第38話 唐突にひらめいた!
「でもそうなると数が多くなってしまうけれど大丈夫かな…」
えーと、王子とお付き二人とで3人分?
6個くらいあれば足りる?
てか体験入部の身でそんなに何度も分けてもらうことってできる??
「えーと、私も体験入部の身なので貰える量は分かりません。アルフレート先輩が食べたがっていたって言えば部の皆さんは喜んで用意してくれるとは思いますけれど…」
「うーん、そういうのじゃないんだよね」
アルフレート先輩が言葉を濁す。どうやら上手い言葉が見つからないらしい。
まあ、分からないでもない。王子が命令して出させたらそれはもう強制であって、こう、『後輩が一生懸命作ってきました!』って感じではないよね。
アオハルカナ!!
王子サマも可愛いとこあるじゃん! ちょっと好感度上がっちゃった。
でもそうなると部活動にかこつけて作るのは難しくない? 私まだ正式な部員でもないから献立も選べないし。
それに正直キャロル先輩との接点が欲しかっただけで、部活動をずっと続けるつもりはないんですよねー。この間のもあくまで体験入部だし。
でも、そうか。
こんな風に王子様も欲しがるくらいだからやっぱり焼きたてのパンの威力は凄いんだな。手作り…、手作りか…ふむ。
唐突にひらめいた!!
よし、この流れなら違和感なくいけるか…?
かねてより私が一方的に希望している『料理得意な二人を近づけちゃう作戦』
「よろしいですわ、皆さまわたくしが失敗作をお持ちすると思ってらっしゃるかもしれませんが、とびきり美味しい差し入れを用意いたしますので」
「本当かい?」
私の言葉にアルフレート先輩が満面の笑みを浮かべた。
わあ年相応の笑顔。
やっぱり今日は王子様はお休みなんですね。
「ちょっとメニューは変わるかもしれませんがよろしいでしょうか」
「もちろん! なんでも嬉しいよ」
素直!
食の前に人は平等!
この件において私は王子派と和解する!
「承知いたしました。サポートしていただく先輩と二人で少々練習もしてからでもよろしいですか?」
「そうだね、いつでもいいよ、がんばって」
よし、言質取ったり!
ふふふ、作ってやろうじゃないか。
私も作るけれど、メインシェフはお兄様だ!
でも君らの分は私の計画のほんのついでだから。
目標は、ズバリ!
『キャロル先輩にお兄様のお菓子を食べてもらおう!』
これだ!!
…パンじゃなくなるかも。まあ、その辺は良いか、臨機応変で。
「となると私と、ユージンとロイドとナターリア嬢。4人分か…」
「え!」
増えてる! し今、聞き捨てならないお名前が聞こえたぞ!
「ナターリア先輩もですか!?」
本ゲームのもう一人のヒロイン!!
実はずっと仲良くなりたくて隙をうかがっていたお方!
配膳するお茶もいつも一番上手に入れられたものを渡していたりとかしてた!
もっと仲良くなりたいけれど、ずっと事務的会話しかできなくてそわそわしてたのです!
「えっ、わたくしですか?」
突然名前を出されたナターリア先輩が驚いている。
まさに流れ弾に被弾したみたいな状況。
今までずっと黙々と仕事を片付けていたものね。
ナターリア先輩も馬術部と生徒会の仕事との掛け持ちで忙しくしているのでなかなかお話する機会が無い。
「ロゼッタ嬢が差し入れてくれたパン、君も食べるだろう?」
渡りに船!!
あっ、でも私が作った平々凡々な食料を美しき女神のようなナターリア先輩に召し上がってもらったりしてもいいの? 罪にならない!?!?
急に緊張してきた。いいんだろうか本当に。
「もちろん、いただけるのであればいただきますけれど…。殿下、皆を巻き込んであまり後輩を困らせるものではありませんわ」
突然お鉢を回されたナターリア先輩がアルフレート先輩をたしなめる。
はじめての救済の言葉。
やっぱりナターリア先輩は公平で中立だ。素敵!
ここの皆私をディスり過ぎだぞ? ちゃんと反省して!
「そうだぞ、アルフレート」
味方を得たとばかりにユージン先輩が乗っかってきた。
ありがとうユージン先輩、もうちょっと早く聞きたかったその言葉。
でももうその話題はいいんだ。
そんなことよりナターリア先輩だ!
「あの、あのナターリア先輩も召し上がってくださるんですか?」
「え? ええ…」
身を乗り出して食い気味に聞いてしまった。
ナターリア先輩が私の勢いに押されて半歩下がる。
「ナターリア先輩は嫌いなものとか食べられない物などありますか?」
「特に…ありませんわ」
私の質問の必死さに、素直に答えてくれるナターリア先輩。やさしい。
そうか、ヒロインはプロフィール設定が基本白紙なので新情報ゲットですよ!
「好きな食べ物は?」
「え、ええ? ええと…苺かしら」
いちご!! かっわいいな!!
ギャップ萌え!!
今まで話せなかった分、ついついうれしくて情報収集に励んじゃう!!
「それではわたくし、これから用がありますのでお先に失礼いたしますわ!」
善は急げ!
私は机に広げていた作業をスパッと切り上げて、生徒会室を後にした。
まずは何を作るかとかお兄様に相談して決めないとね。
あとキャロル先輩の好き嫌いも聞いてこなくては!!
がぜんやる気が湧いてくる。
今の時間ってキャロル先輩は何処で何をしていたっけ。
脳内で行動パターンを予測する。
王子様のわがままもたまには良いきっかけになるね!
****
(おまけの生徒会室)
「…なあ、ユージン」
「なんだ」
「常日頃から思っていたのだけれど、うちの後輩はナターリア嬢に一番懐いていると思わないか?」
「思う」
ナターリアの食べ物の好みは聞いて行ったのに、我々は何も聞かれなかった。
「おかしいな、こんなに可愛がってあげているのに」
「……」
「ロイドはどう思う?」
「おっしゃる通りかと」
「仕事のバディのロイドはともかく、いや、ロイドよりナターリア嬢に懐いている気がする…私の方がたくさん可愛がっているのに何故だろう」
「かまい過ぎなのがいけないのではなくて?」
「かまい過ぎ?」
「猫もそうでしょう?」
猫ちゃんに構わずにはいられない『猫好き』ほど、より避けられるというか…。
「猫か」
「なるほど」
「無理矢理触ろうとすると逃げられますわよ」
「それは困る」
ちょこちょこ動く仕草と、ときに大胆な行動。
大げさなくらい顔と動作に全部出る。猫、猫、子猫。確かに似ている。
ついつい突きたくなるそんな雰囲気も似てる。
「だが、こちらから話しかけないと接点が無くないか?」
「知らん」
****
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