第35話 心はまるでジェットコースター


「そういえば、あの…この間はお二人のお邪魔をしてしまってすみませんでした」

「え?」


 発酵を終え、いよいよオーブンに投入。

 洗い物を片付けながらパンが焼きあがるのを待つ間に再び談笑。


 ええ、はい。実はこれが一番話したかったかったことなのです。

 今までは周りの目があったので、あまり話題にできなかったのだけれど、今なら洗い場にも二人だけだし、チャンス!


「せっかくロイド先輩とお昼を一緒に取っていらっしゃったのに、わたくしが乱入してしまったので、台無しになってしまいましたでしょう? ずっと申し訳ないと思っていたのです」

「えええ、そんなのいいのに!」

「そういう訳には…、だってわたくし実際にお邪魔でしたし」


 結果的にランチイベントをぶち壊したのは間違いない。

 キャロル先輩がロイド先輩のために作ったパンも食べちゃったし。あの時は恥ずかしくていたたまれなくて、けっこうずっともぐもぐしていた結果、結構食べてた。

 お兄様の事は別として悪いことしちゃったなって思っていたのだ。


「いや、あの…こんなことをいうのもあれなんだけど、実は私もロイド様をお誘いしたのはいいけれど、あの時はすごく緊張しちゃってね、会話も続かなくて困ってたてたところだったから、むしろロゼッタちゃんがいてくれて助かっちゃったの」


「えぇ…」


 そうだったの!?


「だからほんと気にしないで。逆にロゼッタちゃんのお陰ですごく楽しくお話できたから」

「えぇぇ…」


 そう言ってキャロル先輩ははにかんで笑う。


 ふ…複雑!!

 確かに私のトラブルで話題は尽きなかったよね! あんまりよく覚えてないけれど! キャパオーバーしてたからわたし。


 つまり邪魔というよりは仲を取り持っちゃった感じ? 

 うれしいけれどうれしくない! 良かったの?悪かったの? 私は私の行動による結果がもうよく分からないよ…。


「えと、お役に立てたならよかった、ですわ」


 お兄様のことを思うとものすごく複雑な心境なのですけれど、ひとまずトータル的には良かったのかな…これ。


「実はこの間のマーケットの時に、鍋が爆発する事故があって」

「あ、大鍋事件ですね」

「そう! あの時、飛んできた鍋からロイド様がかばってくれたんだけど」

「はい」


 存じています! はっきりばっちり目撃していたし!

 あの時の情景を思い出すと今でもニヨニヨしちゃう。


「その時のお礼も兼ねてね、この間お昼をお誘いしたんだけれど、それまであんまりちゃんと話したことがなかったから、何を話していいか分からなかったんだよね、実は」


 そう言ってキャロル先輩は笑った。



 そうだったのかーーーー!!


 今、はじめて!!

 光明が、見えた!!!!!!(?)


 もしかしてもしかして、ロイド先輩って暫定首位!?


 お兄様、まだ間に合うかもしれませんよ!!!

 今回の二人はそろって奥手なのかもしれないよ!!


「そうだったんですね、実はわたくしもあの時マーケットにいたのですわ!」

「え、そうだったの?」

「はい。小さな鍋がすごい勢いで飛び交っていて驚きました!」

「そうそう、音も凄くてけっこう怖かったよね」

「わかります!」


 わずかな光明が見えたことにウキウキしてテンションが上がる私。


「…だから、助けてもらってドキドキしちゃったんだ」

「っ!!」


 急降下。

 お花畑だった私の脳内が一瞬にして凍る。


 そ、そうだったー!! あのイベントは乙女のときめきと直結してたんだったー!! あのイベントから恋が芽生える可能性だってあるんだし!!! 緩んでいる暇などない。


 あ、でもかわいい。キャロル先輩めっちゃかわいい。

 今自分で話した事柄が猛烈に恥ずかしくなってる様子。

 恋する乙女って感じ。きゅんきゅんする。可愛い。


 わかるよ! わかる! ロイド先輩めっちゃかっこよかったもんね! 私も見てたから知ってる!! スチルで見た時も素敵だったけど動画で見ちゃったから私!!(ユージン先輩もかっこよかったよ)


 基本的には恋する乙女を応援したい私!

 でもだめ私にはお兄様がいるの!!!


 あーもう! あの時キャロル先輩を助けたのがお兄様だったらなー! なんて無理目な希望を天に叫んじゃう。だってあのシチュエーションでときめかない乙女はいないよね。


 …ん?


 「……」


 まてよ…。


「そういえば、わたくしも助けていただいたんでしたわ」


 ときめく乙女のシチュエーションとは言い難いかもしれないけれど、助けてもらったことは事実だし…。


「そうなの!? 誰に?」


 キラキラした目でキャロル先輩が食いついてくる。

 たしかに事実だけを聞けば胸キュン案件だよね。


「モぶ…え、いや、えーと…ロバート先輩、です…」


 うっかりモブAって言うところだった! あっぶな! てか、名前覚えててよかった。


「ロバート? あ! うちのクラスのロバート・リングベイル君?」

「えっと(やば、家名知らないや)あの、お兄様のお友達の…」

「あっ、そうなのね! そうそう! ロバート君」


 そういえば、私も助けてもらったけどお礼とかしてないな。


「彼が助けてくれたの!? えー素敵じゃない!」

「え、いやそんなに素敵なあれでは…」


 猫の子みたいに首根っこひっつかまれて吹っ飛ばされただけだし。めっちゃ首しまって苦しかったし。


「彼も女子にけっこう人気があるのよね!」

「ええ!!?」


 そうなの!? モブAのくせに!?!?





 ****



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る