第34話 キャロル先輩と一緒
あの衝撃な出来事から一週間。
本日土曜日、午後は丸々部活動のお時間です!
こねこね、びたん!
こねこね、びたん!
「そうそう上手」
皆さまこんにちは。
私は今、エプロンと三角巾を装備して家庭科室でパンをこねています。
魔法学園の家庭科室ってどんなの? 魔女の大鍋でもあるの??
とかって思ったりもしたけれど、いわゆる私たちが良く知る日本の普通の学校の家庭科室と同じ感じでした。
でっかい調理台が6つくらいあって、天板を引っぺがすとガス台とシンクがあって…みたいな。
めっちゃ家庭科室じゃん!
洋風な世界観なのにこういう所に日本の風を感じるよね。いや、世界の家庭科室の事は知らんけど。
ところでなぜ私がここにいるかというと、思い出に残る衝撃ランチ1位の座を獲得した先日のランチデートの出来事をきっかけに、お礼と謝罪を兼ねてキャロル先輩に(わりと強引に)コンタクトを取った結果の産物です。
転んでもただでは起きないという私の雑草魂の成果を褒めてほしい。
キャロル先輩の作ったパンがめちゃ旨だったという話題からそのまま調理部の見学&体験をさせていただくことになりました。
まあ、あんなに体を張ったんだからこれぐらいの見返りがあってもいいよね! 先輩との共通会話も増えるし一石二鳥!
本当はもっと穏便なカタチでこうなりたかったけど、結果的に望みの通りになっているのだから贅沢は言うまい。恥の事は記憶から消去したのでみんなも早めに忘れてね!(圧)
「こうやってね、最後はつるんと丸くするの」
「はい」
なるほどなるほど。
手際よくパン生地を丸め、キャロル先輩がお手本を見せてくれた。
有難いことに、超初心者の私には唯一の顔見知りであるキャロル先輩がマンツーマンで指導してくれている。周りを見てもあまり貴族階級の子はいないっぽい。
まあ、そりゃそうか。貴族の子はあまり料理とかしないよね。
…そもそも私に友達がいないという話はひとまず脇に置いておいてください。
今日のメニューは初心者向けの丸パン。
先輩と同じようにパン生地をこねては丸める作業をしています。
…これってけっこう楽しいかも。
私もロゼッタも料理は得意じゃない。
そもそも伯爵家のお嬢様であるロゼッタはもともと料理なんてしたこと無い。
『私』の料理? はて、ひとまず私が食えればいいというやつしか作ったことないかな、一人暮らしだったし。精々野菜炒めとかチャーハンとか? もちろんパン作りなんてしたこと無いです!
「でも、身体機能強化の魔法をこんな風に活用するなんて知りませんでしたわ」
「そう? あ、そうか。一年生はまだ授業で習ってないかもしれないね」
なるほど、これから習うのね。
ゲームをプレイしてたときは部活でもパラメーターがアップするのは分かったけど、実際にどう魔法を生かしてるのかは分からなかったからなあ。
パンをこねるのに意外に力を使うので、魔力で腕力を強化すると疲れない。さすが魔法学校、基本的には全ての行動に魔法を応用していて、どれをとっても普通の部活動ではない。
「キャロル先輩早いですね」
「こういうのはね、慣れだから」
おまんじゅうくらいの小さなパンのたねがキャロル先輩の前にズラリと並ぶ。これからまた二次発酵だ。既に私の倍くらいパンを丸めている。手際がいい、早い。
「二次発酵が始まっちゃうから少し手伝うね」
「あ、はい! ありがとうございます! お願いいたしますわ」
なるほど、パン作りにもスピードが大事なのね。
…ところでお気づきいただけただろうか。
キャロル先輩の敬語が無くなっていることに!
敬語で私に話しかけてくれる先輩! 実はすっごく違和感あったんだよね! ゲーム内でも『ロゼッタ』はヒロインから割とフランクに話しかけてもらっていた記憶があったので。
なので私は頑張った。
気軽に接してください! わたくしの方が年下ですから!
…等々、ゴリゴリ押した結果敬語を外してくれました! やった!
キャロル先輩も実はこちらの方が話しやすかったのだとか!
「できました」
「うん! 上手上手! はじめてなのにこれなら上出来」
やった! 褒められた!
オーブンの天板にスペースを空けてパン生地を並べ二次発酵。
パン作りの事はよく分からないけれど、きっとこの発酵ていうのが大事なんだろうなあ。
「じゃあ発酵を待っている間ちょっと休憩」
「はい」
私たちは手に付いた小麦粉を叩き落とし、テーブルに飛び散った粉などを台ふきんで拭き掃除をする。
(…私の方が机の上に小麦粉たくさん散らかしていた…手際が悪くてすみません…)
キャロル先輩はほぼ初対面の私にもとても親切だ。
先日のランチイベント乱入の時にロイド先輩から紹介された訳なのだけれど、あれ以来学園内で会っても手を振ってくれるし、今もこうして面倒を見てくれる。
新しく後輩ができてうれしいみたい。
ナターリア先輩もそうだけれど女子から見てもヒロインの二人はとても素敵だと思う。
このゲームは特にだけど、乙女ゲームのヒロインって女性から見ても素敵なキャラが多いよね。やっぱりストーリーを読んでも選択肢を選んでもキャラに共感できないと唐突に冷めちゃうし。
「お茶しよう、お茶。ロゼッタちゃん何がいい?」
「わたくしは何でも」
「じゃあ、緑茶とかどうでしょう」
「緑茶があるんですの!? ぜひいただきたいですわ」
「オッケー、じゃあそこの戸棚にカップがあるので用意してもらってもいいかな」
「はい!」
私はいそいそとカップを用意する。
緑茶はあるけど、カップは湯呑では無かった。キャロル先輩も急須ではなくティーポットで緑茶のティーバックを用意している。ええ感じの和洋折衷だ(そうか?)。
キャロル先輩が入れてくれたお茶を私はお盆に載せて皆さんに配っていく。
うーん、緑茶美味しいです。
久々に緑茶を飲んだけれども、ホッとする味だわ~。
私たちは丸椅子に座り、揃ってお茶をすする。
(※マナーの為、本当にすすってはいません)
調理部の人たちって、なんだか皆さん穏やかな感じでいいなあ~。
ところで、キャロル先輩とお近づきになりたい一新で調理部に体験入学してみたのはいいのだけれど、先ほど初めましての挨拶をした時、『あの』ジークの妹ということでキャロル先輩以外の調理部の先輩方が一瞬色めき立ったのはどういうことなんだろう。
お兄様って有名なの? もしかして悪名??
…実際のところどうなんだろう、お兄様の評判って。
私はお兄様のことは大大大好きだけれど、こう…学園内ではどうなのかっていう…。
『ジークの妹』っていうカテゴリで呼ばれるのは日本でもこちらの世界でも使われていたけれど、こちらでのニュアンスがよく分からない。
でもまあ、モブAやモブBみたいな友人に恵まれているみたいだし?そんなに悪い方でもないと思うのだけれども、その辺の情報もちょいちょい仕入れて今後の計画にも微調整を入れていかないとね。
****
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます