第10話 モブA ②
「ジークの妹、気持ち悪い…」
「まあ失礼な! 兄思いの普通の妹です! ちょっと強火なだけです!」
「強火の自覚あるのか…」
ええまあ。
軽くモンペかなあ、って思わないでもないですね。
でも大丈夫です!
モブAさんは兄の味方なので噛みついたりなんてしません!
「俺から話すことは無いので失礼する」
「えっ! ちょっと待ってください! まだ何も情報をいただいていません!」
話は終わりかと身をひるがえすモブAさんの服を掴んで追いすがる。
え! まってまって! 力強い! 引きずられちゃう!!
「何も話す事はない」
「待ってください! 一つだけ! 一つだけ! ずばり単刀直入に聞かせていただきますわ! わたくし、兄の想い人がどなたなのか知りたいんですわ! キャロル・クルック様かナターリア・ラクアスター様のどちらかだと思うのですけれど、どちらか決めかねているのです。あなたはご存じありません?」
こちらの質問にモブAさんはピタリと足を止め、化け物を見るような目を向けられました。
やめてください、ちょっと傷つきます。
ストーカーじゃないので!
(ストーカー行為にはちょっと片足つっこんでるけど!)
「なんでそこまで…」
「そのご様子ですと知っていらっしゃるんですね? 教えてください!」
「…知ってどうするんだ」
「応援するんです!」
少々食い気味に声を上げた。
「何?」
「お兄様の恋路を全力で応援しようと思っているのです!」
「やめてやれ」
「なぜ!?」
「あんた絶対引っ掻き回すだろ」
「そんなこと!しませ…ん、たぶん」
ほらな、って顔!
でも絶対にしないとは言い切れないからね、状況次第だし。
「お兄様には幸せになってほしいんです! 頑張りが報われてほしいんです! 恋路を邪魔してお兄様を独り占めしたいとかそーいうんじゃないんです!」
モブAさんの腕を掴んで必死に頼み込む。
だめだ、私は頭が良くない。腹芸もできない。『ロゼッタ』なら出来たかもしれないけど、『私』は庶民だし!
全部しゃべってしまった!!
でも、私だって味方がほしい。協力者がほしい。何となく君は頼りになるって私の勘が言っている。
「…黙秘する」
「どうしても?」
「……俺が教えるのは、なんか違う気がするから言わねえ」
「むむむ」
友人としての回答は100点満点ですけれど!
妹のわたくしにまで秘密にしなくていいんですよ!
「じゃあヒントください! ヒント!」
「…めげねえな」
またも話は終わりと身をひるがえす彼に体重を掛けて引き止める。
「髪の色は何色ですか?」
「バカにしてんのか? 二択だろそれ」
「では髪の長さは?」
「言わねえっつってんだろ?」
「得意科目は?」
「知らん」
「女性ですか?」
「むしろそこは疑ってねえよ」
やだもう! コントみたい!
いくら私が小柄だからってズルズルと引きずるなんて~!!
レディにする行動じゃなくってよ!!
「何か一つくらい教えてください!」
「断る!」
「ケチ!」
「ケチでけっこう」
んもう、なんてかたくな!
さっきから何一つ答えてくれてない。ちょっとくらい協力してくれたっていいじゃない。
「モブのくせに!」
「はあ???」
「モブAのくせに!!」
「意味が分からん」
「もういいですわ! わたくし自分で探りますから!」
全体重を掛けて引きずられていた私はパッとその手を放す。
モブAのばか! モブBに聞くからいいもん!
「あなたお名前は!?」
「…ロバート」
心底嫌そうな顔をしてモブは答えた。
そう、モブAはロバートっていうのね!
「お兄様と仲良くしてくださってありがとうございます! ロバート様! これからもよろしくお願いいたしますわ!」
モブのポカンとした顔にべーと舌を出す。
おっとこれはレディとしてはしたなかったかしら。
わたくし、多少暴走してもきちんと守るべきラインはわきまえておりますよ。
お兄様のお友達に悪い印象を植え付けたくありませんしね!
「…変な妹」
なぜか彼のツボに入ったのか、ひとしきり笑われた。
モブAはモブ顔だけれど、笑うとそこそこイケメンだった。
そういやこの世界本当に美形ばっかりだね。
「図書室」
「え?」
「水曜の放課後は図書室に向かうのをよく見かけるな」
「まあ! ありがとうございます!!」
喉から手が出るほど欲しかった兄の情報だ!!
やったあ!!
あんなにかたくなだったモブAさん、もといロバートさんが情報をくれた!
ド〇ーめに靴下をくださった!!!
やっぱり親しき仲にも礼儀あり。
きちんとした対応をすれば気持ちは伝わるっていうものなのね。
ロバートさんもさっきより少しだけ態度が柔らかくなった気がするし。
ん?…そもそもそれほど親しくはなかったか。
『これ以上は話さないけれど、応援はする』という前向きなお言葉をいただきつつ、モブAさん、もといロバートからの事情聴取は終わった。
【兄は水曜日の放課後は図書室】
こんなに体当たりで頑張ったのに情報少なっ!!
想い人の情報は全く教えてもらえなかったし、私ってもしかしてリサーチど下手なのでは???
その後、無事にモブBさんも捕まえて兄の情報を聞き出しました。
初日の情報量としては、まあまあなのかな。
モブAさんよりもモブBさんの方が優しかったけど、モブBさんも「ジークのことは本人に聞いてね」ってスタイル。
ジークは本当に良い友人を持っているね!
自慢!!
さすがはお兄様!!
ただちょっと、いや、予想よりかなり口が悪いなって思いました。モブA。
ゲームをプレイしていても分からなかった『ジーク・イオリスの交友関係』という新情報に『私』はとてもわくわくしていた。
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