第22話 交渉事は大の苦手
生徒会室に連行されました。
…まじ、何で連行されたのか分かりません。
ストーキング調査中の私の行動が怪しかったのは認めるけれど、でもそれって王子様自ら腹心の従者二人を放って捕まえるほどじゃなくない? 私の認識が甘い??
「まずは生徒会室へようこそ、そう固くならずにくつろいでいいよ」
そう言ってキラキラ王子様は優雅に微笑み、私にソファを進めました。
いやいや無茶をおっしゃいます。
この展開でくつろげるほどわたくし肝が太くはないんですけれど…。
あ、安心してください。手首の拘束はすでに解かれました(大事)。
生徒会室の応接セットに通された私は今、目の前の光景に圧倒されています。
にこやかな笑顔でソファに座る王子様とその後ろに立つ二人の従者(副会長コンビ)の圧が凄い。
とくにインテリ眼鏡の顔がやばい。めっちゃ眉間にしわ寄ってる。手前と奥との温度差で風邪ひきそう。
「まずは、ごめんね。ユージンが君を問いつめるような事をしてしまって」
「あ、ええと、はい」
たしかにカチンと来たことは確かなんだけれども、王子様が謝ることはないのではないかしら。ていうか謝られてもぶっちゃけ困る。
「私が、君にコンタクトを取りたいと言ったせいで、『まずは不審人物じゃないか確かめてから』って生真面目に業務を全うしただけなんだ。許してやってくれないだろうか」
はあ…まあ、そういうことなら。
でもそもそも後ろの二人、私と王子が話すことすらあんまり賛成してなさそうだけれど…特にメガネの方。
あらためて説明すると、メガネの方は火魔法の攻略者、副会長のユージン・メイナード。
もうひとりの脳筋の騎士の方は水魔法の攻略者、同じく副会長のロイド = イーズデイル。
生徒会長、副会長、という役職に就いてはいるものの、それはそのまま王子とお付き&護衛ということは公然の秘密だったりする。
彼らは卒業後も王宮に勤めて第二王子アルフレートのお付き兼護衛になるし、元々幼いころから決まっていた王子のご学友っていうこと。
うん、知ってた。
設定資料集読んだし、ちょうどヒロイン二人のお相手だし。
「事情は理解いたしました」
ちらりと当人を見れば憮然とした顔をしている。
まあ、守るべき主が前線に出てきてしまって自ら交渉始めたらお付きは困るよね…。
「ありがとう。はいユージンも、ほら謝って」
「……失礼な事をしたと反省している。すまなかった」
アルフレートに促されてユージンは、苦虫を噛み潰したような顔で謝罪を口にした。
うわー、めっちゃ言いたくなさそう。
でも王子の事は守るべき大切な主君としてちゃんと尊敬してるから言うこと聞くんだよね、偉いね!
(それはそうと苦虫ってそもそも何の虫なんだろう、噛み潰すって気持ち悪い表現だね)
「分かりました。謝罪を受け入れます」
ってこちらは言うしかない。王子様の仲裁だしね。
ユージン先輩はめっちゃ不満気な顔しているけれど、まあ彼の年齢でこんな風に自制をできるのは十分立派だと思う。
私? 私はもちろんできますよ、なんせ脳内はアラサーですから。
推しの事でなければ素直に水に流します。(推しは別)
彼らとは一回り以上違うし、仕事で辛酸舐めつつ和解したり承諾したりすることなんかはよくあることだからね!
あ、ちなみに私はユージン先輩嫌いではないですよ、萌えポイントもしっかり存じておりますし! デレた時が貴重なんだよね!
なんせ私の推しはジークだったから普通にユージン推しのオタク仲間とも交流があったしね! トゥイッターで人の萌え語りを見るの好きだったので、ちゃあんと萌えポイントも把握してます!
「よかった、ではこれで仲直りとしよう。二人とも異論はないね」
「はい」
「はい」
渋い顔をしたユージンと、苦笑したままのロイドを従えて一人勝ちしたご本人様は後ろに立つ二人にそう声をかける。
おお、すごい。
忠犬わんこを2頭従えてるボスって感じ。なのにめっちゃ優雅!
これが本物のロイヤルスマイル。
ていうか、アルフレートってこんなキャラだったっけ。
ゲームプレイしていた時はこんなボスみたいに部下を使ってたイメージ無いんだけど…。普通に責任感が強いキラキラ王子様だったと思うんだけど…?
ヒロインか!? ヒロイン相手じゃないからか!?
ならば仕方がない。
ヒロインの【格】というものがあるのなら、ロゼッタではあの二人には敵わない。
【可愛い妹】としてなら十分いけると思うんだけどヒロイン力と言われるとね…。
ピンチになればヒーローが現れ、天に祈れば奇跡が起きる。そんなミラクルな力は一般人にはない。ゲーム後半で起こるいろんな事件を解決するメインキャラと違ってロゼッタは不穏なストーリーの序章に医務室に運ばれる系の配役なので…。
というか、ちょっとまって。
そうなるとアルフレートの情報を急ぎで修正しないといけないね。
ヒロインとヒロイン以外とでは若干ニュアンスが違うなら対応とかにも気を付けなくちゃいけないんじゃない? 今すぐメモを取りたい。
うーむ、まいった。実はアルフレートはメインの推しじゃなかったから実はあんまり修練を積んでいないんだ…。
何の修練って?
キャラの心理を理解する掘り下げのことですが。
「このキャラだったら、こういう時、こんな風に考えてこう対応する」っていうキャラの把握。オタク同士で使われる言葉でいえば『解釈』。よく『解釈違い地雷です』とか聞いたことない? あ、ないです?
二次創作をする上でそのキャラの心情・行動心理なんかを自分なりに噛み砕いて再構築して物語を作るよね。その作業のことなんだけど。
…え、普通はしない? え?? そうなの?
私、骨の髄からオタクなのでちょっと分からないですね~。
と、脳内会議、方向性が迷子になっていた。すまない!
でもたぶん現実時間にして10秒ほどだったと思うので許してほしい。
目の前の出来事に集中しよう、集中!
そう、私がここでこうして連れてこられた件について。
「単刀直入に話すとね、君のリサーチ能力を買ってるんだよ」
「…はい?」
そうアルフレートが口火を切った。
何だって? リサーチ能力??
「君は私達の情報をかなり正確に把握している。違う?」
「……」
違いません。
でも私のはゲームで事前に仕入れた内容です。
しかも私が自分で調べたわけじゃないし、リサーチ能力と言われても違うのでは。
まあ、ぶっちゃけ知識量はすごいと思う。
だってオタクだし。
王子の質問に、YESともNOとも答えづらい。
全キャラのルートをクリアしたし、スチルもコンプリートした。攻略本によって、キャラの紹介イラストの絵師さんが違ったりしたから、攻略本もたくさん買ったし、ドラマCDも聞いたしキャラソンも集めた。
だってオタクだからね。
とことんまで知識と情報を集めるよね。
なんなら王子の後ろで立っている脳筋騎士のロイドの乳首の色だって知っている。
スチルでみたからね! 剣の訓練の後に上半身裸の状態で出会ってしまった! うっかりドッキリ! お色気ときめきスチル! きゃっ!ごめんなさい!ってやつ。
ごめんなさい、許してください。
でも逆に言えばゲームの主要メンバー以外の事は何一つ知らない。
頭が特別良いわけではないし、運動ができるわけではない。普通の一般人だ。買い被りにもほどがある。たとえばもし万が一王子の密偵(?)なんかに起用されたとしても無理だ。
どうしよう。
なんて答えればいい? ゲームのことは説明できないし。
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