第39話 サプライズ!


 お兄様といろいろ考えた結果、パンとケーキの間を取ってスコーンを作ることになりました。

 

 バター、お砂糖、卵、小麦粉、図書室で借りてきた本とお兄様のメモ。

 調理台に材料と道具を並べてお兄様を待ちます。


 お兄様の腕があれば美味しいスコーンが出来上がること間違いなし!

 今日の為に家庭科室を貸し切りましたよ!

 ちなみにお兄様は今、ここに並んでいる以外の材料を街まで買い物に行ってくれています。

 ホントは私もついて行こうと思ったんだけれど、迷って逆に時間がかかっちゃいそうなのでやめた。

 お兄様はお菓子作りが趣味だと学校では隠していたらしいのだけれど『キャロル先輩へのお礼として差し上げたいのだ』と説得したら、割と一瞬で折れた。

 あいかわらずお兄様ってばチョロい。


 手作りプレゼントは評判いいみたいだし、しかもそれが超絶美味しかったら言うこと無いよね!

 そして『ここぞ』というタイミングで『このスコーンを作ったのはお兄様だ』と公開してキャロル先輩を驚かせちゃおう!という二重のサプライズを計画している。


 ふふふ、完璧!


 ちなみに今日のこの時間、いつもだったら調理部の部活があるのだけれど、ちょうど顧問の先生が用事があるとのことで部活自体がお休みで、さくっと生徒会役員権限で部屋押さえちゃいました!


 私ってば有能!


 焼き立てが食べたいとかわがまま言う人もいるので(約一名)、昨日の今日でここまで準備できたのは我ながらミラクルだと思う。


 きっかけは微妙だったけれど、お兄様のお菓子が食べられるのも地味にうれしい。

 お兄様のお菓子、学校ではよっぽどのことがないと食べられないと思っていたからね。


 あのねえ、お兄様のお菓子はホント絶品なの!

 お兄様のキャラプロフィールにも載っている公式の情報なので間違いないよ!

 将来パティシエとかになるのもありなのでは?? って感じ。

 あ、でも伯爵家の次男がパティシエとかってことは無いか…ん? 家督を継ぐのは長男だから全く無いこともない?



 とまあ、脳内での雑談はこれくらいにして…。


「…ひとまずメモの通りに材料を測りますか」


 腕まくりをして上皿はかりに向き合う。

 お兄様からは、『材料を用意して分量を量るまでやっておいて』との指示。

 

 ええと、材料は冷たいままの方がいいから無塩バターは切って計ったら冷蔵庫に戻して…私だって分量を量るくらいならできるんだから。あ、いけない。バターは溶けちゃうから測ってから切った方が良いよね…。


 作業台一杯に材料を広げて慌ただしく計量していく。何しろ量が多い。最初は5、6人分用意できればいいかと思っていたのに当初の予定からどんどんと量が増えたので基本の分量×5くらいになっている。

 でもこう…普段はかりとか使わないから、懐かしき学生時代の理科の実験とか思い出しちゃうな…。あ、今も学生だったわ。


 突然ガラリと家庭科室の扉が開いた。


「ロゼッタちゃん大丈夫~?」

「ひえっ!」


 突然掛けられた声に思わず出た声と舞い上がった粉。

 やば! 小麦粉ってこんなに舞い上がるんだ!


「あ! 突然声を掛けちゃってごめんね!」


 声の主を振り返るとそこにはキャロル先輩。

 えっっっっ!?!? どうしてここに?


「ロゼッタちゃんが自主練してるって顧問の先生から聞いたから、大丈夫かな~と思って様子を見に来たの」


「あ、あわわ」


 予定外過ぎて戸惑う。

 わたわたする私の下へキャロル先輩はにこにこ笑顔でやってきた。


 どどど、どうしよう。 


「もしかしてだけど、使用者欄に書いてあった、『2年生1名』って、私の事かな?」

「えっ!!!」


 キャロル先輩がはにかんで笑った。


 あっ! 今そういう状況!?!? 

 顧問の先生! そそそ、そっか、ご親切にどうも!! 間違ってますけど!!?? 


「何を作ろうと思ったの?」


 キャロル先輩は私がずっとにらめっこしていた材料のノートを覗き込む。

 あかん、これはもうごまかせない。


「いや、あのえと、スコーンを作ろうと思っていまして…」

「スコーン! いいね!」

「先輩はスコーンお好きですか?」

「うん、大好き!」


 はじけるお日様のような笑顔―!

 よかった、ひとまずチョイスはおっけええ!!

 心の中で盛大にガッツポーズをする。


「ロゼッター買ってきたぞ~」


 再びガラリと扉が開く。


 あ、お兄様。

 お帰りなさい。

 

「あ」

「えっ!?」


 THE は ち あ わ せ!


「ジーク君?」

「キャロル嬢っ!? なんでっ!?」


 荷物を抱えたお兄様が見事に固まった。

 す~っと静かに扉が閉まる。

 ここの扉、自動で静かに閉まる引き戸タイプなんだね、なんてことを今ぼんやりと認識した。


 サプライズ!っていうか、もうこれハプニングじゃん!!

 静かに扉の向こうに消えていったお兄様を迎えに走る。


 すみません説明します!お二方!!

 少々お待ちくださいませ!!




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