第19話 妄想タイムは防御力ゼロ


 ところで、大前提としてお兄様の好きな方はどちらなんだろう。

 そろそろはっきりさせたい。


 前回の大鍋事件でヒロイン達の意中の人は判明したけれど、お兄様のことはまだ分からない。幸運値はすくすく成長しているけれどね。


 金髪ふわふわ天真爛漫ヒロインちゃんか、銀髪縦ロール天才苦労性ヒロインちゃんか。


 お兄様に無理なく自然に聞き出すには、やっぱりそろそろ『私』が『ヒロイン』と接点を作りたいところ。

 お兄様から『何でお前が彼女と一緒に!?』って言わせたらこっちのものだし。


 ただ、接点の作り方は未だ模索中なのです。

 偶然を装って無理やり話しかけても「では、ごきげんよう」で会話が終わってしまうし、何かインパクトのある出会いってないかなって。



 そんなこんなで放課後。

 私は今、二年生のクラスの廊下を観察できる空き教室にいます。

 窓に一番近い席に陣取って向かいの校舎を観察中。


 ここは2-Aのキャロル先輩と特進クラスのナターリア先輩のクラスの出入り口の両方が見張れる絶好のポイントなのですが、入学以来、あらゆる時間をストーキングに費やしていたわたくしがここにきて凡ミス!


 二年生まだ授業中でした。

 まちぼうけです。


 あ~、そうだった。

 たまたまうちの1-Bクラスの最後の授業が自習で、クラスメイトで結託してサクッと解散したから他のクラスはまだ授業中なのでした。


 なので丸々1時間も早い。

 もう少し来るのゆっくりでもよかったね…。


 え? 私のクラスでの交友関係ですか? 

 まだろくにお友達はいませんが何か。


 何度かクラスメイトが声を掛けてくれたことがあったけれど、休み時間のたびに鬼気迫る勢いで教室を飛び出していく私に、とうとう声を掛けてくれる子はいなくなりましたね。


 ごめんねロゼッタ。

 一年生の春の友達作り失敗しちゃった。

 既にいくつかのグループが作られしまっていて、いまさら「入れて」とも言いにくい。


 でも、本当に時間は無駄にできないんだもの。

 寂しく感じることもあるけれど、今は仕方がないと諦めるしかない。

 ヒロイン二人の攻略ルートが決定した後に誰かお友達になってくれるといいな。


 私は窓枠に両肘を掛けて空を見上げる。

 突然のオフタイムに脳がぼんやりする。


 あ~、授業中の学園って、めっちゃ静か。

 鳥のさえずりが聞こえるよ。

 ほんとここ1カ月くらい眠るときでも前のめりって感じだったな~。

 こんなにぼんやりしているのって入学以来はじめてかも…。


 それはそうとお兄様の想い人の件です。

 暇なので、私の願望と妄想に付き合ってもらってもいいですか。



 なんとなくだけれど、相手はキャロル先輩だったらいいなあ、なんて思っている。


 別にナターリア先輩の方が到底見込みがなさそうだから、とかそういう理由ではないのだけれど、キャロル先輩とお兄様は気が合うと思うんだ。


 なぜなら『シャインクリスタル~祈りと魔法の国』はプレイヤーの趣味・個性に100%寄せてくるので、主人公の趣味や特技を基本的に設定してないのが基本なのだけれど、『この世界のキャロル先輩』は部活動が調理部で趣味はパン作り。得意なパンはバターロールだとか。

 お菓子作りが得意なお兄様とは気が合うと思うんだ。


 …そう、お兄様はお菓子を作るのが得意なのです。

 ちなみに部活動は奉仕活動部。

 日曜日に教会や孤児院に行ったりして奉仕活動をしている。


 意外ですか?

 ギャップに萌えませんか?


 でもね、お兄様の焼いたクッキーは本っ当に絶品なんですよ!

 教会のバザーに出してもすぐに売り切れてしまうし、孤児院の子供たちにも大人気なの。


 これ公式設定だから!


 2月の某バレンタインイベントで、手作りチョコレートの存在を匂わし、遠回しにヒロインにチョコくれアピールするお兄様の手元のチョコチップクッキー(小道具)は『実は自作の手作りでした!』なんてゲーム中に気づいたプレイヤーは皆無だったからね! 意外過ぎて!

 自他ともに認めるジーク推しの私だって、製作者さんの対談コメントの一部でその情報ゲットするまで知らなかったんだから。

 ほんと本編で特技を全く生かせずに誰も知らない所でばっかり活躍してるとこ、本当に要領が悪くてお兄様らしい。


 なので、いつかお兄様も含めてキャロル先輩とお茶会とかできたらなぁ~とか思ってしまう。お料理好き仲間で会話が弾んだりしないかな? お兄様の作ったお菓子食べてもらえたら、絶対好感度上がるんじゃないかな! とかね。

 まだまだ願望と妄想レベルなのだけれど。


 でも、もし、万が一、奇跡が起きてお兄様と結ばれることになったら、キャロル先輩は私の義理のお姉さまになるわけじゃない? そうしたら綺麗で優しくてお料理上手なお姉さまって最高じゃない???

 お兄様のお菓子とキャロル先輩のお菓子を一緒に食べれるとか幸せ過ぎるよね!


 …ん? でも待って。

 ナターリア先輩がもし私のお義姉さまになったら??

 あの優雅で美しくて、強がりで潔癖で生真面目で一生懸命で、照れてはにかむ姿がめっちゃ愛らしいナターリアがお義姉さま???? あれ? もしかしなくてもそっちも最高では??? (最高の矛盾)

 

【ロゼッタさん、お茶が入りましたわよ】

【ありがとうございます、ナターリアお義姉さま】


 なーんて優雅なお茶会が始まっちゃう???

 よく分かんないけど、秘密の花園っていうか、女学園みたいっていうか百合…。


 なにそれ神イベ??? え、鼻血出そう。

 最高がいっぱい。


 妄想が極まったところで終業の鐘が鳴った。


 いけない! だめだめ! オタクはすぐ妄想はじめるんだから!

 今は張り込みの最中でしょ!



 頬に軽く気合をいれて、私は向かいの校舎の廊下に再度注目した。

 今日は月曜日なので、二人とも部活動はお休みだ。

 ナターリア先輩の行動はわりとパターン化しているので読みやすいけれど、キャロル先輩の動きは予測しづらいんだよね。


 今日はどちらをストーキングしようか。月曜日だからナターリア先輩かな。

 ストーキング初心者なのでもうほんと地道に足で稼ぐしかない。


 ちなみに、キャロル先輩は調理部で毎週水・土が活動日。

 ナターリア先輩は馬術部で火~日が活動日。



 ていうか私、立派にストーカーさんできてますね…。

 我ながら恐ろしいね。



 …まてよ、せっかく魔法があるんだから、魔法を使って何か本格的なストーキング魔法とかあるのでは?? シルヴィ君の魔道具屋さんにも何か良いアイテムとかあるのでは??? GPSみたいなやつとか??


 …とか思ったけれど、さすがに、うん。それは止めておこう。シルヴィ君のアイテムを犯罪まがいの事に利用とか絶対ダメ。どんな角度で迷惑かかっちゃうか分からないし。そもそも犯罪はダメよ。私のルールでダメ。

 

 犯罪、ダメ、絶対。


「そこの一年生、何をしている」


 誰もいないと思っていた空き教室で、突然声を掛けられた私は飛び上がるほど驚いた。




 *****

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る