第37話 ワースト・ホーリー・ウォー
「マジかよ!?」
雄叫びを上げながら我武者羅に突進してくる冒険者達。
完全に理性を失くし、殺すことしか頭にない獣のようにしか見えない。
俺は咄嵯に横へ飛び退くと、間一髪のところで攻撃をかわす。
カウンターとして間近にいる冒険者に蹴りを叩き込み、この場から脱出しようと紹介所出入り口へと走るが……。
「ツイン・インフェルノォォ!!」
ある冒険者が突然、炎の上級魔法の詠唱を激情的に言い放つ。
赤い巨大な魔法陣が出現され螺旋を描くように二つの炎が放たれた。
「我が力の漆黒の闇よ、我が神聖なる肉体を死守しろ、シャドウ・ウォール!」
即座に攻撃を察知した俺はいつものように厨二病を発動し闇の壁を作り出す。
本来ならこれで防げる……はずだった。
「ッ!」
炎は勢いがまるで止まらず、徐々に闇の壁にヒビが生じ始める。
やがて壁は木っ端微塵に砕かれ、双撃の炎が俺へと直撃。
反対側の建物へと激しく吹き飛ばされた。
「がふっ……!」
思いもよらぬダメージに俺は厨二病を解除してしまい口から吐血してしまう。
何だ……今のバカみたいな威力は。
ツイン・インフェルノは上級魔法、こっちのシャドウ・ウォールは初級魔法と不利。
しかし闇のソウルの力で大幅にバフがかかっており初級でも簡単にあの魔法は防げた。
だが事実として俺は相手の魔法に押し負け破壊された瓦礫の上で鮮血を吐いている。
「まさか……これがレッド・アシアンの力とでもいうのかよ、クソが」
魔力を異常に向上させる効果。
ソウルの力に近づくほどとか……なんてイカれた薬物だ、どんな開発したんだよ。
しかしそんなことを悠長に考えている暇は一切ない。
「クスリぃぃ……よこせぇぇッ!!」
狂乱に支配された絶叫をぶち撒けながら俺を目掛けて冒険者達は近付く。
「な、何だ!?」
「キャァァァァァ!」
「逃げろ早く!」
異変に気付いた付近の住民達は飛び起きながら悲鳴を上げ逃げ出し始める。
歓楽街でもある大通りからは一斉に人々が逃げ出し城門へと向かっていた。
不味いな……このままじゃ国単位でパニックになり無罪の人間にも被害が及ぶ。
「くそったれッ!」
数百人にも及ぶ冒険者を前に俺は意を決して魔法陣を作り出す。
どう考えても分が悪い状況の中、迫りくる脅威に迎え撃とうとした……その時だ。
「サイコ・チェイン!」
「スチーム・バースト」
突如、俺の前に二つの人影が現れた。
一人は無数の鎖で冒険者の首を切断し、もう一人は蒸気の力で相手を殴り飛ばす。
二人の放った技は見事に冒険者達に直撃。
数十人もの冒険者を一瞬にして死という名の戦闘不能へ陥らせた。
「オゥオゥ、何だい何だいこれはッ!」
奇声に似た叫びを発するロリ体系の少女。
常識の範囲を超えた巨体の機械人間。
その姿を見て俺はこいつらが誰なのかを直ぐに察する。
「トラウマ! ゴッドハンド!」
唯一無二の個性を爆発させている紛れもない『アバランチ』の二人だった。
救世主のように現れたトラウマ達は倒れている俺に手を差し伸べた。
俺は力強くその手を握り立ち上がる。
「マックスどういう事だ? 説明しろ」
「オイオイマックちゃ〜ん、推理ゲームをしに行った結果、ゾンビゲームでも始まったってどういう超展開?」
ゴッドハンドとトラウマは至極当然の質問を投げ掛ける。
当たり前だ、いきなりこんな魑魅魍魎が跳梁跋扈する世界が広がっていたら誰だって何が起きたか疑問に思う。
「……レッド・アシアンだ。ステラが冒険者全員に感染させて聖戦を始めた」
「えっマジ? レッド・アシアン暴走中!? ウハハッ! スゲェ状況じゃぁぁん!」
絶望的な状況なのだがトラウマは事実を知っても尚、狂気的に笑う。
一方のゴッドハンドも特に驚いている様子は微塵もなかった。
「なるほどな……まっ問題はない、レイが想定していた以内の話だ」
