第12話 マックスの過去、剣聖の降臨

「マックスさん!?」


 心配するハロさんの声。

 何なんだこいつ!? いきなり殴ってくるとかイカれてんのか!?


「アッハハッ! ダッセェ!」


「嘘つき野郎には当然の報いだな!」   


 追撃するようにリビルの仲間からの罵倒が突き刺さっていく。

 こいつら何だ……マックスと何の因縁があるっていうんだ。


「あんたら一体どういうつもりですか!? 毎回毎回マックスさんを!」 


「チッうるせぇな。別にお前に用はないから口出しすんじゃねぇよ」


 ハロさんは怒り心頭といった様子で立ち上がるが、それを遮るようにリビルが道を塞ぎニヤついた笑みを浮かべている。

 

「ハロさん! 大丈夫です……俺はなんともないですから」


 宥めるようにハロさんを抑え、俺は唇の血を拭いゆっくりと立ち上がる。

 一連のやり取りに冒険者達はヒソヒソと話を始めていた。

 

「うわっまた始まったよリビルのDランクイジメ……見てられねぇ」


「Dランクの冒険者を見つけてはストレス発散に蹂躙するとかエグ過ぎだろ」


「確かあのマックスって奴、前からリビルに目をつけられたよな?」


「ギガ・レビュアズもリビルに無理矢理受けさせられたクエストだよ。それで成功させたんだから驚きだが」


 なるほど……そういうことだったのか。

 Dランクだったマックスは恐らくこいつらからイジメを受けていた。

 ハロさんもその事を言いたかったんだ。


 ギガ・レビュアズへの無謀な挑戦も無理矢理受けさせられたから。

 それで死んじまったと思うと……なんか急に胸糞が悪くなってくる。


「お前みたいなDランクの雑魚がギガ・レビュアズを倒した? アッハハハハハァ! んなもん無理に決まってんだろ。どんな姑息な手を使ったんだ?」 


「姑息も何も……俺は正式に倒して報酬を」


「あぁあぁ詭弁なんて聞きたくな〜い、お前はさ俺達の遊び道具なの。のたうち回って苦しむ顔見せるのが生きる目的。そいつがさぁ……クエストクリアして俺達と同じAランク? ふざけんじゃねぇよッ!」


 再び襲いかかるリビル。


 今度は腹に蹴りを入れられて床に倒れ込んでしまう。

 攻撃の重さが強者であることを物語っている。周りが誰も止めないのも納得がいく。


「嘘もついてないし……生き方は自分自身で決めるもんじゃないのかよ?」


「はっ? なに口答えしてんだお前」


 その反論にリビルは顔を歪ませ、俺の胸ぐらを掴み殺意の表情を見せる。


「俺はなエリートなんだよ、僅かな期間でAランクに登り詰めてやった。だからお前みたいな嘘つき雑魚な玩具に歯向かわれると無性に腹が立つ」


「嘘……じゃねぇよ」


「へぇそっか! 聞こえなかったなァ!」


 激情的な叫びと共に、鼻の骨を砕こうと拳が上から迫りくる。

 死にはしないだろうが顔面がめちゃくちゃになるのは間違いない。

 

 きっとマックスに忠実であるならこのまま殴られて土下座でもするべきなんだろう。

 だけどそんな理不尽は……癪に障るッ!!


「ふざけん……なァ!!」


 拳が到達する前に勢いよく頭を振りかぶりリビルの鼻へと頭突きを食らわす……!


 ドグォ!


「ぐぶぁ!?」


 鈍い音が響き渡り、お互いの顔が苦痛に満ち溢れていく。

 リビルは鮮血をまき散らし激しく吹き飛ばされ、俺自身も額に激痛が走る。

 だがそんな痛み、今はどうでもいい。


「聞こえねぇならもう一度言ってやるよ……俺は嘘をついていないッ!!」


「きさ……まァッ!」


「リビル!?」


「大丈夫!? ちょっとアンタリビルに何てことを!」


 取り巻き達が駆け寄り非難の目を俺に向ける中、ゆっくりと立ち上がりリビルを睨みつけ溜まった感情を吐き散らす。


「弱い者を蹂躙して殺すほどまでに追い詰めやがってこのクズ共がッ! 良心ってもんを親から教わらなかったのかあぁっ!?」


「テメェ……嘘つきクソ野郎の癖に調子に乗りやがってッ!」


「その嘘つきクソ野郎に鼻を折られる気分はどうだ、クズがッ!」


「お前……ブッ殺すッ!!」


 悪化していく言葉の応酬。

 俺自体も奴が許せず、リビルも俺を許せていない。

 理性は止めろと警告するがそれを無視したくなるほどに……今はムカついている。


 殺意が交わり、一触即発の空気に冒険者達が後退る中


「そこまでだ、二人共」


 凛とした声が響き俺達を遮る。

 それは女性の声であり、俺とリビルの仲裁に入るように割って入ってきた。


「ギルド内で揉め事はご法度だぞ。これ以上続けるのなら両者共にギルド資格を永久に停止させる」

 

