第13話 F・C・都市遺跡
機神獣アトム・スマッシャーとは全身を機械で武装した四足歩行の魔物。
機械からなる火力は神と名付けるに相応しいものであり強敵に相応しい存在。
最近になってF・C・都市遺跡という場所に他のモンスターと共に居座るようになり警戒したリエレル王国が要請を出した。
……とステラさんからは聞かされた。
彼女から提示された俺とリビルの勝負内容はそいつをどちらが早く倒せるか、だ。
「マジか……コレ」
緊急ということもあり、即座にF・C・都市遺跡に到着するや否や俺は唖然とする。
あまりにも広大過ぎるフィールド、何処を見回しても遺跡ばっかだ。
アトム・スマッシャーらしき存在は見当たらないが既に雑魚モンスターがわんさかと遺跡に蔓延んでいる。
ギルドからは俺にリビル率いる『アルコバレーノ』に破格の報酬に釣られた上位のチー厶が集まっていた。
ざっと数えて四十人ほど。
ここに来て分かったが……どうやらこの世界では七、八人ほどのチー厶を組むのは主流らしい。
俺以外は全員、なんらかのチームに入っており『ヴェーネレ』『グリン・レオパルド』『D・シアン』と呼ばれるAランク冒険者だらけの上位チー厶が勢ぞろいしている。
「さぁ一攫千金に魅入られた者達、因縁の決着をつける者達、どの子が機械の要塞を攻略するのかな?」
決着の審判としてステラさんも同行しており、煽るような口調で囃し立てる。
クールな性格だと思ったが……結構享楽的なタイプだったりするのか?
「さぁ行きたまえ、そして栄光を勝ち取れ」
腰部につけた剣を抜刀し前へ向けると一斉に冒険者達は駆け出していく。
「っしゃオラァ! 行くぞッ!」
「長者番付に名乗り入りじゃ!!」
凸凹な都市遺跡をアクロバットな動きで縦横無尽に移動しモンスターへと迫っていく。
「ハッ……精々命乞いの言葉でも考えてろ、クズ野郎」
少し遅れてリビル達『アルコバレーノ』のチー厶も動き出す。
クズは果たしてどっちなんだが……。
「灼熱の業火よ、敵を蹴散らせ! インフェルノ・ドライヴッ!」
「おい雑魚に魔法をあまり使うなよ? 本腰入れるのはまだだ」
「うるせぇな口より手を動かせやッ!」
「ソニック・スラッシュ・レイ」
「そっち行ったぞッ! 全部潰せ!」
駆け巡る冒険者達の生の声。
個々で魔法や剣術、弓術を巧みに扱い、雑魚モンスターを鮮やかに撃破していく。
やはり上位チー厶、罵り合う場面も見られるものの、チー厶として連携を取っている。
あの動きを見る限り、やはりこの世界でのソロプレイはメジャーではないみたいだ。
そうした冒険者達の中でも一際目立っているのは……言いたくないがリビルが率いる『アルコバレーノ』だった。
「オラッ! 全員配置につけ!」
「「「「了解ッ!!」」」」
リーダーらしく全員に簡易ながらも単的な指示で全員を駒のように動かす。
その中でも特に活躍しているのはリビルの隣にいる僧侶の格好をした黒髪の美少女。
童貞が好きそうな清楚な雰囲気を醸し出している。
「サフィ、てめぇが率先して雑魚を一気に潰せッ!!」
「畏まりましたわ、大地の蔦よ、私に力を ジュゼッペ・ウィップ」
サフィと呼ばれる冒険者はツタのような物を生み出すと迫りくると雑魚モンスターへと絡ませ絞め殺していく。
「他のクソチー厶に手柄取られたら許さねぇからな、スマッシュ・ブラストッ!!」
リビル自身も後方から魔法陣を作り出すると大剣に炎を纏わせ業火の斬撃でモンスターを焼き殺していく。
やはり……Aランクということもあってか冒険者としての実力は本物みたいだ。
彼の実力を知っているのか他チー厶もリビルへと関心の目を向けている。
付近の雑魚モンスターを蹴散らすとリビルは挑発するような顔で俺に大声を掛けた。
「おいおい何やってんだ虚言癖さんはよぉ怖気づいたか? まっ尻尾巻いて逃げてもいいんだぜ? 土下座して靴舐めるなら俺への無礼は不問にしてやるよ。アッハハハハァ!」
「まぁリビル様、虚言の野蛮人になんという御慈悲のあるお言葉……素敵ですわ♪」
「ハッ、流石は俺の女だな。こんなゴミカス野郎にも優しくしてやんなんてなぁ。今夜も行くか?」
「はい喜んで♡」
……なんだコイツら。
俺を蔑むリビルを崇拝するような表情で見つめるサフィ。
サフィだけでなく他の女冒険者も何処となく彼に色目を感じる視線を向けている。
見る限りハーレムのような構図。
まぁ奴は顔はいい方だ。毎晩メンバー達と✕✕✕や✕✕✕でもしているのだろう。
「……ベット内でイチャつけや、クソ」
聞こえぬほどに呆れた感情を呟き、先程のやり取りを記憶から振り払う。
そろそろ……俺も動くとしよう。奴らの動き方は大体把握した。
「マックス君、さっきから一歩も動かないけど体調不良かい? それとも勝負を棄権するのか?」
「まさか……そんなこと、ケツ穴晒すよりも屈辱的なことです」
一歩も動いていない自分に疑問を浮かべるステラに答え、ゆっくりと俺は歩き出す。
こういう時、全員の脳裏にインパクトが残るのは……一撃で全てを破壊する方法だ。
「やるか」
広大なる都市遺跡、俺は肉眼で捉えられる雑魚モンスター達を確認し標的を定める。
心身を統一させる深呼吸の末、俺は厨二病を発動する。
羞恥心? 黒歴史? 上等だ、奴らに衝撃を与えられるなら……なッ!
