第40話 幸せトライアングル



 かくかくしかじか。

 とりあえず現状を整理してキャロル先輩へと説明をした。


「私へのサプライズだったの!?」


 キャロル先輩が目を丸くして驚いている。

 そうです。きっかけはアルフレート先輩だったけれど、もはや目的の8割はキャロル先輩だった。


「えへへ、はい」


 サプライズは光の早さでバレたけれど。

 ていうか、品物はまだそこで粉ですけど。


「そっか~、そうだったか~~!」


 あ、でもキャロル先輩うれしそう。

 サプライズは完全に失敗したけれど喜んでくれてはいるみたい。

 そのジタバタした動きとはにかんだ笑顔めっちゃかわいいですね。


 対してお兄様は挙動が不審。

 目も泳ぎまくってるし、一言も言葉を発しないし大丈夫だろうかあれ。


「それで、今日はジーク君と一緒にやるつもりだったのね」

「は、はい」

「しかもジーク君、お菓子づくりが得意だったんだね…知らなかった」

「う…」


 お兄様の秘密情報(?)、こんなタイミングでまさかの暴露。

 完全にフリーズしてしまった。うん、私もこのタイミングでバレると思わなかった。


「そうだったのです。お兄様は手先も器用ですし、お菓子作りが凄くお上手なので手伝っていただこうと思って、ました」


 ここぞとばかりに兄の株を上げる。

 最近では家庭科男子とか、料理が得意な男士は人気あるから大丈夫だと思う!

 需要あると思うよ!! この世界では知らんけど!!!(本当にごめん)


「やだ、私ったら早とちりして」


 あー、そこは私がー、家庭科室の使用許可申請書にお兄様の名前あえて書かなかったからーだと思う。顧問の先輩もキャロル先輩だと思ったと思うよね~。うーんこれは誰も悪くないタイプのやつです、すみません。


「いやあの…でもですねっ!」


 今ね、絶好のチャンスになってると思うんですよ!!!!


 こんなこんな、自由時間に接点などほぼなかった二人が今! ここに!! 揃って立ってるんだから!! 同じコマに入ってるんだから!!! これはもうデートでは!?!?


 そう思いませんか!!! 皆さん!!!


 お兄様はいまそこでまだフリーズしてるんですけどね!!

 そろそろ解凍してくれてもいいんですよ、蝋人形みたいになっちゃってるよ。


「でも、サプライズだったら私はいない方がいいよね」


 そう言って笑顔できびすを返そうとするキャロル先輩の腕をがっしりと掴んだ。


「いやいやいや、待ってくださいキャロル先輩!」


 だめだめ待ってくれ!むしろいてくれ、この場に!!! 

 ありがとうハプニング!! こんな奇跡めったにない!!


「あのあの! サプライズだったんですけど、わたくし! キャロル先輩と一緒にいたい、というか、その…!!」


 ちらりとお兄様を見る。

 お兄様はやく蘇生して!! 再起動! 再起動プリーズ!


「わたくし、お兄様も、キャロル先輩も二人とも大好きなので! このままお二人と一緒にお菓子作りたいです!!」 


 おきろ! 兄!!! 何か言って!!

 私が引き留めている間に何か言うんだ、なんか良いセリフを!!

 一緒に作ろうとかそういうやつ!


 ここで動かずいつ動く!!!


 う ご け!!


「だって、一緒にいる方が100倍嬉しいから!!」


 私は全身全霊を持って兄の後頭部を殴った!!(気がした)。



「そうだとも!! キャロル嬢!! どうしてもというのなら、仲間に入れてやってもいいぞ! もちろん、君の心にやる気の炎が灯っていたらの話だけれど!」


 そう言ってお兄様はくるりとその場で一回転をして、手の先からポンと小さなバラの花をと取り出し、キャロル先輩に差し出した。


「!?!?!?」


 起動した!!! そして決まった!! ストップ&ゴー!!


 そして予想外! 

 お兄様得意の手品まで発動しちゃった! やっばい全力MAXだこれ! 

 これをやると孤児院の子供たちがとっても喜ぶんですよね~!!!(…学園でやるとめっちゃシラケるんだけれど)


 皆さま!! これぞ本物! 本物のジーク・イオリスです!

 恥ずかしきガチの『だだ滑り』をこの目にできてわたくし感無量です!!



 …でも今じゃなくてよかったと思うの…。

 もう天を仰いじゃう。


「ええっと…」


 キャロル先輩もドン引きしている。

 そうだよね、初心者だとそうなるよね、困るよね。

 ということで! ロゼッタサポート入ります!(気合)


「あ、このお花もらっていいやつなので。あげます、どうぞ」


 私は兄の指の先につままれた小さなマジック用のマメバラをひょいとつまみ上げてキャロル先輩の手に握らせた。


「…ありがとう」

「えっと、あの、つまりこれは兄も『一緒にやろう』という意味なので、いかがでしょうか」


 え、そうなの? という顔でキャロル先輩が私を見るので高速で相槌を打つ。

 お兄様は再起動したはいいものの再び処理落ちしています。初期のプ〇ステかな。


「うん、じゃあ、ご一緒しようかな…」


 少々迷ったもののお返事はYES!!

 だってキャロル先輩も私のお手伝いをしてくれるつもりでエプロン持参ですもんね。嬉しい限り。


「やった!!」


 私はキャロル先輩の手を握りしめてぴょこんとその場で跳ねる。


「嬉しい!!」


 全力でうれしい!! よかったよかった!!

 神様ミラクルハプニングありがとう!!!


「キャロル先輩ありがとうございます! 大好き!!」


 私は小さくガッツポーズをして、今この奇跡を全身で喜んだ。


 もうだめかと思ったよ~!!

 本当はキャロル先輩に飛びつきたい気持ちだったけれど、お兄様を前にしてそれもどうかと思ったのでお兄様の腕に飛び付き、体重を掛けてくるりと回る。

 この衝撃でお兄様動き出さないかなぁ…とかもちょっと思った。


「えへへ、やったぁ…!!」


 私とお兄様の喜ぶ様子を見て(ほぼ私)キャロル先輩は目を丸くしているけれど、この状況はもう喉から手が出るほど欲しかった展開なんだし、しかたないよね! 私もお兄様もみんなハッピー!!(お兄様はまだ動きません)



 それから三人で仲良くスコーンを作りました!!

 もちろん大きなミスもなく上手に美味しく作れましたとも!!

 最初はぎこちなかった二人も『ロゼッタサポート』がちょいちょい入るおかげでだんだんと会話も連携もスムーズになっていきました。


 やったやった!


 私はプレーン生地しか作れなかったけれど、お兄様とキャロル先輩は二人で次々とチョコ、抹茶、ナッツ、キャラメル、クランベリーと色んな味を量産していった。


 プロかな??? 

 なんでこんなに大量?って思ったけれど、お兄様はちょうど明日、奉仕活動部の活動で孤児院へ行くのでこのスコーンを持っていこうと思っていたんだって。


 …通りで手品が混ざったはずだわ。手品のタネも一緒に用意して練習してたんだね。


 お兄様って実はけっこう多才なんです。

 何でもできるけど超一流ではない、みたいな?器用貧乏ともいう。

 あ、お菓子の腕は一流です!! 周りには隠してたけど。料理中のお兄様は作業は適格だし、ミスは無いし、私へのアドバイスも完璧!! きっときっとキャロル先輩の中でも株が上がったはずだと思います!!




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