第20話 にらみ合い


「そこの一年生、何をしている」


 誰もいないと思っていた空き教室で、突然声を掛けられた私は飛び上がるほど驚いた。


「ひゃいっ! いえ、ととと特に何も?」


 びっくりした!

 椅子から5㎝くらい尻が浮いた!!

 脳内の妄想口に出してないからセーフだよね!?!?!? 

 ぷちストーキングはしてるけど、犯罪レベルの行為まではしてないし! 盗聴とか、盗撮とか、盗難とかっ!!??? てか、この国の刑罰ってどうなってたっけ???


 それにまだヒロインには指一本触れてませんしっ!!!!

 ちゃんと出会ってもいないしっ!!


 恐る恐る振り返ると、そこには先ほどの声の主、火の攻略者:インテリ眼鏡のユージン・メイナードがいた。


 げえっ!! 何でここに!?


 終令の鐘さっき鳴ったばっかりなのに早すぎないですか??

 ワープした?? あれ、そういう魔法ってあったっけ???


 そして教室の出入り口には水の攻略者:優しい筋肉騎士のロイド = イーズデイルもいる。


 ええ?? なんでなんで?? 今季ヒロインのお相手候補が勢ぞろい??

 なにこれ新しいイベント??


 窓際に立ち、混乱でフリーズする私にユージンが一歩ずつ距離を詰めた。

 まじこれファーストコンタクトなんですけど。


「クラスと名前を名乗れ」


 何これこわい。尋問??


「…1ーB ロゼッタ・イオリスです」


 雰囲気に気圧されて、聞かれたとおりに名を名乗る。

 ちらりと扉を見ればロイドはそのまま動かずに出口をやんわりと塞いでいた。長い脚を有効に活用してらっしゃいますね、うらやましいですね。


 いやまって。アレもしかして逃亡防止???

 私、逃げたくなるようなことをこれからされちゃうの??

 畏れと警戒心が顔に出ていたのか、ロイドと目が合うと彼は少しだけ申し訳なさそうに笑った。

 ……力づくでどうこうするつもりはないのかな…。だといいけど。

 

 扉が開いたままなのが唯一の救い。密室にされたらさすがに私だって怖い。彼らが紳士で良かった。


「この教室で何をしていた」


 いや、こっちはそんな感じではなかったわ。

 ユージンにキツめの口調で問われる。

 何を、ってそりゃストーキングしてましたけど、そんなの正直に話すわけないじゃないですか。


「えっと、え~…、そ、空を見ていました。天気がよいので」


 我ながら説得力のないコメントだ。

 もちろんあちらさんもちっとも納得した顔をしていない。

 ちょっと待ってね、いま考えるから。


「…正直に言え。最近いたる所で不審な行動をしているな」


 いたる所で不審な行動??? なにそれ、してませんけど? ていうか目が怖い。


「不審な行動とは何のことでしょう」


 基本的にはびびりなので声が震えてしまう。

 今まさに絶賛びくつき中で不審者っぽいけれど、これは貴方のせいであって、私のせいではないですよ。


「しらばっくれるな。最近の小さな衝突や事件の現場にいつもお前がいる。何が目的だ」

「む…」


 あ~そうきたか。ええ、いましたよそりゃ。

 小さなイベントだってコツコツ回収してたから。

 落としたハンカチを拾ったり、図書室の本を代わりに取ってあげたり、階段で落ちそうになったり?? 全部大事なイベントだもの。


 でも私は『それ』が起こることを『知っている』だけ、で事件を起こしているわけじゃない。犯人みたいな扱いをされても困る。言いがかりだ。


「なんのことをおっしゃっているのか分かりません。事件とはこの間のマーケットの事でしょうか?」


 事件らしい事件なんて、この間の大釜事件くらいしか思いつかない。

 いやあれも十分大事件だったけれど。


「しらを切るつもりか」


 そう言ってユージンは腕を組んで私の前に立ちふさがり、プレッシャーを掛ける。背が高いので小柄な私は見下ろされる体勢を取らざるを得なくってまじで圧が半端ない。


(うわ、怖…)


 あたりまえだけれど、登場キャラクターはみんな背が高くてスタイルが良くていいですね。ロゼッタは妹キャラなので、ほんのり小さくて小柄だよね。


 そしてさすが当ゲームの人気ナンバー2。クールで冷徹、外見は彫像のように麗しいインテリ眼鏡様。睫毛ばしばしの切れ長の深紅の瞳、キツイ表情がハマりますね! 美人さんですね! 親密度が上がるとこのキリッとしたまなじりが下がっていくのが萌えるっていうファンの気持ちはすごくよく分かるよ!!


 むむむ、でもなんていうかこの「聞く耳もたん」って感じすごくイヤ。





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