第30話 ロイド先輩と


 生徒会業務を黙々とこなしながら、こっそりとロイド先輩を観察する。


「何か分からないことがあったか?」

「いえ、大丈夫です」

「そうか。俺は始めたばかりの時は分からない事ばかりだった。気になることがあったら遠慮せずに聞いてくれ」

「はい、ありがとうございます」


 うーん、優しい。親切。

 本日の感想はそればっかりになってしまうね。

 ロゼッタに比べたら倍ぐらいあるんじゃないかってくらい体格が大きいのに全く威圧感というものが無い。横顔も凛々しくて美形だしいうこと無い。


「あの…、よかったらなのですが…」

「何だ?」

「この今やっている仕事、昨年の分のデータを見せてもらう事ってできますか?」

「ん? …たしか…こちらにしまってあったはず…」


 ロイド先輩は自分の作業を中断して私の希望した資料を出してくれた。


「これが昨年の分だ」

「ありがとうございます! 拝見させていただいてもよろしいですか?」

「ああ、かまわない」



 そう、こういうの大事。

 私はパラパラと資料をめくって残りの業務量を計る。

 ざっくりだけど、納期までの時間と作業量でペース配分が決められるからね。


「なるほど」


 私は資料をパラパラと見てなんとなく納得した。

 年間の予算だこれ。しかも今年の。期限が近いのも納得。夏以降の予算がまだ白紙なのは急がないとマズイ。



 黙々と作業をしつつ、休憩がてらにロイドルートを思い出してみる。

 生徒会役員は必須では無かったけれど、なんだかんだ助けてもらうイベントが多かった気がする。


 基本的にはストーリー後半のとある事件が勃発してからはまるで護衛騎士のような安心感があった。スチルもとっても格好良かった。

 ロイド先輩って頼りになるし優しいし個人的には本当に大好きなんだよね。


 『私』がヒロインと同じようなことになったら一発で恋に落ちる自信はある。



 なーんて。

 言ってみたけれど、私の恋愛とかそういうのは実はあんまり考えてない。


 だってこの体は『私』じゃなくて『ロゼッタ』の体だし。

 私たちは『お兄様の幸せを見守る』という一点で繋がった協力関係。いわば同志。

 そもそもこんな状況がいつまで続くか分からないしね。急に夢から覚めるみたいに終わっちゃうかもしれないし。


 ロゼッタの恋はロゼッタに任せようって思っているんだ、『私』は。


 …でも、正直キャロル先輩が生徒会のポジションにいなかったことにはちょっと思う所もある。大鍋事件のときにキャロル先輩を助けたのはロイド先輩だったけれど、実はまだそんなに仲良くなってないのかな…とか。

 たまたま一番好感度が高かっただけだったり…とか。


 気になるじゃない? やっぱり。お兄様にもまだチャンスはあるんじゃないか! ってね。


 だからごめんね、ロイド先輩。

 ロイド先輩はいい人だけれど、お兄様とどっちを応援するかって言われたら私はお兄様一択です。

 まだ何にも始まってもいないのに振られ男みたいにしちゃってすまんと思う。

 無理やり二人の仲をぶち壊したりなんかはしないけれど、それとなく誘導するくらいは許してね。

 代わりにお仕事は真面目にバリバリやりますので!!



 それから数日、私は真面目に業務に取り組みました。

 ロイド先輩との仲も良好です。

 締め切りだって楽々間に合いました!!


 でもね、聞いて! 生徒会の仕事ってぶっちゃけ余裕だった。

 ターゲットはここに揃っているので見張りに駆けずり回らなくていいし、時間もたっぷり使えるしね。

 さすがに学業が本文の学生の業務が社会人のブラック業務と同じわけないよね。

 正直助かった。


 そしてなにより私にはチート能力がある。

 【装備すれば物のステータスが分かる】という能力が! ついでに値段も。


 まさかこの能力が会計職でこんなに活用できるとは思いませんでしたね!!


 予算の水増しは全部看破できたし、なんなら節約までできた。

 素晴らしい! 世知辛い現代日本で仕入れた知識ばんざい!

 まとめ買い、作り置き、使い切りの精神は偉大だよ。


 『リピートアフターミー MOTTAINAIもったいない


 私の起用に最後まで不安げだったインテリ眼鏡(ユージン)先輩も納得の結果となりました。ふふふ。


 あとね、なんというか実は私はめっちゃ仕事ができる人!? みたいな結果を生んでいるけれどそれはちょっと違う。


 理由がね、分かった。


 あのね、この世界にはスマホが無い(当たり前)

 あとネットも無い(当たり前)

 そしてテレビも無い。


 一日の時間がね、余るの。

 だって私はオタクだから。


 夜することがない!

 できる事と言ったら寝るか読書か勉強のみ! いや、読書は好きだけど今じゃないじゃん。


 オタク諸君には分かっていただけると思うのだけれど、季節のイベントなんかもう全部一度に始まっちゃったりして本気で時間が足りないじゃない? 睡眠時間削ってでもやるじゃん? それでどうにも足らない時間を捻出するために仕事は最短距離・短時間で終わらせる癖、付いてたよね。社畜の心得というか。


 私、いま夜はたっぷり寝てます!! 

 これ最強では?


 なので超元気です。頭もしゃっきりしてるし、若いから回復力もある。それに学校ってそもそも突発的なトラブルとか無いし、電話もかかってこないし、突然差し込まれるナルハヤ案件も無いし、クレームとかも無いしすごく平和。


 仕事終わったら定時じゃなくても帰っていいよ、ってなにそれ天国??? 

 なんてホワイトな職場。


 そりゃあもうバリバリやってさっくり帰りますとも!

 定時上がりダイスキだから!

 それに終わった人から帰っていいっていうからテンションも上がっちゃうよね♪

 

 最近では、黙々と仕事を片づけていく私の働きぶりを見て先輩方も一目おいてくれているとかなんとか。

 ふふふ。ロイド先輩からはもう信頼を勝ち取っている気がしますしね!


 それにしてもなんてベストなポジション!

 いつかロイド先輩とも恋バナとかできちゃうほど仲良くなれたら作戦大成功ってやつだ!


 そんなこんなで、割と平和に業務をこなしつつ、ターゲットの二人に目を光らせる日々。

 そろそろ何か起こっていいんですよ?





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