第12話 朝の日課
ということで、お兄様のステータス強化も同時に進めていきたいと思います!
乙女ゲー歴10年越えの腕前に期待してください。
攻略そのイチ! 地道な反復作業。
現在、朝6時。
まだ春先の肌寒い時間帯ですが、わたくしとお兄様は朝のジョギングをはじめました。
学校指定のジャージに身を包み、軽く準備運動をしたのち学園の寮から街外れの丘にある自然公園まで向かいます。
行って帰ってたぶん2キロちょいくらいの距離。
わたくし運動は得意ではないんですけれど、こればっかりはパラメーターの為なので仕方がありません。
「ほら、ロゼッタもう少しだ、がんばれ!」
「はいぃ…」
大好きなお兄様に励まされ、わたくしは坂道を走ります。
ひい、ひい、ひい。
2キロなんて楽勝?? いえいえとんでもない。
走り始めて数分で私の心は折れそうです。
まず魔法学園自体が街外れの高台にあり、街まで下りるのに下り坂。そして反対側の街外れの高台にあるのが目的地の公園。
これ、マップで見ていた時には気にならなかったけど高低差!!
ほとんど坂じゃないですか!!(泣)
無理、もう無理かもしれん。
肺は痛いし、心臓はバクバクだし、上がらない腿のせいで足がもつれて転びそう。
あれ、走るのってこんなに辛かったっけ??
これ毎日続けることってできる?? 日参とかしんど過ぎでは??
考えてみれば『私』も『ロゼッタ』も運動得意なわけなかった。
よくよく考えてみてもアラサー社会人と伯爵令嬢だもの。
『私』は体育の授業が無くなってからそもそも運動してないし、ロゼッタに至ってはぶっちゃけ長距離走るのはじめてでは!?
でも、斜め前を走るお兄様を見れば全然余裕そうです。
…それも当然か。
いくらギャグ担当でもやっぱり男子ですし、足は速いし体力もある。
わたくしに合わせてゆっくり走ってくれているので余力もたっぷりでしょう。
お兄様だけでもこの日課を毎日やってくれないかなぁ…なんて本音がぱかぱかと首を出す。
だめだめ、だって今日お兄様にご一緒してもらうのだって、泣き落としてようやくOKいただいたんです。
最初は難色を示していたお兄様だけれど『初めての学校なので運動も頑張りたい、でも一人じゃ怖い』と言ったところ、しぶしぶだけれども付き合ってくれた。
泣き落した内容の信ぴょう性にも関わるし、これは根性見せないとだめなんですよ。
(ちなみにお兄様に泣き落としはとてもよく効きます)
「この坂を上れば折り返しだからがんばれ」
励ますお兄様に、わたくしはもう返事もできません。
さっきから道案内も兼ねて街の説明もしてくれているんだれど、今わりとついて行くので精いっぱいで覚えられませんすみません。
しょっぱなから試練!
毎日2キロくらいならいけるんじゃないか?と思って計画したわたくしが浅はかでした。
普通につらいです。
緩やかな坂の向こうにこんもりとした木々の茂みが見えてきました。折り返し地点の公園です。
(あと少し…!)
つらいけどこれ、毎日の、日課にする、つもり、だったん、です。
私の強化特訓メモがそう言っている。
坂を上り切ってようやく公園の中に入りました。
ようやく平地です。
緑の芝生の真ん中に立つ精霊樹まで行くのが予定のコースとなっております。
到達点が見えてきて、少しだけ元気になりました。
高台にある公園なので見晴らしも良くて空がとっても広く感じます。
「ロゼッタ、ほら、あれだろ『精霊樹』」
お兄様が進行方向を指差した。
公園の広場の奥に朝日を浴びてキラキラと輝く白銀の樹が立っている。
(…あれが、精霊樹…)
朝露に濡れ、七色に輝くそれはとても美しい光景だった。
(…イラストと同じ。ううん、実物はそれ以上。めちゃくちゃきれい)
精霊樹。
このアーデルハイド国を守ってくれる魔力を有した不思議な樹。
精霊が宿る樹とも言われている。
挿し木しても増えず、自然の摂理とは一線を違える存在と言われている。
王宮の奥の庭に王様のような特大の樹があって、それを中心として国中に散らばって存在しているのだとか。
自然豊かな場所にひょっこりも生えたりするらしい。
人知の予測を超えた樹だ。
精霊の恩恵も受けやすいので、争いの種にならないようこうして公園などになっている事が多い。
「この樹を朝に見るのは初めてだけれど、綺麗だな」
「…そう、ですね…」
精霊樹の下までなんとか辿り着き、汗をぬぐいながら呼吸を整える。
ここが目的地であり、折り返し地点となる。
樹の下まで舗装された道が続いていてよかった。
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