第28話 やっつけ作戦タイム!其の3





「そうでした! あと役員を引き受けたら『王子に協力を求める権利』をくださるって」


「は?」

「なんだそれ」

「陰謀ですか?」


 三者三様に言葉を返してくるけれども、やっぱり皆そう思うよね。


 そうなの、そうなの。この件も相談しなくては!! 

 むしろこっちの方がヤバ案件でした。


 自慢じゃないけれど、私って交渉事が超苦手! 値引きなんかも全くできないし、価格交渉も基本無理! ユーモアなお会計で「はい、お代は100万円!」って言われた瞬間にフリーズしちゃうようなポンコツだから!


「どうお答えしたらいいのか分からなくて、お兄様たちのお知恵を拝借したいです」


 と素直にお願いをしてみる。


「これ絶対にだめなやつだろ」

「断ればいいんじゃないか?」

「罠かもしれませんね」


 三人が顔を突き合わせてあれやこれやと談義した結果『あいつは自分が損をするようなことを持ちかけることは絶対にない』以上。

 乙女ゲームのパッケージのセンターを飾る乙女の理想の王子様を相手にこの評価である。


 あれぇ? アルフレートってこんなに憎まれるようなキャラじゃなかったはずなんだけど…。

 まあどんなに素晴らしい人物にもアンチは存在するって言うし…?


 私? 私は王子の事は普通に好きですよ。可もなく不可もなく。

 ちゃんと一回はクリアしたし。ストーリーも普通に良かったと思う。


 ただ、単に私の心のアンテナがメインキャラより脇役キャラ強く心惹かれるっていうだけで、王子は普通に人気あったと思う。やっぱり王道だし。

 あと私、このゲームに関して嫌いなキャラとかいないので。


「それで、どうお答えしたらいいと思いますか?」


 交渉の場にお兄様も付いてきてくださるとはいえ、この回答の準備だけはしていきたい。


「どうする?」

「いらないんじゃねえの?」

「クリスはどう思う?」


 お兄様とモブAがモブBに意見を求める。

 なるほどモブBがこのチームのブレーンなのね。一見気弱そうだけれどお兄様が頼りにしているのであれば、私もそれに乗っかりますとも。


「そうですね、まずしっかりと言葉の確認をしましょう。ロゼッタさん、もう一度お願いします」


「アルフレート王子は『私に協力を求める権利』とおっしゃいました。『もちろん限度はあるけど』とも」


 うん、たしかそう言ってたはず。間違いない。


「…なるほど。そうですね~、向こうが折角出してきてくれた飴なので、完全に断ってしまうのは勿体ないのでは、とぼくは思います」

「ふうん、じゃあどうする?」


 お兄様とモブAは完全に聞く姿勢になっている。もちろん私も聞きます!


「まずこの手の契約ごとは【絶対に使わない】事が第一条件です。【王子の協力】なんて一般人が使っていい権力ではないので。そしてなるべく長く所持していることが望ましい。ここぞという時にチラつかせつつも【使わない・所持している】という事実が大事です」

「はい」


 なるほど分かりました。絶対に使わないのね。


「それに【王子の協力】だなんて威力のある言葉は、どこでどんな風に波風が立つかも分からないので【話題にも上げない事】を徹底した方が良いかと。貴族間の派閥闘争などに関わりたくないのであれば特に」

「はい、肝に命じますわ」


 幸いうちは下級貴族の分類なので、権力闘争などにはほぼ関わりございません。聞いているだけで怖い。


「ただ、万が一使う時が来たとしたら使ってかまわないかと思いますが、この約束だと【主語】が気になります。そこは交渉してロゼッタさんを【主語】に変更した方がいいかと」

「どういうことですか?」

「『王子が、協力する』のではなく、『ロゼッタさんが、お願いする』という図式に差し替えましょう」


 ???何か違いが??? 私むずかしくて分からない。


「つまり、王子に力加減を任せてしまうといざという時にまったく役に立たない『協力』をしてくれても約束は成立してしまうからです。協力の仕方も曖昧で拘束力も無い」


「なるほど、つまり『協力してほしい』って言ったとして『ドアを開けてくれた』だけでも約束は成立してしまう、ということか」

「その通りです」


 なるほど~! たしかにそうだ。ずるい事考えるな~! 私やっぱり騙されてた!

