第9話 モブA ①

 個人情報&プライバシー。

 その至極真っ当な答えになんだか素直に感動した。


「さすがお兄様のご友人ですね!」

「は?」

「友人思いのその姿勢は素晴らしいと思います!」

「……?」


 モブAさんは何言ってんだこいつ、っていう顔をしている。

 そうそうお名前が分からないので便宜上モブAと呼ばせていただきますね。


「それはそれとして、では兄の教室での様子を教えていただけますか?」

「…おい、俺の話を聞いてたか?」

「え? ええ、もちろん。でも悩みとこちらの質問は別枠でしょう?」


 モブAさんは何言ってんだこいつ、っていう顔をしている。

 二度目!


 なぜだ。え? 別枠だよね???


「…そういや、ジークのやつ妹が暴走して困るって言ってたな…」

「わたくしのことですか!?」

「他にも妹がいるのか?」

「妹はわたくし一人ですが、…と言いますか、わたくしの事より兄の事を教えてくださいな」


 もしかしなくても昨日の件?? あれはついカッとなって。

 でもお兄様も困ってらしたけど笑って許してくれたのでノーカンですわ! ノーカン!

 てか、この人もあの場にいたのかな…まあ、いたんだろうな。


「わたくし、お兄様がクラスでいじめられていないかが心配なのですわ! お兄様はお優しいけれどお人好しですし、お節介ですし、人が良いから全部許しちゃうし!」

「…ああ」


 モブAさんは思い当たる節があるのか曖昧に返事をした。

 ほらやっぱり!


「別にいじめられたりはしてない」

「本当ですか?」

「本当だ」

「でも、よく空回ったりしていますわよね」

「……」


 その沈黙は肯定と受け取りますわ。


「だとしても、妹のあんたに俺が話すようなことじゃないだろう」


 そうきたか。

 まあ、それもそうか。私はジークの保護者みたいな気持ちになっているけれど、立場的には妹だし。


「でもまあ俺もいるし、他にもあいつを買ってる奴もいるし、あんたがそこまで心配することじゃない。ジークはちゃんとやっている」


 この人いい人だ。

 お兄様のこと、ちゃんと分かってくださってる。

 兄の想い人を知りたかっただけなのに、なんだかちょっと嬉しくなってきた。


「あの、ではわたくし、お兄様のお役に立ちたいんですけれど、あなたも協力していただけませんか?」

「はあ? 協力? 何で俺が」

「だってわたくし達お仲間ではありませんか!」

「仲間? 何の? 俺とお前は初対面だろ」


 初対面だけれど、だって私は知っているんだもの!

 このモブAさんは、お兄様がイベントで魔法薬学の調合ミスで吹っ飛ばされたり、魔法の暴発で突風にさらわれて池に落ちたり、野生のイノシシに吹っ飛ばされたときなんかも必ず助けに行ってた。


「『ジーク・イオリス大好き同盟の仲間』ですわ!」

「なんだそれは! 気持ち悪い仲間にするな!」


 モブAさんはこらえきれず大きな声でツッコミを入れた。


「き、気持ち悪くなんてないですよ! 不遇の兄を助けてくれるすっっごくいい人!という意味なんですから! ちょっと他に上手く表現する言葉が無かっただけです!」

「いや、無い。無理。絶対違う」

「そんなことないです! あなたともうお一方(モブBさん)はわたくし勝手ながらずっと『ジーク・イオリス大好き同盟』の仲間だと思っておりますの!」


 だって推しキャラが同じなんだものお仲間ですよね? さっきからお兄様の解釈が一致してますもの!

 もしモブAさんが同担拒否の場合は仲良くはできませんけれど、わたくしは仲間がいるとうれしいタイプなのでできれば仲良くしたい派なのです!


「…(あいつも既にカウントされてるのか…)」


 モブAさんがうめくように小さな声でつぶやかれたのをキャッチさせていただきました。

 え? そんなに嫌??

 とっさのことだったから我ながらネーミングセンスは正直どうかと思っているけれど内容は合ってるし、そんなに突拍子もないこと言ってないよね? よね??


 ていうか、とっさにお名前(?)を出てしまいましたがもちろんモブBさんのことも存じております。モブAさんの後にお伺いするつもりですけれど、お兄様を挟んでいつもこのモブAさんと反対側にいらっしゃる方です。

 麦わら色の髪にアンバーの瞳の方。Aさんと同様、公式設定がないので名前は存じ上げませんけれど、とっても色のバランスがいいんです。




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