「クククッ、烏合の衆が。見るに堪えないタクティクスで我の目を腐らせるとは愚かな度胸をしている。所詮は醜い人の子か!」
「はっ?」
「何だあいつ?」
「カッコつけてね?」
蔑みと困惑が混じったような冒険者達の冷たい視線と言葉。
「リ、リビル様……いきなり何を言っているのでしょうかあの残飯は……気持ち悪っ」
「おい急に何だ何だ残飯君〜気でも狂ったのか? なんだよそのクソダサいカッコつけは、アッハハッ!」
リビル、サフィも最大限の見下しの言葉で俺を突き刺していく。
だがこれでいい、クサいセリフのお陰で俺に注目するようになった。
ここからが本番だ。
「貴様らに教えてやろう。我が純黒なるカオスの闇を持って真のタクティクスというモノをな」
刹那、上空に出現した魔法陣からは糸のように細い黒い線が生み出され、歪な弓の形を作り出していく。
弓構えをすると同時に純紫の矢が生成され勢いよく弦を引く。
「ダーク・アロー・クラスターッ!!」
闇魔法でもかなり強力な超級の技だ。
放たれた闇の矢は空間を歪ませるほどの速度と共に放たれ、徐々に分裂していく。
一本、二本、四本、八本……二乗するように矢は増えていきやがては蝗害のような数となって都市遺跡を覆う。
「んだよコレは!?」
「「うわぁああああっ!」」
「ヒッ!? 止めろ来るなァァ!」
一瞬にして闘争心を掻き消され混乱に満たされていく冒険者達。
「リビル様これは!?」
「何だ……何なんだッ!?」
リビル達も同様に攻撃の手が止まり、絶望でも見ているかのような目で矢の大群を見つめている。
呆気に取られている冒険者を矢は躱すように華麗に横切ると、モンスターに目掛けて一気に襲いかかる……!
何百本の矢が一体一体の身体の至る所に突き刺さり、俺が標的とした全てのモンスターは一撃であの世へと葬られた。
「っと……」
厨二病を解除すると一気に疲労が伸し掛かる。超級クラスの魔法だからだろう。
「う、嘘だろあんな数のモンスターを一網打尽にしただと!?」
「超級クラスの闇魔法を何故昨日までDランクだった奴が!?」
「何者なんだよアイツは……ッ!!」
驚愕と恐怖が入り混じる声。
先程までの余裕に溢れていた心は何処かへと消えている。
実に気分がいい、前世でのストレスも込めて全て発散出来た気がする。
「ほぅ、なんという力だ。少し訝しさがあったがギガ・レヒュアズを蹂躙したのも納得がいくかもしれない」
瞳孔が開くほどに目を大きくかっぴらきステラは興奮混じりの笑顔を俺に向けた。
やっぱりこの人……クールに見えて戦闘狂なのかもしれない。
「だがマックス君、君とリビルとの勝負内容は雑魚狩りではない、アトム・スマッシャーを先に破壊した者だ」
「分かっていますよ、そこで高みの見物でもしていてください」
モンスターの残骸広がる都市遺跡を俺はゆっくり歩を進める。
大半が困惑の視線の中、憤怒の瞳を露わにしリビルは近付いていく。
「貴様……一体何をしたッ! てめぇのような雑魚が超級クラスの闇魔法をッ!」
「何もしていない、超級魔法を使える。それだけのこと」
「ハッ! それで納得するとでも? どうせレッド・アシアンに手を出して不正でもして魔力を向上させてんだろ!」
「レッド・アシアン?」
「魔力を異常発達させる違法薬物に決まってんだろッ! そうでなきゃお前の力も説明がつかないッ!」
違法薬物なんてあるのかこの世界は……だがこいつの言うことは間違いではない。
薬物は違うがこの身体はソウルの力で魔法が超強化されている。
レッド・アシアンなる物に手を出したと思われても仕方ないかもしれない。
しかしマックスがこうなったのはリビルがイジメの一環で無理矢理ギガ・レビュアズのクエストを強制させたことが要因。
因果応報、当然の結果だ。
「知るかよ、勝負に負けた際の言い訳でも始めたのか? リビル」
「てめぇ……調子に乗るのも__」
鼻息荒くリビルが胸ぐらを荒々しく掴みかかろうとした、その時だった。
突然、都市遺跡全体が地震のように激しく揺れ始める。
「「ッ!」」
「な、何だ!?」
「地響きか!?」
「リビル様これは!?」
全冒険者が体勢を崩し、何事かとパニックが伝染していく。
激しい振動と共に地面が割れ、巨大な何かが現れる。
『キラァァァァ……!』
電子音のような機械的な鳴き声。
全長五十メートルはあるであろう巨体。
銀色の機械に覆われた皮膚。両肩には砲台のようなものが装備。
頭部には一本の角が生え、背中に生えた翼のような物はまるで竜を連想させる。
機械に塗れた巨体はアリを眺めるように俺達を6つの目で見下ろす。
「まさか……あれが……!」
凄まじいプレッシャー。
全細胞が悲鳴を上げている。
衝撃に備えろと命じている。
間違いない、あれがきっと奴だ。
「アトム・スマッシャー……!」
『キラァァァァァァァァァッ!!!』
これから起こる惨劇を予期するかの如く、悲鳴にも聞こえる咆哮が轟いた。
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