第3話 オタクは熱く語る



 コチコチと時計が刻むリズムのみが部屋に響く。


「はあ…」


 考えても分からないのはしかたない。

 学生の朝は忙しいのだ。ひとまず落ち着いて分かる分だけでも現状を整理しよう。


 昨日のあの時、あの瞬間まで自分は100%ロゼッタ・イオリスだった。

 いや、いまでもちゃんと記憶はあるので100%ロゼッタ・イオリス+『私』、であり…というか若干『私』の自意識の方が強いと思う。


 『私』はオタクの社会人でゲームが好きで、学生時代は同人活動もしていた。

 …社会人になってからは仕事が忙しくてしばらく二次創作からは離れていたのだけれど。


 ちなみに何の二次創作をしていたかっていうと

『シャインクリスタル~祈りと魔法の国』まさにこれ。


 私は『ジーク・イオリス』つまり私の『お兄様』を激推ししていた。

 カップリングはジークが幸せになるならヒロインどちらでもOK! ジーク専用の幸せになるストーリーを何パターンも脳内からひねり出し、全てのストーリーに当てはめたりなどした。


 …うん。

 マイナーキャラを応援したい病なんだ、私は。


 分かってくれるだろうか。

 同志諸君いらっしゃるだろう?

 不憫キャラを幸せにしてあげたいって使命に燃えたりするだろう?


 公式のストーリーで不運なキャラをせめて二次創作の中では幸せに…! って思いながら全力で妄想の火種を温めたりするでしょう?? 見えないものを見ようとするでしょう??


 うむ、それが私です。

 ジークのことは大好きだったし一押しだったけれど、恋愛対象として見ていたわけではなかったんだよね。だからこのゲームの登場人物の中で誰と一番解釈が合うか、って考えたら確かにブラコンでお兄様大好きの『ロゼッタ』かもしれない。


 むしろそれ一択しかないわ。

 なり変わるにしてもヒロインとかじゃなくてよかった。あんな国を救うみたいな聖なる乙女とかの人生なんて柄じゃないもの。


 私はジークを幸せにできればそれでいい。

 システムが私に何にも介入してこないなら勝手にやらせてもらっちゃうけどいいかな?

 

 ジークの推し活。リアルでやっちゃうよ?

 途中から『間違いでした~』なんてことになっても知らないよ?

 いいよね? はい、いいですよー!


 ていうか、そこんところちょっとだけくわしく説明させてもらってもいいかな!!!!?


 ごめんね!

 ほんとちょっとだけ聞いて、お願い! 

 なるべく簡潔に話すから!!!


 『ジーク・イオリス』はね、公式さんの斜め上の愛情をこれでもかというほど受けたサブキャラクターなの!! しかもそんじょそこらの愛じゃない!


 ヒロイン2人×攻略対象者6人=12パターンを超えるルートでそれぞれに違ったパターンのフラれるシナリオが別に用意されているんだけどそれって逆に凄くない????


 振られるパターン多すぎじゃね!?!? 

 シナリオ全部書き下ろしとかマジ?

 どうせ振られるんだしそこはワンパターンでよかったよね。


 むしろ攻略キャラの誰よりもシナリオ多くなってない? 愛? 愛なの???

 可哀そう=かわいいなの? 好きな子はいじめたいの?

 愛が重過ぎでは???


「「「  お兄様お可哀そう!!! 」」」



 一部のユーザーは思ったよ。


 でも愛があるのは分かる。

 だって設定が、展開が、悲嘆がきちんとしてるんだもの。

 お兄様良いやつなの! 徹底してるの!  でも報われないの! 空回りしてるの!


「どうしてそこまでの労力をパラメーター【不憫】に全振りしたのか!!!」


 ゲームはそれなりに人気があって追加ディスクやファンディスク、リメイク版なんかもガンガン出たけどジークの恋が成就するようなフラグは一個も立たなかった。


 いっつも不憫!もうそこはシリーズ通して徹底してた。


 そこまで不憫な「受けて立つが?」って感じ。

 グッズも出たけど「どうしてそれチョイスした!?」ってキャラデザも多くってランダム商品では毎度外れ扱いされて私はギリィ…!!ってしてました。

 いっつも【譲】ジーク ってされてた。


「ジーク外れじゃないもん…(血涙)」


 同志諸君分かってくれるか??!!

 そういうことなのだ。

 天の声(公式)がどれだけ兄を愛そう不憫が、私はジークを(脳内で)幸せにするぞ。


 みたいな気持ちになるわけなのです。

 でもホントプレイをすればするほどジークを嫌う人減っていった感あるよ…。


 共感してくれた同志諸君握手しようぜ!



 …大変熱く語ってしまった。

 すまない。


『私』に引きずられると口調がオタクになってしまうので、お貴族様であるロゼッタのイメージを傷つけないようにしないとね…。


 気を付けようね、ほんとにね。



 こほん、ええと…。

 つまりそういうわけで、私はジークを後押ししてあげたいって心から思うのです。

 ええ、簡潔にいうと『推し活』ですね。


 実際にリアルにゲーム世界で『推し』を『推せる』とかなんの奇跡なんだろうね??

 正直この状況はまったく理解が出来ていないけれども推しを推すことは日常生活なので違和感なく行えますね。オタクって強いね。

 こんなとんでもない状況でも推しのお陰で一瞬で順応できちゃうもんね。


 ありがとうございます。推し、尊いです。

 推しと同じ世界の空気を吸っていると思うだけで力が湧いてくるというか。



 ほんとオタクは推しと萌えに生かされているね。



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