第16話 恋のお守り

 さて、本日のメインイベントはこれからです。


 小さな細かいイベントはけっこう忘れてしまっている私ですけれど、このイベントはしっかりバッチリ覚えています。


 ズバリ! 『大鍋事件!!』

 事件とかいう物騒な名前が付いているけれど、詳細は【今、一番好感度が高いキャラがヒロインを助けてくれるイベント】です!! 


 少女漫画界隈では王道のアレ。

 今までたぶん、とかおそらく…って言っていた推測がようやくはっきりしますね。


 私は目的のポイントをひっそりとあまり目立たずに、広範囲を観測できる一番良い席をゲットしました。

 丸いテーブルに背もたれのある丸い椅子。いい感じのパラソルが日除けになってちょうどいい。

 ちゃんと昨日のうちに位置関係など下調べは完了しているのです。さっきも一周してきたしね。テントの配置とかがちょこっと予想と違ったりしたけれど想定の範囲内。


 私は先ほど買ったサンドイッチを頬張りながらこっそり人間観察を開始した。

 今日は土曜日だし、明日は日曜でお休みだし、気分は晴れやか。

 続々と生徒がやってきてはマーケットが賑やかになっていく。

 マーケットで食料を買って食べる人、学食で昼食を取ってから来る人、それぞれだ。

 なんせ月に一度のお買い物だからね。



 あ、来た。

 庶民のヒロイン、キャロル・クルック。

 いいかげん庶民とかフルネームとか面倒なのでキャロル先輩と呼ぼう。

 いつボロが出るかも分からないし。普段からちゃんと呼び慣れておかないとね。


 でもさすがヒロイン。人ごみに紛れていてもなんとなく光り輝いているというか目立つ。

 なんていうか一人だけ解像度が高いみたいな感じ。


 ゆっくりとマーケットに並ぶ店を眺めていたキャロル先輩がシルヴィ君の店で足を止める。


(驚いてる、驚いてる)

 

 そうそう、私はもう慣れっこになってしまったけど、シルヴィ君が制服に切り替わるタイミングなので初回は驚くんだよね。

 わかる~。

 ずっと「あの店番をしている人の息子さんかな?それにしては似てないな」みたいな風に思っていたんだから驚いて当然。

 本当はお店の店主はシルヴィ君で、あの店番の人はその従業員なんだけど、その辺の情報はシルヴィ君ルートに入らないと解放されない情報だったりする。


 実はシルヴィ君、発明などの功績によって既に爵位を持っているという凄い人物なのだ。

 ヒロイン達との出会いによって魔道具の試験運用としてしか『魔法学園』に興味が無かったシルヴィ君が、『学校』に興味を持ち、特例で入学したっていう裏設定がある。そもそもシルヴィ君は魔力も知識もすでに王宮に務められる天才児なので、わざわざ学校で学ぶ必要はないんだけれど、ほら体験とか経験? 年齢的にも集団生活とか、お友達とかも大事だし、得意の発明にもインスピレーションが大事だもんね。



 つまりこれは新キャラ登場、というストーリーの固定のイベントなのです!

 キャロル先輩はもちろん、後からナターリア先輩も来るはず。


 なので私は張り切ってこの場所をキープしているのです。

 いっぺんに3人ものメインキャラを観察できるチャンス!


 シルヴィ君は可愛いけれどれっきとした乙女ゲームの公式恋愛攻略者(ショタ枠)だからね!

 もちろん私もシルヴィ君ルート、ちゃんとクリアしました!

 あのキラキラふわふわしたシルヴィ君が魔道具のことや、発明に関した事案には目の色を変えて取り組んじゃったりするとこがまたギャップがまたいいんだよね~。

 エンディング後の成長したスチルも最高なのだ!


 …まあ、シルヴィ君ルートでもお兄様は見事にフラれるんですけど。

 ちゃんとオリジナルのシナリオでね…。福利厚生手厚いですよね~。



 はい、そこまで。

 意識を切り替えていこう。


 ちょうど二人は『あらためてはじめまして』って感じに挨拶を交わしているところ。

 シルヴィ君はキャロル先輩にも私にくれたものと同じ【恋のお守り】を渡した。



 これですよ、これ!

 あの【恋のお守り】が良い仕事をするんです!


 しばらくしてナターリア先輩もやってきて、キャロル先輩と同じ様にシルヴィ君との固定の出会いイベントでひとしきり驚いては【恋のお守り】をもらっていた



 よしよし!

 さあ準備は整った。

 あとはアレが発生するのを待つのみ。


 キャロル先輩もナターリア先輩もそのままマーケットを回っては買い物を楽しんでいる。大丈夫です。二人の居場所はきっちりとマークできています。

 


 いつでも来い。




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