第41話 熱々のスコーンをめしあがれ!



「じゃあ、わたくしこの差し入れ持って生徒会室へ行ってきますね!」


 忘れてはならないもう一つのミッション。

 焼き立てが食べたいと我儘いう方がいるので(二度目)。

 ひとまず籐かごで編まれた大きめのランチバスケットにそれぞれの味のスコーンを詰める。

 焼き立てなのでほっこりと温かい。もちろん、ナターリア先輩の為に用意したフレッシュ苺と生クリーム&ベリーソースも忘れずにね!

 大きめの白いナプキンをふわりと被せて完成。いざ!


「行ってらっしゃい」

「転ぶなよ」


 大きなバスケットをよいしょと肩に担ぐと、キャロル先輩とお兄様からそろって声が掛けられる。


「はい! 気を付けますわ」


 転んでたまるものですか。

 でもこの二人に対しては説得力が無いので素直に受け取ります。そそっかしいのがバレてるからね。


 ちなみに二人はまだ黙々とスコーンを作っては焼き上げている。

 私は自分の分はもう焼き上がったし、そこそこ冷めたので個人的には終了してもいいかな、って思っていたのだけれどむしろ二人の方が熱が入ってしまってアレンジレシピのバリエーションが半端ない。ここでお店屋さんを開けそうなレベル。

 全部美味しそうで、全部食べてみたいけれどこれは一日では食べられないな…。


「片づけはわたくしも手伝いますので、残しておいてくださいね」

「うん、大丈夫だよ。まだ焼いているし」


 ちなみに、このバスケットを生徒会室に届けた後、三人で試食会をすることになっている(いつのまにか研究会みたいになっていた…)。


 いってきます! と声を掛け、私はそのまま家庭科室を後にしたのだけれど、中からお兄様とキャロル先輩の楽しそうな声が聞こえてきた。


 ふっふっふ、いいね! 

 予定とは全然違った展開だけれど、これを機にもっと仲良くなってください!!!

 

 当初の読み通り二人は共通の趣味を持っているし、相性は悪くないと思うんだ。

 必要なのはきっかけと、サポートだよね! 私が上手に間に入れば今日みたいに何とかなるんじゃないかしら!





 ****



「おまたせいたしました!」


 生徒会室までぽんぽんと駆けあがってきた私は、いきおいよく扉を開ける。


「やあ、いらっしゃい。とてもいい香りがしたのでそろそろ来ると思っていたよ」


 満面の笑みでアルフレート先輩が出迎えてくれた。

 この人、本当に楽しみで待っていたんだな。

 あとユージン先輩、ロイド先輩、ナターリア先輩、みなさんちゃんと待っていてくれた。


「スコーンにいたしました、ちゃんと焼き立てですわ!」

「へえ、いいね」

「味もたくさんあるのでお好きなものを選んでください」


 大きなバスケットにかぶせていたナプキンを取り上げると生徒会室にはバターの良い香りが漂う。

 プレーン、チョコ、抹茶、ナッツ、キャラメル、クランベリー。

 ふふふ、驚けこの多彩なメニューを!


「すごい!」

「これは驚いた」


 予想以上の出来栄えに驚く皆の顔を見て溜飲を下げるわたくし。

 焦げたりしているやつなんてひとつもありませんからね~。

(ほとんど私の力では無いけれど)


「じゃあ少し休憩にしようか」

「そうだな」


 王子の一声で皆の仕事の手が止まる。

 そうそう、お付きのお二人には毒見という大事なお仕事があるもんね。


「わたくし、お茶の用意をしてきますわ」


 ナターリア先輩がすっと席を立つ。

 ありがとうございます! さすが気の利くナターリア先輩。スコーンって美味しいけれど飲み物欲しくなりますよね!


 私はスコーンの入ったバスケットを茶会用の丸テーブルに置くと、生徒会室に備え付けられた棚から人数分のお皿と紙ナプキンを取り出して丸テーブルへと並べていく。

 さすが貴族の紳士淑女が通う学校の生徒会室。普段はあまり使わないけれど、こうちゃんとお茶会を開ける設備が整っているのよね。

 アルフレート先輩はやらないけれど、過去に女性ばっかりの生徒会があったとしたら優雅なお茶会が繰り広げられていたりしたのかなあ?


 可愛らしい容器に入れた生クリームとジャムも並べる。

 ナターリア先輩の席にはフレッシュ苺も添えておかなくちゃね!

 仕事の手を止めた先輩方が次々とやってきてはみるみるうちにお茶会の準備が整っていく。学園内には侍女とかはいないので基本的に全部自分たちでやる。もちろん生徒会長だって王子だって同じだ。


「ずいぶんたくさん作ったんだね」

「はい! わたくしと…わたくしの助っ人の先輩が頑張ってくださいました」


 ていうか、ほとんど助っ人が作ってくれたやつだけど! 目算で8割がた。


「プレーンと、チョコと、抹茶、えっとこれがナッツで、キャラメル…クランベリーです」


 バスケットの中から次々と取り出しては大皿に移していく。

 一応味毎に分けて並べてはいるけれどそれにしたってこれだけ揃えば中々の量だ。

 うん、すごい。まるでスコーンの専門店みたい。


「君が作ったのはどれ?」

「えーっと、…秘密です」


 教えてもいいのだけれど、そのメニューだけ避けられたりしたら悲しいので内緒。毒見役の方が全種類食べたらいいんじゃないかな~って思う。


 お茶の準備が出来て、各人をそれぞれがスコーンを選ぶ。


「それでは、わたくし片付けもまだ残っておりますので戻りますね! ごゆっくり!」

「え、君も一緒に食べていかないの?」

「はい! わたくし、あちらでいただくことになっていますので今回はご遠慮いたします。では!」


 そう言って一礼し、私は生徒会室を後にした。


 なにせ、あっちが気になって仕方ない!

 お兄様大丈夫かな。

 私がいなくても仲良くやってくれていたら嬉しいけどお兄様だし! もしまた固まっていたらロゼッタサポート必要かもだし!!


 足取りも軽く私は再び家庭科室へと向かう。

 とにかく今回のミッションは最高の出来でした!! きっかけを作ってくれたアルフレート先輩ありがとう!


 ところで、あんなにたくさんの味があったのに、みんなプレーンのやつを選んでた気がするんだけど…なぜだ。


 …私が作ったってバレた? それともみんなプレーンが好きなのかな? 

 あ、もしかしてラーメンを食べるときにまずはスープから!みたいなこだわりかも??? 

 まあ、そんな些末なことはどうでもいいか。

 

 お兄様とキャロル先輩仲良くなっているかな~! なってるといいな~!!




「……」

「……」

「……」


 引き留める間もなく立ち去ったロゼッタと、呆然と扉を見つめるメンバーを見て、たまらずユージンは噴き出した。


「ほんと、懐かない」






 ****



 ※ヒント

 →プレーンだけ形がでかくて歪だった。

 世界は優しさで溢れている。


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