「レイ?」
「奴だって無法の奴らには無法で攻めてくると予想はしていた。あの『剣聖』は俺達を出し抜いたと思っているだろうがそれは違う」
レイ……この流れを読んでいたのか。
褒めるべきかは分からないが流石は『アバランチ』と言わざるを得ない。
彼女が予め想定していたのなら二人の平常運転ぶりにも納得がいく。
「まぁいい、レイやフェイスも後々応援に来る。それまでは俺達でこいつらを潰すぞ」
「スプラッター祭りの開催地はここかなァァァァァァ!?」
二人は前を向き、レッド・アシアンに犯された他の冒険者達を見据える。
その瞳には歪んだ闘志が宿っていた。
「レッツ……パァァァティィィィ!!!」
トラウマの発狂セリフがぶち撒かれ、戦いの火蓋が本格的に切られる。
「サイコ・チェイン・バーティカル!」
鉱石のように硬直した鎖を生み出すと、槍のように持ち替え辺りを一掃していく。
トラウマの小柄な体格もあり、相手の視界から消えながら突き刺しを続けた。
一方のゴッドハンドも怪力で物を言わせ冒険者達を壁へとめり込むほどに殴り飛ばす。
その表面だけ見れば無双状態の有利な状況……に見えるかもしれないが。
「チッ、物量が多いな」
「こいつら無駄にしぶといなァ!」
そう、数が多すぎるかつ、一人一人が気持ち悪いほどにしぶといのだ。
魔力の異常上昇、中毒による理性の崩壊、双方の要素が絡み合い、冒険者達はストッパーを知らない戦闘マシーンに豹変している。
場を有利に進めているとはいえ、いくらトラウマとゴッドハンドでも強化された冒険者の大群を相手には難色を示していた。
「漆黒の闇よ、我が名の元にセイクリッドなる力を与え、哀れな愚者達をを黄泉の国へと誘え、シャドウ・スパニッシュ!」
負けじと俺も厨二病を発動し、魔法陣から闇に染まった斬撃で相手を切り裂いていく。
だがそれでも全冒険者が相手。数人倒した程度で状況は変わらない。
「持久戦に持ち込まれると不味いぞ、チマチマやっても埒が明かない」
「んなこと分かってんだよゴッドハンド! それでもぶち殺していくしか方法は存在しねぇだろうがァ!」
不穏な空気が漂い始める。
このままでは自分達は愚か、この国全てがステラの傀儡となる。
それではロレンスさん達やハロさんにも甚大な被害が及ぶ。
「何か……なにか無いのか……!」
狂乱の中、俺は必死に思考を巡らせ打開策を模索し始める。
超級の闇魔法を使う手段もあるが威力が高く一般人を巻き込む可能性も否定出来ない。
周りの命を減らさず、一気に冒険者の数を減らせる方法……その手段はどこにある?
「おいマックス! 後ろ!」
「えっ?」
ゴッドハンドの叫びで俺は反射的に振り向くと、さらなる冒険者の群れが武器を振り上げ襲いかかってきた。
「クソっ!」
咄嵯の判断で俺は空中へと跳躍。
近くの建物の壁を掴み、避難するように屋上へと登る。
防戦に傾いている状況の中、ふと前に目をやるとあるものが視線に入り込んだ。
「蘭塔?」
リエレル王国のシンボルとも呼べる巨大なタワー型の刑務所。
首が痛くなるほどの高さで俺も罠に嵌められ一時期はあそこに収容されていた。
いや今はそんなのどうでもいい。
問題はこの冒険者達をどうにか一網打尽にする秘策を考えて……。
「……待てよ」
脳裏に閃きのような何かが走る。
行き詰まっていた思考が一気に回転していき計画が構築されていく。
「ッ! これなら!」
起死回生の一手となる作戦が完成した。
いや、完成と言っても上手くいくかは分からない、寧ろ一か八かのような内容。
だがやるに越したことはない。
俺は辺りの冒険者を闇魔法で蹴散らし地上へと飛び降りるとトラウマ達へと近づく。
「トラウマ、ゴッドハンド、考えがある」
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