第33話 リベリオン
俺とゴッドハンドは阿鼻叫喚な治安維持部隊本部の庭へと勢いよく着地する。
異変に気付いたのか、内部からは兵士が次々と現れ始めた。
「カモンカモンカモンカモンッ! 深夜のスクラップ祭りじゃァァァァァ!!!」
トラウマが振り回す鎖が無差別に襲いかかりスクラップのように嬲り殺していく。
その光景は正に地獄絵図であり、恐怖と混乱の渦が巻き上がった。
「こ、こいつらまさか『アバランチ』!?」
「嘘だろ何でここに来たんだよッ!?」
「り、臨戦態勢だ! テロ組織の襲撃を鎮圧しろッ!」
未だに正気を保っている兵士はどうにか武器を取り構えていく。
だがその手は酷く震えており、まともに戦えるような雰囲気ではなかった。
「数に惑わされるな。奴らの戦意は皆無に等しい。士気が上がる前に叩き潰すぞ」
辺りを冷静に見回し、ゴッドハンドは無属性の魔法陣を拳の先端に出現させていく。
まるで蒸気のような煙が噴射され、拳へと凝縮されていった。
「スチームバースト」
詠唱の瞬間、煙を凝縮した右拳を放つと衝撃波と共に前方の兵士を巻き込み吹き飛ばしていった。
人形のように兵士達は吹き飛じ地面や壁など至る所へ絶命するほどに叩きつけられる。
「マジか……!?」
「『アバランチ』は無属性魔法使いが大半を占めている。だからこそ少数でも他を圧倒する力を持っているんだ」
淡々と、だが何処か誇らしげにゴッドハンドは『アバランチ』の生態を明かす。
確かに今の所出会った『アバランチ』は全員無属性魔法を扱っていた。
無属性魔法は強力な代わりに希少性が高くトリッキーな能力。
そのプロフェッショナル集団だと思うと……恐ろしさが少し分かった気がする。
「関心してる暇はない。手を動かすぞ」
「ッ! 分かってるって……!」
ゴッドハンドの言葉に俺は深呼吸をすると目先の障壁に向けて、厨二病を発動する。
リビルなどのお陰で知らない誰かを傷つけるのはもう完全に慣れてしまった。
「我が漆黒の闇よ、黄泉の業火を纏いて純白なる真実を穢す障壁を駆逐せよッ! ダークインフェルノ・ホライゾン!」
闇の炎を生み出す初級魔法の進化技。
漆黒の魔法陣を地平線を描くように豪快に振ると黒き炎が楕円の斬撃破を生成する。
目の前の兵士を焼き払いながら突き進んでいき遂には建物の一部を融解させた。
「ぐおっ!?」
「そんな一撃で……!」
「不味い柱がッ!」
根本の柱を焼き切った為、建設物はバランスが崩しピサの斜塔のように斜めになる。
中級魔法ながらソウルの力でバフがかかり絶大な威力となっている闇魔法。
ウジャウジャといた兵士は一斉に数を減らし戦意が削がれ始めていく。
「ワーオ! やるなぁマックちゃん無属性じゃないのにそんな面白いとかボク楽しくなるじゃないかァァァ!!」
「噂では聞いていたが……やはり類まれな闇の魔力だな。レイも一目置く」
トラウマ達も関心だと捉えられる声を発しボルテージを上げていく。
二人の動きもより激しく無双状態となり付近の敵を薙ぎ払っていった。
「愚者共は一掃した。このまま真実を眠らせたパンドラの箱へと一気に向かうぞッ!」
厨二病は継続したまま、無駄に自己主張の強いセリフを吐き、仕切っていく。
傍からすれば生意気な厨二病のクソガキだとキレられそうだとも思ったが……。
「へぇ何そのクッサイセリフ、めっちゃオモロイんだけど! いいよマックちゃん!」
「これがレイが話してた面白い言動か……丁度いい、マックスの後に続くぞトラウマ」
意外にもトラウマ達は俺の厨二発言を面白がり、テンションをぶち上げていた。
厨二病という名の尊厳に溢れた口調が却って士気を向上させていた。
見た目も態度も世紀末のような空気の中、俺達は本部の中へと突き進んでいく。
「クッソ『アバランチ』がッ!!」
「ここで殺すぞ!」
強襲する兵士は先程よりも殺気立っており、武器を構えて襲いかかってきた。
「死ねぇぇッ!!」
「邪魔だァァ!!」
だが殺意剥き出しの刃は俺達に届くことはなく、ゴッドハンドに砕かれていく。
ガラスのように四方八方に破片が飛び散りカウンターで放たれた拳の餌食となった。
「ぐびっ!」
「ぶぎゃぁ!」
聞いたことのない情けない断末魔と共に甲冑に身を包んだ治安維持部隊を打ちのめす。
法で支配する組織が力に屈して壊滅的な被害に合う、ストレス発散にはいい光景だ。
ここには色々と嵌められ、散々な目にあった。特に良心も傷まない。
そう溜まったストレスを発散していきながら俺は先陣を切り、階段を次々と登りあげていく。
「そろそろ〜最上階じゃぁねぇのォ!?」
トラウマの言葉通り、ノンストップで進んでいき数分もすれば最上階へと到着した。
保管庫へと繋がるであろう中から声がする扉を警護兵と共に派手に蹴破り突入するッ!
