第25話 怒濤のときめきが私を襲う。


「本音を言え! 僕の妹が可愛いからだろ!」



 兄の言葉に一同の時が止まった。


「……っ」


 わーー! お兄様ったら!お兄様ったら!

 ここで公式設定の『ブラコン』出してきた!!


 しかも想像以上の兄ばか! やだ普通に恥ずかしい!!!

 シスコンの鏡!!! でも好き!!! 泣いてもいいですか!


 でも、あれ?? ロゼッタって公式でも生徒会に参加していたっけ?していなかったっけ?? 今IQ5なのでまるで思い出せない。


 ていうか、公式!!! こんなおいしい展開があったんなら教えてよー!! 買うから! 私が!! 特集組んでくれても良かったんですよ!! 喜ぶから、ファンが!! ていうか私が!! 実際私今死にそうなんですが!! いやもう死んでるかもだけど!!!

 

 怒濤のときめきが私を襲う。

 待って、まって、無理。

 息ができない。息が出来なくて苦しい。

 私の推しが尊い。

 これは酸素不足なのか? 過呼吸なのか?? ビニール袋どこ!?


 兄の熱弁と私の歓喜に震える様に周りの目がしらけた感じになってきた気がする。

 うるせえ気のせいだ。


「否定はしません」


 にっこりと笑うアルフレート王子はさっきから雰囲気が全く変わらないポーカーフェイス、凄いですね!! 怖いですね! ある意味尊敬!


 ていうか、王子様にロゼッタが可愛いことを肯定されちゃったよ、それはちょっとうれしい。


 さっきまでのピリッとした空気がもやは微塵も無くなっている。

 どこか脱力した雰囲気の護衛に笑顔の王子様。


 でも、なるほど。『またか』ってこういうことか。

 こういうこと以前もあったんだな、きっと。


 さっきは泡を食って飛び出してきた護衛の二人もこの展開は予想通りなのか、あれ以上口出す素振りも無く静観している。呆れているというか微妙に表現しづらい顔になっているのは見なかったことにする。


「とにかくロゼッタは返してもらう!」

「それは困るな。いま交渉の真っ最中なのだけれど」

「だめだね、認めない」


 そう言ってお兄様は私を荷物の様にひょいと肩に抱え上げた。


 え、うそ。

 もう私小さい子供じゃないんですけど???

 いわゆる米俵を担ぐスタイル。 

 えっと、うちのお兄様全然ムキムキじゃないので、私重くないですか。多少小柄ではありますけれど、体重とか人並みにありますけれど。


「3対1という状況がフェアじゃないだろ」


 あれ、これってばどこかで聞いたことあるセリフ。

 ついさっき私がインテリ眼鏡に放った言葉とよく似ている。ロゼッタとお兄様ってやっぱり似てるとこあるのね。さすが兄妹。


「とにかく今日は一度退散するよ。妹に何か話がある時は、僕も同席するからそのつもりで」


 そう言うだけ言うと、お兄様は私を担いだまま扉へと向かった。

 お兄様が後ろを向いたタイミングで、私はちょうどアルフレート王子と目が合う。


(またね)

 彼は声に出さずにそう言うと、軽く私に手を振った。


 わー、全然動揺してなければ堪えてもいない…。

 これは私、交渉してたら負けてたな。

 変に言質を取られる前にお兄様が来てくれて良かった。



「撤収するぞ」


 お兄様はモブAとモブBに声を掛けると、私を担いだまま颯爽と生徒会室から出て行く。


 えええ、お兄様大丈夫? そんなに長距離歩ける??? と心配した途端に、パチンと小さな音が弾けて浮力を感じた。


「あれ」


 音の発生先を見ればそこにはモブAの姿。

 あ、そうかこれ魔法か。

 多少自分の自重が軽くなった気がするのは風の魔法だろうか。

 お兄様の肩にかかる負担が軽くなるのはありがたい。

 さり気なくサポートするモブA、やるな…!


「悪かったな、ナターリア嬢」


 モブAがナターリア先輩を拘束していた風の魔法を解く。

 なるほど、モブAは風の魔法が得意なのか…。


「どういたしまして」


 多少困惑していたみたいだけれど、ナターリア先輩はするんと許してくれた。

 完全に巻き込まれた状況なのに、怒りもしないなんて度量が広い。

 さすがヒロインですね! 優しいし、ずっとファンです!


 てか、なるほど。

 ナターリア先輩が生徒会室の扉の施錠を解いたタイミングでお兄様達に拘束されたのね。

 お兄様の肩越しに現場を見て納得する。

 たしかに魔法で施錠されているはずの生徒会室の扉をぶち破って進入するとか普通に無理だもんね。

 

 なんか本当にすみません。

 こんなことしたらお兄様ナターリア先輩から印象悪くなっちゃわない?? お兄様大丈夫??

 謝りたい気持ちはあるけれど、荷物よろしく気配を殺す私は話しかけるタイミングを完全に失いました。

 だって顔が、私の顔がさっきからずっとにやけたまま元に戻らないんだもん。


「行くぞ」


 モブのAとBに声を掛け、私を荷物の様に抱えてのっしのっしと歩くお兄様と超絶笑顔の『荷物』わたくしロゼッタ。


 だめですポーカーフェイスとかそもそもぶっ壊れました。

 にやにやが止まらない。笑顔で固定されちゃいました。

 お兄様がわたくしのピンチにヒーローのごとく助けに来てくれたって事が凄すぎて、今日の出来事はロゼッタ史の教科書に載るレベルです!


「スミマセン! 失礼しましたっ!」


 樹木の魔法を解除し、生徒会室の扉の向こうに向けて謝罪一礼してから駆けてくるのはモブB。

 あれは土魔法の応用の樹の魔法かな??


 ていうか、お兄様を中心にしてのこの連携ってなかなか凄いのでは?

 完全に2軍メンバーだと思っていたけれど、全然遜色ない感じする。


 実はこの3人組ってけっこう有能だったのかしら。今度AとBのステータスも見てみようかな、なんて笑顔の荷物は思うのでした!(ハッピー!)






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