第18話 大鍋事件②
騒ぎを完全に無視して、高速でペンを走らせる私の側を大鍋の暴走事故の処理の為、教師や警備員の方々が通り過ぎていく。
校内で起こった事故がどれだけ不思議でギャグっぽくても事故は事故。
幸いここは魔法学園。
入学する前からこういう事故が発生するかもしれない説明は受けているし、それを処理するためのプロも揃っている。
そもそも魔法を上手に扱う術を学ぶための学校なのだから、こういった事故も普通に多いのだ。シルヴィ君が魔道具の試験運用として学園を選んだのも、そういうトコが理由だったりする。
シルヴィ君が展開した魔力の制御ネットの下でいまだボコンボコンと鍋が発生しているし、飛び出した鍋の中に圧縮魔法で仕舞われていた鍋がまるでマトリョーシカの様に思い思いの方向に射出されている。
「この鍋は使わないようにって張り紙してあったはずなんだが…」
「圧縮した鍋の数っていくつだったっけ」
「回収した鍋にも制御ネット掛けておけよ、まだ中に入ってるかもしれない」
事故の処理のメンバーがテキパキと事を片付けていく。
幸いここの生徒は自分で身を護る術を持っているし、この事故で大怪我を負った人はいないみたい。
ていうか、…まあ現時点でお兄様はヒロインの恋の相手としてかすってもいないことが判明した。
いや、分かってたけど。
もしかしたらお兄様が颯爽と現れてヒロインを助けたりする場面があったって不思議ではないはずだよね…?
くぅ…。私がもっと早くこの世界に顕現していれば!!
この事件までにお兄様をプッシュすることができたかもしれないのに。
目の前で繰り広げられた『かばう』シーンが素敵すぎた。
これ、お兄様の割り込む隙ある…??
無くても作り出そうというのが私の目的なのだけれど、なんだかこの場にいない時点ですでに地味にランク外通知を突き付けられているようで焦る。
ヒロインのピンチに駆けつけてこそヒーローなんだけど、お兄様の『幸運』もまだまだ運命の赤い糸を引き摺り寄せるにはパワーが足りないのかな…。
周りのざわつきもだんだん耳に入らなくなってきた。
大鍋の中に複数の小鍋をしまうという空間圧縮魔法の実験でつかっていた鍋を、うっかりマーケットで煮炊きする調理器具として使ってしまったことによるものだとかなんとか…。
そんなことより、キャロルのロイドルートはどんなんだったかしら…。
ぼんやりとした記憶の中からゲームのストーリーを必死に引っ張り出してはメモに書いていく。
もちろんゲーマーなので、ロイドルートもクリアはしたけれど、ヒロインによってちょっと展開が違うし、メインの推しでは無いのでそんなに細かに覚えていないのだ。
このゲームが金太郎飴ストーリーじゃないので当時は嬉しかったけれど、いまとなってはちょっとうらめしい。
(うーん…次のイベントって何だっけ)
悪質な邪魔とかはしたくないけれど、ナターリアのユージンルートと併せて、お兄様の行動パターンとすり合わせをして新たに対策を練らないと…。
「おい! 危ない!!」
ゲンドウポーズで思考に耽り、とある一点を注視していた私は突然首根っこを掴まれ、パラソルの下から引っ張り出された。
「ぐえっ!?」
すると私が今まで肘を付いていたテーブルに物凄いスピードで回転した小鍋が突き刺さった。
え!? 小鍋、まだ飛び回っていたの!?!?
「ぼけっとしてんな! せめて避けるか逃げるかしろ!!」
見上げると、私の首根っこを掴んだモブAがいた。
「あれ?」
険しい顔に真剣な表情。
助け方はちょっとどうかと思うけど、これは助けてくれたのでは。
「ちぃっ!」
ポカンとする私の首根っこを話したモブAは即座に突き刺さった鍋に制御ネットの魔法を掛ける。
うそ、手際いい!
モブAに助けてもらっちゃった!!?
「おいジーク! お前の妹、肝が太すぎるんじゃないか!?」
そう言ってモブAの視線の先を見れば慌ててこちらに駆けてくるお兄様の姿。
「お兄様!! おしい!!」
「バカ! ロゼッタ!! そんなところで何してる!!」
お兄様は私の腕をぐいと引き、肩に手を回してこの場から連れ出そうとする。
「えっと、あの!!」
わたくしまだ、もうちょっとこの広場で観察をしたいんですが!!!
「お前はまだ防御の魔法もろくに習ってないだろう!! そういう時はすぐに逃げなさい!!」
はい、ごもっとも!!
もたもたする私をピシャリと言いくるめるお兄様。
もうちょっとこの場で観察していたかったけど、保護者(兄)が登場してしまったので私はせっせと手荷物を片付けて退散した。
大丈夫です! 元気です! 怪我とかしてません!!
といいますか…そういえば、もしかしなくても私も【恋のお守り】貰ってたっけ。
それでモブAに助けられたってことは…
私の好感度、今一番高いのってもしかしなくてもモブA!!!
そう思うとちょっとだけときめいたりもする。乙女だもの。
ていうか、猫の子じゃないんだからもうちょっと助け方は無かったんですかね!?!?
首が絞まってめっちゃ苦しかったんだが!?!?!?
たくさんの情報が一気に飛び込んできて胸がドキドキする。
お兄様に手を引かれて屋内に入る際、振り返ってみたけれどもうヒロインの姿は分からなくなっていた。
スチル後の会話もできれば見たかったな。
でもでも!!
お兄様!! 実はすぐ側にいたんですのね!!!
残念遅刻ですーーー!
ヒロインはもう他のヒーローに助けられちゃいましたよ!!!
あと少しで現着、間に合ったのに!
悔しい!!
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