「な、突破してきただとッ!?」
視界には見上げるほどの書物の宝庫が広がり中心部には数人の兵士がいる。
その中にいる甲高い声の初老の男を見て俺は思わず足を止め厨二病を解除してしまう。
「ッ……!」
蘭塔にて出会った高級そうな甲冑に身を包んだ赤髪のクソジェントルマン。
俺を嵌めた一人である治安維持部隊の隊長であるジビラ・ドラムがそこにはいた。
俺の姿とトラウマ達の姿を見て口をパクパクとし顔が青ざめている。
「な……馬鹿な……こちらは千人にも及ぶ兵力であったのだぞ!? こんなことがあってはならない! ならないならない!」
「おいおい、あいつが親玉か? ずいぶんとミルク臭い王様だな。アッハッハッ!」
彼の姿を見て壊れたように嘲笑の籠もった爆笑を放つトラウマ。
蘭塔での威圧的な雰囲気はまるでなく、子供のような哀れな様子だった。
今見える姿が彼の本性なんだろう。
蘭塔のように魔法が使えない場所というアドバンテージがないこの状況だからこそ。
実に滑稽だった。
同時に、こんな奴に嵌められたのかと俺の中に苛立ちが募っていく。
「っしゃぁ、最後もスクラップにして真実へと「待て」」
「待ってくれトラウマ、俺にやらせてくれ」
今にも殺しにかかろうと鎖を振り回すトラウマを俺は咄嗟に止めた。
こいつは……俺が直々に潰さないと気が済まない。
「あっ?」
「頼む、俺が息の根を止める」
「……ウハハハッ! そんなにこいつを殺したいか? いい顔するねマックちゃん、そういうのボクの好みだな」
自分がどんな顔を浮かべているかは分からないがトラウマは笑顔と共に引き下がった。
むかっ腹が立つ、その怒りを原動力に残された兵士とジビラの元へと歩き始める。
「マックス・リアリズム……!?」
「蘭塔以来だな隊長よ、金とプライドの為に俺の人生を壊した気分はどうだ?」
「ぐっ……! 貴様ら行け!」
怖気づきながらもジビラは残されていた部下達に指示を出し我武者羅に襲いかかる。
だが杜撰なやり方の攻撃が通じる訳もなく俺は厨二病を使わずに相手をいなしていく。
「ぐおっ!?」
「がっ……!」
一人一人、鼻の骨を折るほどに顔面へと拳を叩き込み無力化させていく。
数秒もすれば残す相手は忌々しいジビラだけとなった。
「くっ!?」
「もう朝日を拝めるとは思うなよ。ここが千秋楽だ」
「この……ガキがァァァァァァ!!」
ジビラは雄叫びを上げると腰部に備えた剣を抜き取り、俺に向けて振り下ろす。
その攻撃に対して俺は右手で鷲掴むように受け止め、握り締めた。
刃が指に少しばかりめり込み赤黒い鮮血が鋼色の剣を染めていく。
「ッ!?」
痛みを気にせず俺は左手を握りしめ全力を込めたストレートパンチを顔面へ放った。
肉が潰れるような音と共に身体が勢いよく倒れ伏す。
「ぐばっ……!」
壁へと激しく叩きつけられたジビラは鼻から盛大に血を吹き出す。
衣服や鎧を鮮血で汚していきながら格好のつかない後退りをしていた。
心の中で嘲笑しながら俺は逃げ場を失ったジビラへと近づいていく。
「や、止めろ……こんなことをして分かっているのか!? 貴様のやってることはリエレル国に対する反逆罪だぞッ!」
「金で無罪を踏み潰す奴らの国なんて、いくらでも反逆してやるよ」
「なっ!?」
「全て知ったさ。金でリビルと共謀していたことも、自白剤で俺を潰そうとしたことも、治安を守る隊長の姿がこれか?」
「黙れ……金で動くことの何が罪だ? 人は皆、金さえ積まれれば平気で誰かを裏切れる! 私がやっていることは至って普通の人間のあるべき行いだ! こんな目に合うつもりなど何処にもないッ! それが大人の世界という物なんだよ若造ッ!!」