 リビルの肩に手を置いて静止させたのは水髪のロングヘアーの甲冑を纏った美女。

 身長は百七十センチ程、年齢は二十代後半といったところか。


 ん? 待て……この女性、何処かで聞いたことあったような。


「ギ、ギルドマスター!?」


「はっ!?」


 ハロさんは驚くような声を上げ、俺も同じく驚愕の声を上げる。

 そうだ……確か前にハロさんが言っていたギルドマスターってこの人か!?


 美しい見た目だが放たれるプレッシャーが辺りの空気を支配していく。

 その姿を見ただけで強者であることを本能的に教え込まれる。


「その呼び名は止してくれハロ君、ステラ・アノニマスと名前で呼んでくれたまえ」


 ステラと名乗る女性は喉を唸らし氷のように熱気づいた緊張を冷めさせていく。

 

「お、おい……あの人『剣聖』のステラ・アノニマスじゃないか?」


「本当だ! 本物だよ!」 


「この国最強の剣士でありギルドの長……やべぇ噂通りの美しさだ……」


 彼女を見た途端、冒険者達は黄色い歓声を上げている。

 周囲の反応を見るに相当なカリスマ性と強さがあり慕われているのだろう。

  

 名前:ステラ・アノニマス

 年齢:28

 性別:女

 ユーザーランク:S

 レベル:146

 タイプ:剣士

 使用属性:光、火、水、風、水


 それを指し示すように腰部から見えたギルドカードはリビルを遥かに超えている。

 ステラは冷たい瞳をギロッと動かすとリビルを一点に見つめた。


「リビル君、君は彼の功績を嘘と言ったが私達ギルド運営は厳正な審査の上で公平に決定を下している。それともこの決断を覆すほどの証拠でもあるというのかい?」


「証拠だと? そんなのこんな奴がギガ・レビュアズを倒したという事実自体がッ!」


「それは証拠ではなく私情なだけの憶測だ。君は優秀な冒険者だが欠点も多い。今みたいに憶測で話すこと所とかな」


「んだと!?」


「これ以上ギルドに迷惑をかけるのならに報告してもいい。 それは君にとって利益になるものかい?」


「……チッ」


 舌打ちをして苛立ちを表すリビルだが、それ以上は何も言わずに引き下がる。

 治安維持部隊? 何だそれ? その言葉を聞いた瞬間リビルも勢いを失った。


「ハ、ハロさん治安維持部隊って?」


「この国の法で犯罪者を取り締まるリエレル直属の機関ですよ。逮捕でもされれば冒険者資格も永久的に剥奪させられます」


「永久……マジか」


 この国にも警察のような機関があるのか。

 しかし冒険者資格の永久剥奪とは……リビルが引き下がった理由も合点がいく。


 そう一人で勝手に納得していると、ステラは俺の方へと向き直り、端正な唇を動かす。


「ほぅ? 君が例のマックス君か」


「そ……そうですけど」


「私はこのリエレルのギルドマスターを務めている。ステラと呼んでくれて構わない。早速だけどマックス君、先程のやり取りを見させてもらった」


 ステラはまるで審判のように腰部に所持していた上品な剣を立てる。


「マックス君、君の勇気ある行動は称賛に値する。だがここでの暴力はどんな理由であれギルドのルールに反している」


「……お言葉ですけど、ならずっと弱い者は我慢していろと?」


「そうじゃない、しっかりとしたルールに乗っ取ってらしく白黒をつけるべきだということだ」


 不敵な笑みを浮かべるとその場にいる冒険者全員に分かるよう懐から取り出した張り紙を見せびらかす。


 機神獣アトム・スマッシャーの破壊

 依頼主:リエレル王国

 場所:F・C・都市遺跡

 目的:アトム・スマッシャーの残滅

 報酬:金貨二百枚

 適正ランク:A〜B


 それはクエストの張り紙。

 だがこれまで見たものとは違い金貨200枚という破格の数値が報酬に記載されていた。


「ここに先程、国からの緊急の大人数向けクエストがある。目的はアトム・スマッシャーの破壊。どうだい? こいつを先に倒したが正義とする方法はさ?」


 俺とリビル、周りの冒険者を舐め回すように見つめるとステラは挑発するような表情を向けたのだ。


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