第21話 私は無実です!


「しらを切るだなんて…」


 そんな言い方なくない? 初対面だし、私、一応伯爵令嬢ですよ?

 普通の令嬢だったらビビって泣くよ?

 警察でもないくせに偉そうだし、はなから犯罪者みたいな扱いはどうかと思う。こちとら入学してまだ一ヶ月とちょこっとの新入生やぞ。


「そもそもわたくし、貴方のことを存じ上げません。…どなたですか」

「…俺はこの学園の副会長をしているユージンだ」


 そういえばそうでしたね! 知ってるけどね!

 こちらだけ名乗らされるのはしゃくだもんね! でも名前を名乗らないのは失礼になりますからね、こちらからもちゃんと聞いて差し上げたんですのよ。感謝なさってくださいね。


 ちらりと扉の辺りで待機しているロイドを盗み見ると微妙な顔をしていた。

 ていうかこの絵面、騎士道精神に反してませんか??

 この小柄で非力な私を立派な体格の先輩が二人がかりで囲むとか普通にいじめでは? 身分もあちらの方が上だし、ちょっと普通じゃないと思いますがいかがか。

 ロイドは清く正しく美しく、じゃない優しくがモットーの脳筋の騎士様で、こういうのは嫌いだったはずなのに。


 ていうかこの状況、そもそももはや完全に詰んだし。逃げられないし、逃げたところですぐに捕まるし、リーチの差もありすぎるでしょ! 私の手足の短さを舐めないでほしい。


 でもね、簡単には屈しないぞ。


「先輩はわたくしにどんな答えを期待しているのでしょうか?」

「何?」


 ユージンの眉が寄る。

 そのケンカ買ってあげる。


「わたくしは、先輩がわたくしに期待する答えを知らないので、どう答えても納得できる答えではないかと」

「何だと?」


「だって、あなたは最初からわたくしが何か不穏な事を目的にしているのだと思っているじゃありませんか。まずはこの状況が既にフェアじゃないです」


「む…」

「二言目には『白状しろ』とばかり。わたくしに何を白状させるつもりですか?」


 要人暗殺か、はたまた国家転覆か?

 平和な学園で、身元もしっかりしている貴族の小娘がたった一人でそんなことを起こすわけがないでしょう。


「わたくしは何もしてないし、悪事を働くつもりもございません。証拠の提示もありませんし、これじゃあただの言いがかりです。先輩は新入生イジメがご趣味なんですか?」


 犯人の自供しかないのは冤罪の可能性もあるんだからね!

 って、高校生相手にちょっと大人げなかったかしら。

 なんせ中身はアラサーなので、子供相手に口喧嘩では負けないよ。


「お前…」


 少しつつけば泣いて白状するとでも思っていたのか、堂々と私が吐き出す嫌味にユージンがひるむ。へへん、爪痕残してやったぜ。



「ごもっとも。ユージン、君の負けだね」


 突然知らない声が空き教室に響いた。


 いいや嘘、よく知っている声。

 シャインクリスタルのゲームをプレイしていてこの声を知らない訳がない。

 タイトルコールで何度も聞いたもの。


「アルフレート!? 何でお前っ」


 声の主がひょっこりとロイドの脇を抜けて空き教室に入ってくる。

 私もびっくりしたけど、ユージンも同じくらい驚いている。


「やあ、はじめまして。私は生徒会長のアルフレートです。こんな空き部屋で立ち話もなんだし、続きは生徒会室で話さない?」


 そう言って彼、アルフレート・オウノ・アーデルハイトはにっこりと笑った。

 当ゲーム『シャインクリスタル』のゲームのパッケージのセンターをつとめる本物の王子様だ。笑顔がキラキラしている。金髪碧眼、物腰柔らか。本物だ。


 なんで!?


 突然の展開に脳が現実を処理できない。

 え、まじでこれ何のイベント?????


 さっきまでもトゲトゲつんつんしていた空気が一瞬で消えた。


「お前が出てきたら意味がないだろうっ」


 ユージン先輩にとっても王子の登場は予想外だったのか、鉄面皮が崩れている。

 やったね、珍しいもの見られた~! 

 とか言っている場合ではない。ひとまずケンカは私の勝ちでいいのかな? いや負けかな? 乱入バトルで王子様が一人勝ち??


「なぜ? 彼女が危険人物には見えないし、もういいだろう?」

「それはっ…」

「しかも私は彼女と話したいと言っただけなのに、こんな風にケンカを吹っかけたりしたらだめじゃないか」


 はて、今なんか変な言葉が聞こえた。

 私と話したい?


 怪訝な顔をする私に王子様はにっこりと笑う。


「ひとまず場所を変えて話そうか」


 そう言ってとても優雅に手を差し伸べられた。

 お手?

 んえ?あれ違うね。これエスコートだね?

 

 え、これ手を乗せないとだめなパターン?? ここはダンスホールじゃないけど??? あれ? 貴族社会的に王子様からのお誘い断れなくない?? 


 有無を言わせぬこの笑顔のプレッシャー。

 メリョスは政治が分からぬ。私も常識が分からぬ。

 おそるおそる彼の手に右手を重ねると、そのままがっしりと手首を捕まれた。


 ぎゃっ、やっぱり罠じゃん!!

 力を込められていないので痛くはないけれど、この拘束は振り解けない。


「………」


 言葉が出ない。

 チラリとアルフレートを見上げると完璧な笑顔で返された。

 見事なロイヤルスマイル!! 完璧すぎて内心がさっぱり読めません!!!

 むしろ恐怖しかない!


 何がどうなってこれなの。意味が分からない。

 私をどうこうするには戦力持ち込みすぎでは? 完全にオーバーキル!!


 にこにこと上機嫌なアルフレート殿下に右手を拘束された私は、まるで後ろに助さん(ユージン)、格さん(ロイド)を従えた水戸の黄門様よろしくそのまま生徒会室へ連行された。



 うそでしょつらい。

 イケメンに囲まれているのにちっとも嬉しくない。

 すれ違う生徒たちの視線が刺さってとても痛いデス。



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