第32話 こんな出会いは求めてなかった!!
(おかしいな…ここにもいない…)
今日に限ってロイド先輩が捕まらない。
私は本日処理予定の書類を抱えて廊下をずんずんと進む。
今日は土曜日! 授業は午前で終わり!
さっさと生徒会の仕事も終わらせてキャロル先輩の部活動チェックに行きたいのだ。
急ぎの物は全て倒したので本当はデスクに置いておけば問題ないのだけれど、明日は日曜でお休みだし、なるだけ翌週に持ち越さずにすっきりと仕事は片付けてしまいたいのよね。
私は各運動部へ届ける書類の配達と同時にロイド先輩も探しちゃう。
マルチタスク万歳。
一度の外出で全てを片づけてしまいたいオタクの性(オタク関係ない)。文房具を備えたマイポシェットを装備しているので道中に何があってもメモの準備は万端だ。
荷物は多くなるけど、歩き回っているうちにロイド先輩が見つかったなら一石二鳥だしね。
(しかし、学舎の棟同士も遠いな…)
この学園自体敷地が広いのもあるけど、運動部ってそれぞれの部室が遠いのが面倒なのよね。
この学園だときちんと部活動ごとに運動場的な敷地を持っているので一個一個の縄張り(?)が広いのだ。
ケータイがあれば便利なんだけど、この世界にそんな無粋な物は無い。
伝達の主流は手紙、飛ばない手紙と飛ぶ手紙の2種類だ。
何が飛ぶのかって?
それはね、魔法で小鳥の姿に変わった手紙が空を飛ぶのだよ。
可愛いお口でピイピイと鳴いて手紙の到着を知らせて、手元に届いたら手紙に戻るの。さすが魔法世界、発送が可愛くてオシャレ。
正直ハイテクなのか、アナログなのか判断に困る。
まあ魔力を持たない人は普通に従来の手紙を使うので、どちらかというとアナログ寄りなのかもしれない。もちろん私達も普段は普通の手紙を使っている。まあ…なんたってお手紙には風情があるからね。
ちゃんと郵便配達屋さんもいるし、魔力の小鳥の代筆屋さんもいる。
あと最近では電話のような機能を果たす魔道具もあるけれどあれはお高いので学生個人が所有するものではない。
あ、生徒会室にはもしかしたらあるかもしれない。
まあそれはそれとして、本日の議題はロイド先輩の件だ。
私が事務作業のサポートに入ったことで、最近ロイド先輩の行動パターンが変わった。
一緒に仕事を始めてしばらくはずっと生徒会室にいたのに、最近はどこかに出歩くことが多い。
となれば考えられることは一つ!
キャロル先輩との仲が進展しているのではないですか!?
最近ストーキングはしてないけれど、土曜日は別! 午後に何かイベント発生するかもしれないからね! 先輩達の居場所くらい把握しておかなくちゃね!
…進捗状況の確認のためだよ。決して野次馬根性では無いのよ。
各部活動から回収した書類を抱えなおして一息つく。
心当たりのある場所はだいたい見て回ったけど、ロイド先輩はいなかった。
これは行き違いになったかもしれない。
もしくはもう生徒会室に戻っているのかも?
ならば伝言を置いてさくっと上がろう! お昼もまだ食べていないのでさすがにお腹が空いてきたし。
と、きびすを返したところで一階の廊下の先、窓の外にロイド先輩を発見!!
いた! 中庭のベンチ!
何度もうろうろしていたのに全く気が付かなかった!!
私は急いで窓に駆け寄る。
「ロイドせんぱー……あっ!!!」
先輩の隣にもう一人!
肩まで伸ばした金髪ふわふわ髪の女性、キャロル先輩だ!!!
両ターゲット補足!!
そして私は思い至った。
し ま っ た !!
これ、デート(出場亀)だ!!
角度的に先輩が被ってて気づかなかった!!
何で声かけちゃったんだろう私!!
後悔先に立たず。
一度口からでてしまった声は元に戻らないけれど、この窓から乗り出しかけた体は引っ込めよう!!! 姿が見えなければ気のせいだと思うかもしれないし!
0コンマ何秒の間に脳内が行動にブレーキを掛ける。
完全に凡ミス!
まさに今! イベントの真っ最中だというのに何で乱入しちゃったかな!?
そこはかとなく遠巻きにチェックしたかったのに! あっでもそれだと覗きか、いいのかだめなのか???
体の勢いはギリギリ踏ん張って耐えられた。
でも窓の外方向へ勢いの付いた抱えた書類は止まらない。
(ヤバ…!)
魔法の世界でもちゃんとあるんだ慣性の法則。
慌てて手を伸ばすがわずかに届かない。
窓枠に乗っかったわき腹に体重がかかった瞬間、足が空を切った。
「ぎゃわっ!!」
バキバキバキッ!
きれいに刈り込まれた庭木が派手に折れて小枝が飛び散る。
「ロゼッタ嬢!?」
落下。
一階の窓から中庭へ転落。
窓枠の真下にある植え込みに、見事にぶっ刺さった私。
「ぐぅ…」
暗転。
えっうそ、マジで痛いんですけどこれ。
植え込みの中って視界がゼロ。
一回の窓からの転落なので、落下距離は1mくらいで大したこと無いけれど。
バキバキに折れた小枝が顔とかにめっちゃ引っかかっていて痛い痛い痛い。
手が痛い、髪が枝に絡まって痛い、いやもうなんか分からんけどあちこち痛い。
あと動けない。
完全に植木にはまちゃってるこれ!! ダレカたすけて!!!
自分がどう動けばこの窮地から脱出できるのかパニックになった私には全く分からない。
あとね、あとね! この体勢で転がり落ちたっていうことはレディーとしてかなりピンチだと思うの!
正直に言おう! ぱんつがやばい!
ていうか、ぱんつだけだと心許なくてドロワーズも着用してたけども! いやそういうことではなくて!!
「大丈夫か!!」
頭上からロイド先輩の声! 頭上? 本当に上? 分からない!
駆けつけてくれたロイド先輩の手(?)によって人間の正しくあるべき方向に引っ張り上げられた。
バキバキバキって音がする。
結構深くはまってたみたい。
大きなカブが抜けました! はい! わたしです!
「ふぁい…」
私は赤子の様にロイド先輩に引っ張り上げられてそのまま小枝を絡め、木の葉をまといて石畳の上にへたり込みました。
でも大丈夫か、と問われれば大丈夫って答えちゃう。だって日本人だもの。
****
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます