間くらいで着くかな~なんて。
「そういえばロバート様のお家の馬がレースに出走するんですよね、名前はなんという馬なのですか?」
何か4人で話せる話題は無いかと思って提供した話題。
今日の目的地の話だし、チョイスは悪くなかったと思う。
「…ナギサ」
ぼうっと窓の外を眺めていたモブAがぼんやりと返事をする。
「可愛い名前ですね。なら応援しなくては!」
「…ああ、頼む」
競馬の事はあんまり詳しくないのだけれど、今日のレースは年に一度の大きなレースで本当は出走するのも名誉あることなんだとか。
そう考えるとモブAのお家って実は一部の人間にとってはすごい有名なのかもしれない。
「ロバート君のお家のお馬さんレースに出場するんですか? 知らなかった!」
キャロル先輩が目を丸くする。
そういえば伝えてなかったけどそうだよね、普通驚くよね。
まるで別世界の出来事みたいだもの。
「何時頃走るんですか?」
「最終レースだから15時ごろかな…」
競馬場では1日中レースが開催されていて、たしか8レースくらい開催されている。
たぶんこの感じだと昼前に到着して、ランチして、ふれあい広場で満喫して、レースを見て帰ってくる~感じになるのかな?
ロイド先輩が思い出したようにつぶやいた。
「最終レース…、そうか。実は飛び入り参加でうちの馬も出場する」
「え!? そうなんですか!?」
キャロル先輩が一人声を上げた。
えっと、あれ? ロイド先輩のお家のお馬さんも?
そうだったっけ? んんん?
「二番目の兄なのだが、馬術をとても得意としていて、今回馬と騎手と双方が飛び入りで出場することになっている」
「そうなんですか!? お兄様が!」
「賑やかなことが好きな兄なので、皆で応援に来いと言われた」
「それで私を誘ってくださったんですね」
ロイド先輩とキャロル先輩の会話で思い出した。
なんでデートが競馬場?っていう問題! 完全に忘れてたけど、ロイド先輩のお家は騎士の一族だから!馬!! 馬に縁があるんだった!!
こちらも実家の都合だった!!
実は私が知らないだけで、学園内にも馬の関係者もっといるんじゃないだろうか。
あ~、でもそういえばそんな話だったかも、さすがに細かい事は忘れているのである。
そして納得!!
だからモブAは今回の件、了承したんだね!!
ロイド先輩のイーズデイル家の馬がライバルだから! 敵情視察ってやつ!
ちらりと様子をうかがうとうっすらと笑みを浮かべてはいるが目が全く笑っていない。もちろんその情報は知ってた的な…あ、これガチなやつですね。
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