第23話 勧誘



「…ええと、私はどこにでもいる普通のお兄ちゃんが大好きな妹なので、リサーチとかそういうことはよく分かりません」


 っあああああ、腹芸のできない私!!!!!

 話せないことを伏せたらこんな変な回答がでてきちゃったよ!!!

 あってる? これあってる????


「それはもちろん、知っているよ。この間の新入生歓迎会で見たからね」

「うっ…」


 ぎゃー! やっぱりそこに注目しちゃうの!?

 第一話参照。(メタ)


「度胸も行動力もある、おまけに集中力もあるね」


 なに、なになんなの? 褒められてるの???

 アルフレート王子は笑顔なんだけど、なんだか見定められているようで緊張する。


(頭かくして尻隠さず、だがな)


 おい! ちょっとそこのメガネ! 小さい声でつぶやいただろ聞こえたぞ!!


(ユージン、その事実は今じゃない)


 ぼそりとつぶやいたユージンの腕をロイドがこっそりと小突く。

 今までずっと無言を貫いていたロイド先輩まで何か言ってる!!?? なにそれ、今じゃないってどういうこと!?!?


「そんなに難しく考えることじゃない」


 後ろの二人のつぶやきは無視ですか、王子!

 なにこれ多勢に無勢。私の顔面の筋肉がけいれん起しそうです。

 笑顔を固定って難しいね!



「実は、うちの生徒会が人手不足でね、人材を補充したいんだ」


 は? 生徒会?

 なんか思ったより普通の話を聞いた気がする。

 いや懐かしいフレーズ??


「ちょうど会計職が足りないので君をスカウトしたいんだよね」

「はい??」


 なんだって?? 会計??

 嘘だろ。

 生前でもスカウトとか受けたこと無かったのに!?


(エクセルとかネット環境が無いと無理です!!! せめて電卓!! 私そろばんとか使えないですし!)


 私はどうやら今、ヘッドハンティングを受けているようです!

 まじか!!

 むしろ日本社会で受けたかったよ! 就職・転職世知辛いからね!



 いやでも困るし、待って、私超忙しいし、いろいろ他にも調べなくちゃいけないこととかあるし…、ある、し????


 まてよ???


 調べなくちゃいけない相手ってむしろ『ここ(生徒会)』に揃ってないか??

 心の中でゲンドウポーズを決める。


 自分と全く接点のない上級生と、『ここ(生徒会)』で接点が作れるのでは?


 キャロル先輩は生徒会に在籍していないけれど、この間の大鍋事件でキャロル先輩を助けたロイド先輩は副会長だし、ナターリア先輩、ユージン先輩も生徒会メンバーだ。



 だが迷う。

 私は基本的にまじめなんだ。


 社会人として、一度引き受けた仕事はちゃんとしなくてはいけないと思っちゃう。

 正直兄のことがなかったら、生徒会の仕事なんてあまり興味がない。

 むしろ重圧過ぎていやだ。

 あと会計職なんて数字苦手なのであんまりやりたくない。


「………」


 沈黙。

 さっきの脳内長文演説の倍以上の時間を使ったきれいな沈黙です。

 王子のスカウトだぞ、何を黙っている、みたいな無言の圧をメガネから受けてます。うるせえ黙ってろ。



「もちろん、見返りも用意しよう」


「!」


 まって、やめて。情報増やさないで。


 いやでも気になる。

 脳内で情報を絶賛修正中のアルフレートが何を見返りとして出してくるのか興味ある。私は交渉事とかへっぽこだから、負ける気しかしないけど。


 いやでもわたくしの望みはお兄様の恋愛成就に全振りしているので、生半可なものでは釣られなくってよ???


「私に協力を求める権利」


 え、と。なに…それ。


「アルフレート!?」

「殿下っ!」


 慌てるお付きの二人に『待て』のハンドサインと笑顔で黙らせる王子様。

 いやお付きの二人めっちゃ焦ってるじゃん、しかも軽く怒ってない?


「どういう意味ですか?」


 いやもうどういう意味なのほんと怖い。


「言葉の通りさ、君が必要だと思った時に『私が協力してあげる』っていう権利だよ。そうだね…期間はこの学園に在学中、範囲は学園内。回数は一年に1度にしようか」


 あ、よかった。わりと絞られた。

 いや嘘です、よくない。


「何にでも…?」

「うん、何にでも使っていい」


 はああ?

 なにそれ、まじでヤベエやつじゃん! むしろ怖い。

 何をやっても【王子のお墨付き】がもらえるってこと? すごい有利になるんじゃない、いろいろ。


「もちろん限度はあるけどね」


 あ、はい。それはそうですよね。

 人殺しとかは無理だし、国庫を傾けるほどの出費、とか。いやそもそもそんなことを頼んだりしないけど


 いや、でも、うーーーん。


 じゃあたとえば私が『アイス買ってきて』って言ったら買ってきてくれるの? 王子様が?? そんなことある??


 そもそも、この王子様が私にそこまでしてくれる理由って無くない?

 うまい話には裏があるんじゃない?

 私騙されてない?



「少し、考えさせてもらってもいいですか」


 時間が、時間がほしい。

 一度持ち帰って社で検討してからお答えしちゃダメ???



「できれば、今答えがほしいんだけど」



 そう言って食えない王子さまはにっこりと笑った。


 えええ、困る。

 困った。どうしよう。





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