 答える前にお兄様が付けに来てくれて本当に良かった!

 自分一人だったら絶対に不平等な契約を結ばされてたと思う。


「もちろん、王子が素直に協力してくれる可能性もあるのですが、不安材料は少なくしておくに限ります。…特にロゼッタさんは…その、いろいろあれ…心配なので」

「そうだな」


 ちょっとまって。毒舌持ちのあのモブBが言葉を選んでいる!? 

 そこで呑み込んだ言葉が本当は何だったのか地味に気になるぞ!? 

 さらにモブAには普通に伝わってるっぽいのがまた不本意!


「具体的にはどう変更する?」

「そうですね『【ひとつだけお願いを叶えてもらう権利】内容に納得できなければ断ってくれて構わない』これくらいの約束でいかがでしょうか」


 なるほど、あくまでも主導権はこちらにあるってことか。モブB賢い…。

 私はきちんと伝えられるだろうかしら。


「ふん、まあ…でも基本的には使わないものなんだろう?」

「そうですね」


 どことなく不満気なお兄様がモブBに絡む。ん? どうかした?


「お前『妹』が王子にお願い事をする事自体が気に入らないんだろう」


 あ、そういうこと。


「そもそも、万が一なんて起きては困るからな」

「それもそうですね」


 そうです、そうです。

 これは使わないでいる奥の手なんですから。ちゃんと覚えてますよ。

 っと、このまま話題が収束しそうだったけどちょっと待った。あと一つ!


「あの、例えばどんな時ならその【お願い】を使ってよいのでしょうか」


 これ! 使い方の例も教えておいてほしい! 私突発的な状況になると、すぐにポンコツになるので! 出来の悪い生徒ですみませんモブB先生! よろしくご教授願います! 

 いざという時に使えずに持ち腐れても勿体ないし。その時モブBに相談できるかどうかも分からないしね。


「そうですね、例えばですがアルフレート王子に無理な求婚をされた時とか?」

「却下だ!!!」


 モブBの例え話にお兄様が烈火のごとく反応した。


「僕は反対だ!! …が、ロゼッタがどうしてもというなら…うううういや、でも…」


 お兄様が娘を持つ父親みたいな悩み方し始めてしまった。


「というのは冗談です」

「落ち着けよ」

「お兄様、大丈夫です。そんなことは起こりえませんから」


 普通に王族の婚姻だもの、うちの家では格が釣り合わない。それこそ本作ヒロインの先輩方ならともかくロゼッタが入り込む隙はない。ロゼッタの貴族としての常識がそう言っている。


「そんなことは、あるかもしれないだろ。僕の妹はこんなに可愛いんだぞ」

「うふふ」


 お兄様のスイッチが入ってしまった。

 悪い気はしないのだけれどこうなるとちょっと長い。リアル『お兄様は心配性』ってやつです。


「まあ可能性はゼロではないよな」

「ロバート黙って」

「お前が言い出したんだろ」

「…すみませんでした」


 突っ込むのが面倒くさくなったモブAと自分のうかつな発言に反省しているモブB。

 ぐだぐだになったやっつけ作戦会議はこれ以上の発展もなくこのまま終了した。



 翌日、私はお兄様と二人で生徒会役員を引き受けることを了承しに行ったのだけれど、こちらの要求はすべて通ったので逆に肩すかしを食らった感じ。

 あんまりにもこちらの要求が通るので、調子に乗って「業務は定時(17時)まで。休日出勤はいたしません。する場合は別途手当を」など要求してみたけどすべて通った。


 …っなんてホワイトなの!? 

 社会人の私が感動に震えてしまう。王子の株が10上がった!!!


 そういえば、ゲーム内でロゼッタがなにかの実行委員をやってるっぽい描写があったような気がするけど、実は生徒会役員だったのかな。まあこの辺は誤差の範囲だよね。



 ということでわたくし、ストーカーからジョブチェンジをして次回から生徒会役員です。

 どうぞよろしくお願いいたしますね。




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