第38話 スカイ・ブレイク
何事かと目を見開いた二人に俺は耳打ちを行っていく。
全てを聞き終わったトラウマとゴッドハンドは驚いた顔を浮かべ、そして笑った。
「それは……ずいぶんと大胆なことを」
「ウハハハハッ! いいねぇマックちゃん、そういの大好きだよッ! レイが目をつけていた理由も分かる!」
かなりぶっ飛んだ提案だと思うが返ってきた反応は好印象だった。
保険で「成功する保証はない」と忠告したがそれでも二人はサムズアップを見せる。
「こちとら『アバランチ』だ。少しくらいイカれてた方が性に合うってもんだよッ!」
「……そうか、助かったよ」
トラウマの言葉に俺は自然と笑みが溢れた。
今じゃこのイカれた奴らが一番の心の支えになってるのは不思議な話だな。
裏表のない清々しさが陰鬱なクズが多いこの国の癒やしになっている。
「二人は冒険者の注目を引いて俺が言った場所に誘導してくれ。トドメは俺が仕掛ける」
「了解」というセリフと共にトラウマ達はわざと大きな動きで冒険者達の注意を引かせ自分から距離を取らせた。
「よしっ……」
頬を強く叩き、気合を注入した俺は蘭塔の近くへと移動していく。
ついさっき治安維持部隊を壊滅させたため警護している兵士は一人もいない。
今なら脱走し放題だな。
したところで外は悪夢だが。
「アッハッハ! 来いよ薬中共ォォ!!」
「スチーム・バースト」
その時、トラウマ達の声が強烈に響き俺は蘭塔を囲う塀へと飛び乗る。
目線を向けると数十メートル先で二人は冒険者達を戦いながら誘導していた。
俺が指示した場所はリエレル王国の歓楽街の大通り。
昼頃は何百人もが行き交いをしながら盛り上がるこの国の繁栄を表しているエリア。
だが今は国内のパニックもあって誰一人として民衆は大通りにいない。
その代わりに何百人もの冒険者達が二人の誘いによって虫のように集まっている。
全員トラウマ達に夢中で俺は愚か、蘭塔にも誰も注目していなかった。
「……チャンスは一度きりッ!」
俺は巨大な闇の魔法陣を出現させ、厨二病を発動していく。
刹那、魔法陣が眩しい光を放ち、虹色の刃を何個も纏った黒い球体が出現。
度し難いようなエネルギーを纏う球体を操り、俺は上級魔法の詠唱を始める。
「闇よ、我が名の元に集いて悪を滅し、全ての混沌を無に帰す力を解き放て、カオス・ディメンションッ!」
両手を大きく広げると同時に球体は蘭塔へと抉るように直撃。
バフがかかった力は外壁を簡単に削り取り、やがてはバランスが崩れ始める。
倒壊するように崩れていき、天にも近い蘭塔は冒険者が蔓延る大通りへと傾いていく。
「トラウマ! ゴッドハンド!」
「「ッ!」」
厨二病を解除した俺の渾身の叫びに二人は即座に反応し大通りから脱出する。
残されているのは……レッド・アシアンに犯された大量の冒険者のみ。
蘭塔は崩壊が加速していき、大通り目掛けて地面へと落下していった。
地上では轟音と衝撃が走り、砂埃が考えられないほどに空中を舞う。
「ぐっ!?」
爆風に近い衝撃が全身に浴びせられ、俺は為す術もなく吹き飛ばされた。
数十秒もすれば埃は晴れていき、大通りを巻き添えとして盛大に崩壊した蘭塔が露わとなる。
「いってぇ……倒したか」
思わず尻餅をついてしまった。
冒険者の叫び声は聞こえない。蘭塔の崩落に巻き込まれて全員死んだのだろう。
「マックちゃぁぁぁん!!」
安堵を始めた瞬間、耳を引き裂く声が聞こえト振り返るとトラウマが勢いよくダイブするように抱きついてくる。
「うぉっ!?」
蹲るように俺の腹へと小柄な身体を突っ込まさせ、顔を上げると綺羅びやかな純粋な笑みを俺に向けた。
「スゲェよマックちゃん! マジで成功させるとかスペクタクル過ぎてボクの心は天に登りそうだよォォォォ!!!」
ブンブンブンブン!
「ちょ揺らすなオイ!?」
トラウマは興奮しながら犬みたいに首を振って俺に喜びをぶつけてくる。
少し……小動物のような頭を撫でたくなる可愛さを覚えてしまった。
そんな俺達の光景を後ろから見ていたゴッドハンドは肩をすくめ呆れていた。
「全くトラウマは……だがマックス、まさかこんなイカれた作戦を成功させるとはな」
「別に……ただ使えるものを最大限に使っただけだよ」
俺の作戦。
それは蘭塔を大通りに崩落させ、一気に冒険者を潰すという算段だった。
幸い、大通り付近の住民達は異変に気付き逃げていたことで誰もいない。
かなり強引だと思うが……まぁ上手くいったんだし万々歳と思っていいだろう。
「クスリァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
だがそれでも安堵は出来ない。
蘭塔崩落から逃れた冒険者達は相変わらず発狂をしながらこちらへと迫りくる。
数はかなり減ったが、だからと言って余裕でいられる相手でもない。
「全滅はさせられなかったか……チッ、まぁいい、全員倒して「マックス」」
「もういい、ここから俺達だけでやる」
言葉を遮りゴッドハンドは俺の肩にそっと大きな手を置く。
「ゴッドハンド?」
「お前には因縁の相手がいるだろう? 雑魚には構わずステラを討ち取れ」
「あァァァ! それボクが言いたかったセリフなのにぃ!」
「悪いな。早いもん勝ちだ」
頬を膨らませるトラウマに対して不敵に笑うゴッドハンド。
二人とも俺の前へと立ち、冒険者達を迎え撃とうと魔法陣を出現させる。
「さぁ行け、早く」
「だ、だが!」
「マックちゃん、まさかボク達があんな雑魚に負けると思ってるの? 舐めんなよ、心配されるほど弱いと思ってるなら殺すぞッ!」
口調はいつものように荒いがトラウマは振り返りながら頼もしい八重歯を見せた笑顔を見せてくる。
ゴッドハンドも笑顔はないが自分を見つめる目には「任せろ」という意思を感じた。
「……分かった、恩に着るッ!」
俺は小さく頭を下げると踵を返し、カオスと化している場から離脱する。
「ぶち殺してやるよ……ステラッ!」
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