醜悪に歪んだ表情と共に唾を飛ばしながら叫ぶ姿に俺は無意識にため息をついていた。
ぶっ飛んだ言い訳で自分の行いを正当化しようとするこいつに慈悲はない。
寧ろ助かった、ここまで振り切ってくれていた方がこちらも良心が傷まずに済む。
「……最後の懺悔は終わったか?」
鬱憤、怒り、苛立ち、溜まりに溜まったストレスを放出するように俺は厨二病を発動し、魔法陣を生成した。
「我が純黒の闇よ、救いなき醜悪な魔物を光なきアビスへと導く扉を開門せよ、ハンニバル・ゲート」
闇魔法の一つである超級魔法。
同時に相手を閉じ込め永久的に精神を汚染させるという闇の中でも特に禍々しい能力を持ったものだ。
詠唱を終えると魔法陣より漆黒色の魔力が溢れ出し、辺り一面を真っ黒に染め上げる。
背後には巨大な扉が現れ、開門されると中からは理性を蝕むような巨大な目と無数の手がジビラを掴みかかった。
「何だこれはッ!? は、離せッ!!」
必死に暴れて抵抗するが、無数の手は掴んで離れない。
そのまま引きずり込むようにジビラを飲み込んでいった。
「やめろ! やめてくれぇェェェ!!!」
断末魔のような悲鳴が保管庫に響き渡るが、門が閉じられると同時に完全に聞こえなくなる。
閉門を終えると辺りを包んでいた黒い魔力は灰のように一瞬にして消えていった。
「……よしっ、スッキリした」
怖いくらいに清々しい気持ちとなり、俺は自然と小さくガッツポーズをしていた。
振り返ると一連の流れにトラウマはピョンピョン跳ねながら目を輝かせていた。
「ウォッフォゥ!! いいじゃんいいじゃん! なに今の面白い殺し方! 酷く殺すのはボクの大好物だよマックちゃん〜!」
ドカッ! ドカッ! ドカッ!
「ちょ!? だから痛いって!?」
テンションが上がりハイになっているトラウマは俺の腰を容赦なく蹴り続けた。
イカレた行為なのだが……多分、彼女なりの褒め方に俺は自然と笑みが溢れていた。
このサイコと狂乱に満たされた空間に何処か心地よさを抱いてしまい一種の友情のようなものを感じてしまう。
「オイ、だから止めろサイコロリ」
そんな中、制止するようにゴッドハンドのドスの効いた声が保管庫へと鳴り響いた。
「あぁ? おいコラ水を差すんじゃねぇよゴッドハンド! こちとらマックちゃんと戯れているのにさァァ!」
「戯れは任務後に好きにしろ、だが今はまだ霊峰の履歴をここから探す義務がある。遊んでいたらまたレイから叱られるぞ?」
「チェッ……はいはい分かったよ〜だ」
レイの名前を出され彼女は拗ねた子供のように舌打ちしながら俺から離れて行った。
「悪いなマックス、こいつはテンションが上がると暴力するんだ。まぁ一種の愛情表現ってやつだ」
「イカれた愛が……まっ大丈夫だよ、リビルやジビラみたいな陰湿なクズ野郎達よりかは遥かにマシだ」
蹴られた腰を抑えながら、俺はゴッドハンドへと微笑を振り撒く。
復讐の余韻に浸りたいが……だが彼の言う通り今はそんなことしてる暇はない。
「それよりも、早く探さねぇとな。この書物から霊峰ってやつをな」
レイに命令されたバビロンの葉が眠る霊峰に向かっていた経歴の冒険者探し。
遺体が広がる治安維持部隊本部にて息を整えると俺は保管庫を見上げた。
「っしゃぁ!!」
頬を両手で強く叩き、眠気を振り払って俺は無数の書物へと挑んでいく。
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