第31話 幕間 ~ロゼッタが帰った後の生徒会室~



「どう思う? ユージン」

「どう、とは?」


 今日も今日とて定時きっかりに上がって行ったロゼッタを見送り、アルフレートは未だ書類と格闘しているユージンに声を掛けた。こちらはまだキリが悪いのか仕事が終わる気配もない。


「彼女の評価」

「…思ったよりは、良い」

「へえ、それはずいぶん評価が上がったね」


 最初はケンカ腰だったので心配だったがどうやら仲直りしたらしい。というかそもそもユージンは無駄な争いはしないというか、過去のいさかいを掘り起こさないタイプだった。


「ロイドはもう結構気に入ってるみたいだし」

「そうだな」


 初日から仕事の飲み込みが早いと喜んでいた。

 今日は久々に剣術部の方に顔を出してくると晴れやかな顔で出て行った。ここのところ書類仕事に掛かりっきりだったので相当ストレスを貯めていたのだろう。彼にとってロゼッタは救いの手だったに違いない。


「お前や俺たちに色目を使わない所もいい」

「そうだね」



 王族が学園に在籍するとき、生徒会のメンバーの人選には常に気を遣うものだが、アルフレートの代の人選は特に困難を極めた。

 当学園の生徒会役員は基本的に男女のバランスよくというのが規定にあるのだが、それがまた火に油を注いだと言ってもいい。


 生徒会役員は特にイレギュラーがなければ基本的に5名が選出される。

 アルフレートが入学したときは、三年生の生徒会長と副会長、もう一人の副会長となった一年生のアルフレートとその脇を固めるようにユージンとロイド。

 三年生二人と一年生3人の布陣。この年は特に問題もなく、運営もスムーズだった。


 問題になったのは三年生が引退した後。


 2年生のアルフレートが会長となり、空いた枠2名を補充しようとしたところ、応募に女生徒が殺到。揉めに揉めた末、【該当者なし】。

 あちらを立てればこちらが立たず、爵位や派閥、貴族間のパワーバランスにも気を使い、あれこれ水面下で揉めた結果、決まらなかったのが主な理由。


 人数不足で三カ月。

 三年生が卒業し、いよいよ立ち行かなくなったところで才女と名高いナターリア嬢をスカウト。それでなんとか運営は回ったものの依然人手は足りていなかった。


 そこで不思議と存在感のあるロゼッタ嬢の登場。

 事あるごとにアルフレートに立てつくジーク・イオリスの妹で、貴族間のパワーバランスにもあまり関係のない伯爵家の令嬢。一般生徒からの妬みや僻みにもつながりにくい絶妙なポジションだった。


「ジーク君の妹っていうとこも面白い」

「まあな」


 ジーク・イオリスは一本筋の通った変わり者だ。

 事あるごとにアルフレートと張り合うという悪癖はあるものの、それ以外では非常に優秀であり、成績・人柄も悪くない。むしろ何が彼をそこまで掻き立てるのかが謎。

 突然スイッチが入る言動も最初はびっくりするが慣れると面白い。


「私は友人だと思っているんだけどね」

「知っている」


 【地位や権力に臆さず意見を言えるものは大事にすべき】それがアルフレートの師の教えでもある。


「ところで彼女がすっ飛んでいく先、って何なんだろうね」


 変わり者の兄と妹。

 妹の方は、どうにも目的の分からない不思議な行動が多く、日々をアクティブに過ごしている。


 最初は王家のゴシップ狙いかとか警戒したけれど、一度身内に取り込んだところ、それは違ったということがすぐに分かった。

 この部屋から脇目も振らずに飛び出していくとなると彼女の目的はここではない。

 以前ユージンが問い詰めた「何が目的だ」という問いは今も解明されていないのだ。


「もう興味ない」

「そう? 私はちょっと興味あるな」


 過去のやり取りを思い出し、ため息をつくユージンを前にアルフレートは笑った。




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