第17話 大鍋事件



「大変だ! 大鍋が暴走した!!!」



 キタ!! イベント!!

 何で鍋? 意味わからん??? って思った??

 大丈夫!! ここは魔法がある世界なのです! 

 鍋は暴走するものです!!


 声が上がった方向から、熱々のビーフシチューを煮込んでいた(っぽい)大鍋が物凄いスピードで空を飛んで来る。


「何だ!?」

「鍋が暴走!?」


 熱々のビーフシチューが空から降ってくるなんてそら大事件だ。熱いし、火傷するし、制服に付いたらシミになる。

 広場の端の方から「熱い!」「あっちい!!」と声が上がり、広場の中心へとざわめきが伝搬する。

 ちなみに私は、そのエリアからは離れているので無事です。


「何? どういうこと??」

「熱い!!!」

「なにこの汚れ!!」


 人々の疑問を完全スルーして(鍋だからね)空飛ぶ大鍋は広場の中央あたりにシチューをぶち撒け、地面を削り轟音と共に着陸した。


 ガシャーン! 

 グワングワングワン、ゴゴゴゴ…ブシュー!!!!


 鍋って、こんなとんでもない登場の仕方するんだ…。

 しん…と静まる人並み。


 もうもうと舞い上がった土煙とシチューの蒸気で大鍋が霞む。

 ゴリゴリに地面を削り、一度は静止したかに見えた鍋が再びぶるぶると震え出した。


「おい…」「これヤバいんじゃ…」

 鍋を囲んでいた人並みがじりじりと後退する。

 そうです、ヤバいんです。


「逃げろ!」

「防御魔法を張れ!」

「圧縮魔法が解けるぞ!!」


 ワッと人の波が逃げ惑う。


 ぶれにぶれ、左右の輪郭の境が分からないほどに荒ぶる大鍋。

 ビキリッと耳障りな何かが壊れる音の一拍後、


 もの凄い音を立てて鍋が爆発した。

 大鍋の中からおびただしい数の小鍋が熱々のシチューをまとわりつかせて四方八方に飛び散る。


「「危ない!!」」


 熱々に熱せられた鍋は凶器。

 いったいいくつの鍋が収納されていたのか、ボコンボコンと断続的に鍋を吐き出していく。

 身を伏せる者、防御魔法を張る者、逃げ遅れて転ぶ者三者三様。

 勢いよく射出された小鍋が出店のテントを突き破り、校舎の壁や樹木に物凄い勢いでめり込んでいく。


 ガツン、ボコン、パリーン!

 壁にぶつかる音、植え込みに潜った音、校舎の窓を割った音。

 広場はまるで鍋の嵐のような惨状になっている。


 そんな中、私は身を伏せつつも二人のヒロインを注視した。



 【其の1】

 キャロルを腕の中に庇い、身を挺して小鍋の直撃を避ける、優しい水の筋肉騎士、ロイド = イーズデイル。


 【其の2】

 ナターリアを背に庇い、前方に強固な防御魔法を展開し小鍋の直撃を避ける、火のインテリ眼鏡、ユージン・メイナード。



 見た!!!

 見たぞ!!!

 両者出揃いました!!!


 あ~~~!!

 やっぱりか~~~~!!!



『結界!!』


 遠くでシルヴィ君が魔力で編んだ光の網(魔道具)を展開して暴れる鍋を地面に縫い付けているのが見えた。

 ひゅ~!! シルヴィ君かっこいい~~!!! 魔道具のエキスパートだけある~!!

 彼のルートだったらこの場で彼に助けてもらっちゃうんだよな~!


 ていうのはまた今度!


 ややや、やっぱり~!

 ナターリアはやっぱりユージンルートで、キャロルはロイドルートでしたか!

 私の予想通りの展開になった!


 いや、一回だけ校内でキャロルとロイドがベンチで座っておやつを食べているのを見たことあったのだけど、それ一回きりだったので確証は持てなかったんだよね。


 てか、ロイドか~~!! 

 水の攻略者で優しいとか、お兄様とかぶる~~!!(被らない)


 うーん、手強い。

 いや攻略者達は誰でも手強いんだけれど。


 私、ロイドも結構好きだったんだよね。嫌味が無くてすごくいい人だから。

 脳筋気味だけれど誠実で優しいし、騎士だけど横暴じゃないし、キャロルとロイドとかすっごくお似合いじゃん! 癒し系の仲間?みたいな。


 私はたった今ゲットした新情報を猛烈な勢いでメモしていく。

 ていうかスチルと一緒だ!!スチルと一緒だ!!

 私に絵の才能があったのなら、このあの光景を写し取りたい!! 本音はスマホが欲しい!!


 キャロルもナターリアも好意を持った相手に、助けられていい雰囲気出してます~。

 いや、ベタだけどやっぱり守ってもらうのは嬉しいよね、女子として。


 わかるよ。

「大丈夫か」「はい」「助けてくれてありがとう」「いや、君に怪我が無くてよかった」みたいなやつ。ベタだけど素敵。キュンと来るよね!





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