第24話 ヒーロー登場! 萌えは爆発だ!


「そこまでだ!!!」


 突然、生徒会室に響いた声と乱暴に開かれた扉。


「妹を返してもらおうか!」


 声と同時に勢いよく走り込んできたのは私の推しであり、お兄様であるジーク・イオリスだった!


「お兄様!?」


 お兄様は飛び込んできた勢いのまま私の前に立ち、腕を広げて背に庇う。

 目を丸くするどころじゃない。何がいったいどうしてこうなった?


「ジーク・イオリス! またお前か!」


 ユージン先輩とロイド先輩の二人も同じ様にソファを飛び越えて、突然の乱入者から王子を同じ様に背にかばう。

 座ったままの私とアルフレート王子の前にお兄様と護衛の二人がそれぞれに立ちふさがり、双方のにらみ合いとなった。


 なにこれ、任侠映画みたい。

 突然の攻防に私はただただ目を丸くすることしかできない。

 そこそこ広かったはずの応接セットが瞬く間に人口密度がぎゅうぎゅうのミチミチになった。

 ていうか『また』って何だ?


「アルフレート! この腹黒王子! うちの妹に何かしたら許さないからな!」


 護衛の隙間からアルフレート王子を指差し、お兄様が声を上げる。


「これはこれは、ジーク君じゃありませんか。扉を強行突破してくるなんてスマートじゃありませんね」


 扉を強行突破???

 王子のその言葉に扉の方を見れば、全開に開かれた扉の奥にはモブAとモブBの姿と何故か拘束された感じのナターリア先輩がいた!!!


 ちょっ!! 

 あの二人、ナターリア先輩になにしてくれちゃってんの!?


 何だあれ!? モブAとBの魔法?? 

 生徒会室の扉はガッチリと成長させた樹木のツルで固定されているし、ナターリア先輩はどうやら風の魔法の檻(?)みたいなもので拘束されているみたい。

 うちの校内で魔法を使うことは禁止されていないけれど、こういう使い方はあんまりよくないんじゃないだろうか…。


 …本当に、なに、してるの? 完全に私は置いてけぼりです。



「僕の身内に好き勝手やってくれたようじゃないか」


 お兄様が凄みを利かせた声でアルフレート王子をねめつける。


「平和的に話し合いをしていただけだよ」


 一方、笑顔を崩さない余裕たっぷりの王子。


「どうだか」


 二人の間にバチバチと火花が散る。

 お兄様はアルフレートから目を離さず私へと手を伸ばし、ゆっくりと自分の元へと引き寄せた。


 え、もしかしてお兄様ってアルフレート王子とけっこう仲悪い??


 確かに『ジークはアルフレートの事を一方的にライバル視している』っていう設定はあったけど、それは知ってたけど! 一方的にって言うから完全無視というか、歯牙にもかけない感じかと思っていたけれど、違ったんだ。


 実はこんな風にバチバチだったのか、そうか。


 そうか!!!

 突然の推しの供給に目の前がキラキラしてくる。


 ありがとうございます!!! こういうのも好きです!!!

 新しい解釈! 新しい萌え!!!!


 うめえ! うめえ!!

 突然空からご馳走が降ってきた!!!


 なんてことなのこれはもう!!! 公式が最大手!!


 ごめんなさい、私の脳内で萌えのダムが決壊しました。


 やだうそなにこれ、最高過ぎ!

 お兄様、全然歯が立たなさそうな感じ、最高に可哀想可愛いです!!


 完全にAクラスとBクラスな存在感!! 1軍と2軍!!

 3対3でヒロイン付き!

 あ、ごめんこっちのヒロインポジ私だわ。


 わっふー!!

 この歯が立たない感じ最高にリアル!!


 私は両手で顔を覆って感動に打ち震える。

 よくあるオタク女子の『モウ無理最高デス、凸』状態となっています。


 ていうかガチで目の前で映像で推しを見ると破壊力がやばい。

 2・5次元の舞台オタが目の前でファンサされたらこうなります、みたいな典型的なやつになってます私。いやなるでしょ。もう何にもできない。


「彼女を生徒会にスカウトしたいと思いまして」


 うん、そうなの。そんな話をしていましたね。

 いい話なのかどうなのかもはや何も分からないのだけれど、お兄様だったらどう思います?

 目の前の二人が気になりすぎてIQ5みたいになった私はもうときめくことしかできません、うふふふふ。


「ロゼッタを!? 何を企んでいる?」


 ああ、やっぱりお兄様もそう思いますわよね!

 接点なんてまるでなかったのに、いきなり勧誘とか普通に怪しくて怖いもんね!


 でも妹の心配をしてくれるお兄様最高!! 

 真面目な顔をしてくれるのも貴重!! いつもはちょっとへにゃってしてるもん! このギャップがステキ!! キリッとしれてば男前なんですよ!うちの兄! 全世界―!! 見てあげてー!!


 にこにこしちゃう! にこにこしちゃう!!!!(二回)


「普通に彼女の能力を評価しただけですよ」


 そうそう、そんな話もしていたっけ。

 王子様ったら完全に私のことをかいかぶってらっしゃるんですけど、どうしましょう。ヒロインたちと違って私には特別な能力なんか無いし、今回もストーカーしてただけなんですよね。

 しいて長所をあげるならガッツかな。 


「本音を言え! 僕の妹が可愛いからだろ!」



 兄の言葉に一同の時が止まった。




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